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『君が君で君だ』池松壮亮 単独インタビュー

2018年7月2日 更新

『君が君で君だ』池松壮亮 単独インタビュー

『アズミ・ハルコは行方不明』などの松居大悟監督が、長年温めてきた完全オリジナルストーリーを自ら映画化した『君が君で君だ』。憧れの女の子(キム・コッピ)を思うあまり、自分の名前を捨てて、彼女が大好きな尾崎豊、ブラッド・ピット、坂本龍馬になりきった3人の男たちの10年にもおよぶ純愛が描かれる。尾崎豊になる男にふんした池松壮亮が「想像以上にハチャメチャ」と自己評価するほど、ぶっ飛んだ演技を見せる本作。ブラピ(満島真之介)、龍馬(大倉孝二)とともに異常なほどの純愛に魂を注いだ撮影を振り返った。

■ハチャメチャだけど手応えあり

■ハチャメチャだけど手応えあり

Q 松居監督とは3作目のタッグとなりますが、とても息が合っている感じがしました。

2012年に「リリオム」という舞台で出会って以来の付き合いですね。映画は今回で3作目ですが、テレビドラマやプロモーションビデオなどでもたくさんご一緒しているので、なかなか「ご縁があるな」と思っている監督の1人です。

Q とにかく破天荒でぶっ飛んだ作品でした。池松さんの率直な感想は?

初めて台本を読んだときも、実際に撮影をしているときも、正直、それほどぶっ飛んだ感じはなかったんです。ところが、撮影が終わって半年後に完成作品を観させていただいたら、もう……想像以上にハチャメチャで(笑)。ぶっ飛んだのが上がってきたなと思いましたね。僕ら、こんなに狂っていたんだと。

Q 最初は確かに異常な世界だなと思いましたが、観ているうちに、役者さんの熱量で登場人物たちがだんだん愛おしく感じてきました。

こういう作品って、どうしてもお芝居の志向が「笑わせる」方向に行ってしまいがちなんですが、そういうところはなるべく排除していこうという話はしました。松居さんの作品には、毎回、ちょっと痛いキャラクターが出てきて「もういいよ」って思うんですが、観ていて30分くらい経つと、ものすごく切なくなってくるんですよね。そこは彼の得意とするところだと思います。

Q 表現は異常でも、ものすごく人を好きになるとか、死ぬ気で生きるとか、今の時代に欠けている“情熱”が伝わってきました。

僕自身、世の中にあまり引っ張られずに生きてきたつもりでいましたが、いったん俳優を離れて、2018年を生きる人間・池松壮亮として客観的にこの作品を観たとき、確かに狂ってはいるけれどハッとさせられたというか、驚きがありました。1年くらい作品と向き合ってきましたが、手応えを感じています。

■父親と尾崎豊を大合唱

■父親と尾崎豊を大合唱

Q 尾崎豊を“演じる”のではなく、“なりきる”青年を演じたわけですが、難しさはありましたか?

本人のキャラクターで「このシーンはこうすべきだ」ということと、「尾崎豊だからこうあるべきだ」という2つの面を自分の中で混ぜ合わせて役を積み上げていったという感覚はあります。“なりきる”男なので、まるまる尾崎さんを演じるわけではなく、尾崎さんが残していった真理みたいなものを忍び込ませていくような作業でした。

Q 尾崎豊のことは、演じる前からよくご存じでしたか? 世代的にはちょっと開きがありますが。

実は僕が物心ついて初めて覚えた曲が、尾崎さんの「僕が僕であるために」だったんです。僕は1990年生まれで、尾崎さんが1992年に亡くなっているのでリアルタイムでは知らないのですが、父親がファンだったので、保育園の送り迎えのときに2人で大合唱するのがお決まりでした。尾崎さんの曲はほとんど知っていて、歌詞もすべて覚えているんですが、いつも自分の体の中に流れている感じがするんですよね。

Q なるほど。尾崎豊さんへの思いが画面にあふれていたのは、そのせいですね。

うちの父もそうですが、尾崎豊に影響を受けた人がたくさんいて、そこからまた枝葉のように分かれて、さらに細かくその枝葉が分かれて、自分の中に入ってきた……そんな感覚ですかね。

■純愛を語る松居監督に気持ちが揺らいだ

■純愛を語る松居監督に気持ちが揺らいだ

Q 映画のキャッチコピーに「純情か、異常か」とありますが、この作品で描かれた愛のカタチは池松さんにはどのように映りましたか?

