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『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ監督 単独インタビュー

2018年2月26日 更新

『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ監督 単独インタビュー

アニメやヒーローもののドラマ、コミックなど日本カルチャーからも多大な影響を受け、“オタク監督”として世界中の映画ファンから愛されている、ギレルモ・デル・トロ監督。最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』は、人間のヒロインと、半魚人のような生きものの、種族を超えた大胆かつピュアなラブストーリーを描き、またしても別次元の世界に観客を導く。同作はアカデミー賞でも最多となる13部門でノミネート。異形キャラクターへの愛や、映画作りのポリシーなどを、来日したデル・トロ監督が語った。

■細かい「装飾」を考えるのが大好き

■細かい「装飾」を考えるのが大好き

Q 現在、次回作までの休養をとっていると聞いています。それだけ『シェイプ・オブ・ウォーター』に満足したわけですか?

そうとも言えるかな。ここまでの達成感を味わったのは久しぶりだ。おいしいご馳走を食べて、「お代わりは、けっこうです」という状態(笑)。『シェイプ・オブ・ウォーター』は製作だけで5年かかり、ポストプロダクションも入れると6年になった。じつに複雑な作品なので、膨大な時間を要したのさ。

Q ヒロインが恋をする半魚人のキャラクターを作るだけで、3年もかかったそうですね。

クリーチャーを創造するときは、全体像はもちろん、絵画的な美しさや、細かい模様や質感を徹底的に追求する。それは『パンズ・ラビリンス』からのこだわりで、『ヘルボーイ』や『パシフィック・リム』で、その表現方法を成長させてきたんだ。いちばん好きなのは、クリーチャーの「装飾」を考える過程だね。

Q その装飾という点では、今回のクリーチャーは葛飾北斎の浮世絵を参考にしたとか。

北斎が描いた鯉のウロコの表現を取り入れたよ。僕はつねに絵画や彫刻からインスピレーションを受ける。日本の浮世絵もそのひとつだ。日本とヨーロッパの文化は、1800年くらいかけて影響し合い、エレガントなデザインを作り出してきた。今回のクリーチャーにも、時間や国境を超えた感覚を盛り込みたかったのさ。

■日本人アーティストの職人芸に感動

■日本人アーティストの職人芸に感動

Q 日本との関係で言えば、日本人の特殊メイクアーティストの辻一弘さんも、今回のクリーチャーに参加していますよね。

カズは『ヘルボーイ』でも、やはり半魚人のエイブ・サピエンの目の部分を担当してくれた。彼が作る目は、まるで宝石なんだよ。光を反射する透明の物質を何層も重ね、(クリーチャー役の)ダグ・ジョーンズの目の上に装着するんだ。ダグはその端の小さな穴から外側を見て、演技をした。カズが完成した目の部分をスキャンして、まばたきとか、視線を動かすとか、そういった変化をデジタルで合成した。そんな風に、クリーチャーのあちこちに職人技が生かされている。

Q 職人の技ということでは、1960年代を再現した美術や衣装もすばらしいです。

スクリーンに映らない部分にも、職人たちの手作業によって細かい工夫がなされている。そこまでこだわる必要はないかもしれないが、そうすることで、カメラマンや演じる俳優たちの気持ちが変わっていくんだよ。

Q そういったスタッフやキャストの関係で、あなたはよく引用する言葉がありますよね。

劇作家のブレヒトの言葉だね。「一日だけ勇敢な者は“グッド”。しばしば勇敢な行動をとる者は“ベター”。常に勇敢な行動を続ける者は手放してはいけない」という名言に、僕も従うようにしている。

■何度も泣いてしまうモノローグ

■何度も泣いてしまうモノローグ

Q その勇敢さという点は、あなたが映画で異形のクリーチャーへの愛を描く姿勢にも通じます。

こうした映画だけでなく、写真や絵画、文章などすべての創作物は、その人が世の中をどう見ているかの表れだ。だから僕の作品も、「このように世界を見ていますよ」という姿になっている。そういう意味で、自分が感じるクリーチャーへの愛を、多くの人に共有してもらいたいとは思ってる。でもそれって、ちょっと政治的だよね。モンスターを憎む映画を撮っても、モンスターを愛する映画を撮っても、どちらも自分の政治的立場を表しているわけだから。

Q 自分とは異なる他者を認められるか、憎むか、ということですか?

