ここから本文です

『ライフ』真田広之 単独インタビュー

2017年7月3日 更新

『ライフ』真田広之 単独インタビュー

宇宙ステーション内で起こる、未知の生命体の猛襲を描いた作品と聞けば、新鮮味がないのは仕方がない。『エイリアン』のヒット以降、この手のSF作品は雨後のタケノコのごとく作られているのだから。しかし、ハリウッド映画『ライフ』はこれまでのSFホラーとは異なる。全編が無重力状態で繰り広げられることがビジュアル的に斬新で、何よりリアリティーの重さが異なる。この快作は、どのようにして生まれたのか? 宇宙ステーション内の日本人クルーとして出演した真田広之が語る、本作のインサイド・ストーリーとは?

■テクニックはいらない、求められたのは自然体

■テクニックはいらない、求められたのは自然体

Q 出演者のひとりとして、本作にどんな魅力を感じたのでしょう?

近未来に起こりうる話だなと思いましたが、それをどれだけリアリティーを持って、信じられる作品として作れるかが勝負だったと思います。単なるB級SFであれば、今、このタイミングで作る必要もないだろうと思っていましたから。監督と話しているうちに、この人は本当にリアリティーを追求しているし、ありがちなエンターテインメントにはしたくないという意志を感じました。「これは信じられる、イケる」というのが、脚本を読んで監督と話をした後の印象です。

Q 真田さんは、多くのハリウッド映画に出演して、多くの才能ある監督と仕事をされていますが、今回のダニエル・エスピノーサ監督はどのような点が特徴的でしたか?

リアリティーへのこだわりはベースとして持っていらっしゃいますが、面白かったのは、テクニックは必要ないという考え方です。「本物を見せて欲しい、芝居をしないでくれ」ということはよく言われました。エンターテインメントを意識して妙に誇張したり、余分な装飾を付けたりすることを嫌っていました。本当はどうなのか? ということを求められました。

Q 具体的にはどういうことでしょう?

ちょっと芝居がかった演技をしたり、色気を出してみたりすると、スパッと見抜かれて、「そんなのはいらない」と言われました。英語のセリフということもあって、こちらはハッキリと発音しようとしますが、「そんなにはっきり発音しないでくれ、セリフに聞こえるから」と(笑)。表現することではなく、とにかく自然であることが望まれました。「その場で感じたまま、そのキャラクターとして息をしてくれれば、こっちはそのまま撮るから、何かを見せようとしないでくれ」ということですね。僕だけではなく、ほかの役者にもそうでしたし、スタッフにも同様のスタンスでした。とにかく、自然に見えるようになるまで何度も撮り直す。それが監督のこだわりだったと思います。

■画面に映っていなくても全力投球

■画面に映っていなくても全力投球

Q そのような作品を生み出す上で、どのような工夫がなされたのでしょう?

登場する飛行士は6人ですが、それぞれが宇宙ステーション内の持ち場についていて、インカムを通じてやり取りをします。たとえば、カメラで僕だけを撮る場面でも、そこに映っていない役者がインカムを通じて実際にセリフを言う。そして、その時に録られた声がそのまま映画に使われる。ですから画面に映っていなくても皆、本気で声の演技をしているんです。そうすることでリアルな空気が出せますから。役者同士の助け合いの精神というか、皆がその人の芝居が良くなるように、全力で感情を込めて話し掛けていました。より良い演技を引きだすために、誰もが本気でかかってくるし、自分もそれに応えようとする。そういうキャッチボールから、役者同士のチームワークが生まれたと思っています。

Q 共演者についておうかがいしますが、主演のジェイク・ギレンホールは『ナイトクローラー』等で演技派としての地位を上昇させていますね。彼はどんな役者でしたか?

撮影日は連日彼を筆頭に、「脚本ではこうだけれど、本当にベストなのか?」とディスカッションが始まるんです。「セリフはこうした方がいいんじゃないか? このキャラクターはこういう行動をとるんじゃないか?」というような意見を出してくるんです。それについて皆で、意見を出し合う。監督もそういう声を求める人だったので、スタッフを全員外に出して、監督と俳優6人が長い時は1時間から1時間半を費やして議論しました。土台が固まったところでスタッフを呼び、彼らに見せるためのリハーサルを行なう。それを見てスタッフはどう切り取るのかを吟味する……という流れでした。それを最初にやり出したのがジェイクでした。より良いモノを追求する人ですね。

Q 『デッドプール』で知られるライアン・レイノルズはいかがでしたか?

とにかくアドリブの天才ですね。監督とは『デンジャラス・ラン』に続いて2度目のコンビですから、監督も信頼を置いていて、「お前は何を言ってもいいよ」と言っていました(笑)。ジョークのシーンも丸投げされていたので、彼は毎テイク違うことを言ってきました。こっちも毎テイク本気で受けるし、本気で返さないといけないプレッシャーはあるのですが、彼のアドリブは毎回心から笑えてしまうんですよ(笑)。それをこらえて、冷静さを保つのが大変でした。しかもそれは常に的を射ている。どこから出てくるんだ、この引きだしは! というくらいアイデアの宝庫でしたね。

■実はリアルでアナログな撮影現場

■実はリアルでアナログな撮影現場

Q 全編無重力状態での演技はいかがでしたか?

ワイヤーで吊るされた状態で演技をするわけですから肉体的にはハードでした。特に、何人かが同時に飛ぶ時は全員がうまくできないとOKにならない。役者だけではなく、ワイヤーを操るスタントのチームとの息も合わないといけないし、カメラマンが動くタイミングもあるし、セットを動かすスタッフのタイミングもある。それが合わないと最初からやり直し。とにかく、皆の息が合わないといけない。何十テイクも撮り直してOKが出ると、そこで皆、歓喜して、より強固な連帯感がまた生まれました。

Q 撮影後にCG処理されることは意識しましたか?

現場はかなりアナログでした。宇宙映画の撮影にありがちな合成用のグリーンスクリーンは、まったく見なかったですね。宇宙ステーションの窓から見える宇宙の風景以外は、すべてがセットで作られていました。船内の装置やコンピューターもちゃんと反応するので、役者はどのスイッチがどう反応するのか全部覚えないといけない。後の合成を見越して、目の前にこういうものがあると想像して演じるのも俳優の仕事ですが、このセットではすべてが目の前にある。環境が整っているので、この場所でこのキャラクターで生きてください、という感じでした。役者にとってはある意味幸せな環境でした。反面、プレッシャーもありましたが、役者たちは何か月も経験したわけですから、チームワークは非常に良かったです。それが、長い間一緒に生活している宇宙飛行士という設定に、うまくオーバーラップしてくれれば……という思いは、すべての役者やスタッフにあったと思います。
本作が過去のSFエイリアン映画と異なることが、インタビューからうかがえた。作り手がサイエンスフィクションと現実性という、相反する要素を結びつけようとしたのは、真田の言葉からも明らかだ。劇中で宇宙ステーション内を襲撃した未知の生命体は驚くべき変化を遂げる。同様に、SFホラーの流れの中で、ジャンル的に飛躍的な進化を遂げる作品もある。『ライフ』は、まさしくそういう作品なのだ。

取材・文:相馬学 写真:日吉永遠

映画『ライフ』は7月8日より全国公開

本文はここまでです このページの先頭へ