決めつけるのがよくないと思うんだ。何かを「正しい」としたら、残りすべてが間違いになってしまう。何かを「美しい」と決めたら、残りが醜いものになってしまう。人間でも、モンスターでも、「そのもの」として存在を認めるべきだと、僕は言いたい。社会全体でそういう考えが育っていけばうれしいけどね。

Q 『シェイプ・オブ・ウォーター』で、あなたが最も心を動かされるのは、どのシーンですか?

これまで撮ったどの映画でもそうだけど、オープニングとエンディングには心を動かされる。とくに今回は、リチャード・ジェンキンスによるモノローグがすばらしく、何度観ても泣いてしまうね。

Q 今回はフォックスサーチライトピクチャーズの製作で、すべて思いどおりに撮ることができたそうですが、その親会社である20世紀フォックスの主要部門をディズニーが買収することが発表されました。フィルムメイカーとして不安は?

それほど心配していないよ。ディズニーはこれまでもピクサーやルーカスフィルム、マーベルを買収したけど、それぞれの会社の特質を生かして作品を送り出している。サーチライトの作品は赤字を出しているわけじゃなく、質の点でも高く評価されているから、その独自のスタンスが維持されるんじゃないかな? まぁ僕はスタジオ側の人間じゃないから、何かを言える立場じゃないけど(笑)。

■表現が自由だった1930年代の映画に夢中

■表現が自由だった1930年代の映画に夢中

Q 今後、『ヘルボーイ』や『パシフィック・リム』のシリーズにはどう関わっていくのでしょう。

おそらくタッチすることはないだろう。『パシフィック・リム:アップライジング』も当初は関わっていたが、スティーヴン・S・デナイトが監督に決まってから、彼に全権を委任したよ。その後は、映像も一切、観ていないんだ。

Q では次回作のためにどんな準備をしているのですか?

今は1930年代に作られた映画をたくさん観て、次回作への刺激を受けている。ハリウッドでは1934年にヘイズ・コード(道徳的な側面から映画を検閲する制度)が実施され、それ以後は映画にさまざまな制約が作られた。ヘイズ・コード以前の映画には、悪い者が勝利して善人が敗北したり、女性が2人の男を愛したり、不倫をしたりと、自由な発想で作られた大人の映画がたくさん存在した。そうした映画の可能性や、映画本来の純粋な美しさを、今僕は吸収しているところだよ。

Q ということは『シェイプ・オブ・ウォーター』に続いて、再び愛の物語を撮りそうですね。

愛はロマンチックなものだけじゃないからね。親から子への愛、きょうだいや友人との愛、そして映画や音楽、アートへの愛……。金儲けをして権力をつかんでも、決して幸せとは言えない。親になったら、子供の幸せを願うようになるわけで、そうした愛こそ本物だよ。僕らクリエイターは幸せかもしれない。映画や脚本で、そうした愛を表現できるからね。

Q 親子の愛ということで、お父さんの病気が心配ですが……。

今もメキシコの病院に入院中だけど、状態は安定している。年齢も84歳だから、心配だけど……。

Q そのお父さんのためにも、アカデミー賞ではぜひ受賞できればいいですね。

ファンタジー要素が強い僕の映画が、アカデミー賞で受賞するのは簡単ではないだろう。でもこの映画は、まさに僕の作りたかったもので、もし評価してもらえるなら、アカデミーへの感謝を込めたスピーチをしたい。とは言え、授賞式に出られるだけで光栄だと思っているよ。
心から作りたい映画を完成させたとあって、うれしそうな表情を最後まで崩さなかったギレルモ・デル・トロ監督。「ゆうべは、しゃぶしゃぶで満腹! おいしかったよ」と言いながら、インタビュー中、うれしそうに目の前のテーブルに並んだお菓子をつまみ続けていた(お気に入りは「梅の香巻」だそう)。世界的な巨匠になっても、無邪気さが全開のそのしぐさは微笑ましいばかり。子供のようなピュアな心で異形のクリーチャーの物語を描くからこそ、デル・トロ監督の作品からは普遍的な感動がもたらされるのだろう。

取材・文:斉藤博昭 写真:永遠

映画『シェイプ・オブ・ウォーター』は3月1日より全国公開

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