ものすごくピュアな純愛だと思いますね。ただ、なぜこういうカタチになってしまうのか、松居監督に聞いたことがあるんです。監督は「僕は人を好きになると、その人になりたくなる」って言われたんです。つまり「同化したくなる」らしいんですが、そのときは意味がわからなくて(笑)。ただ、話を突き詰めていくと、その思いにたどり着くまでのプロセスになんとなく自分も身に覚えがあることがわかって。なるほど、純愛といってもいろいろなカタチがあるんだなと気づかされたんです。

Q 松居監督の純愛論に共感されたわけですね?

僕自身が尾崎さんの曲に影響を受けているくらいですから、わりとロマンチストで、「人を愛する」ということを口には出さなくても、心の中でずっと考えてきたほうだと思うんです。でも、自分の中に人を愛することの「定義」みたいなものが仮にあったとしても、松居監督の価値観によってそれが揺らぐんですよね。「あれ? 人を好きって言っているけれど、俺ってこの程度なのかな?」って、まんまと揺らいでしまうんですよ。

■現場では散々な目に遭った(笑)

■現場では散々な目に遭った(笑)

Q 撮影は楽しかったですか?

いや、現場は酷かった。散々な目に遭ったんですよ! 部屋の中は暑くて臭いし、髪の毛やひまわりも食べさせられるし。首輪つけられたり、階段から落ちたり……もう大変でした。出なきゃよかったと思いましたね。まあ、これは冗談ですけど(笑)。

Q いい思い出もあるでしょう?

やっぱり、あの夏、ブラピと龍馬と過ごした日々ですね。3人で同じ人を見つめ、同じ思いを寄せながら一緒にいる瞬間が一番ロマンチックで、高揚感もあって、かけがえのないものでした。何よりもその思いが蘇ってきます。

Q 満島さん、大倉さんとの共演はいかがでしたか?

満島さんとは何かで共演したいとずっと思っていたので、一緒にいられることがすごくうれしかった。太陽のような存在なので、映画を作るうえでも芝居と対峙するうえでも、本当に助けられましたね。大倉さんとも初共演だったんですが、非常に懐が深くて20代のワチャワチャした僕らと一緒になって遊んでくれて。何なら大倉さんが一番楽しんでいたかもしれませんね。そもそも大倉さんが坂本龍馬を名乗っていること自体がおかしい(笑)。

Q キム・コッピさんの存在もこの映画では大きかったですね。

松居監督が自分の「恥ずかしい部分」をさらけ出すような作品に、よくぞ飛び込んできてくれたなと思います。コッピさんはすごく気持ちのよい方で、みんな彼女のことが大好きだったんですよ。日本語は完璧ではないし、人を愛することも国によって価値観が違う。韓国では理解されないようなことも描かれているんですが、そういうものもすべて飛び越えて来てくれるなんて、なかなかできることではないと思うんです。

Q みんなの思いが結集した本作、観客にどう受け入れられると思いますか?

よく狂っていることを宣伝文句にしていても、本編を観たら全く狂ってない映画も多いんですが、この作品は本当に狂っています(笑)。観客の方々にどう受け止められるか、どんな反応が返ってくるか、正直なところ心配ではありますが、本当にピュアな純愛が描かれているので、観終わったら、ぜひ感想を聞いてみたいですね。あ、でもやっぱり、ちょっと怖いな(笑)。
どんなに過激な役でも、肝を据えて堂々と演じてみせる池松が、珍しく「これ、ちょっとやりすぎだったかな……」と一抹の不安を覚える“尾崎豊になりきる男”とは、いったいどんな男なのか? そのうえ満島がブラピ、大倉が坂本龍馬とくれば、聞いているだけでハチャメチャだ。壊れた“純愛”が暴走する松居ワールド全開の本作に、観客はどこまで食らいついていけるのか。レッドカードぎりぎりのラインで、池松が狂い咲く。
スタイリスト:Babymix ヘアメイク:FUJIU JIMI

取材・文:坂田正樹 写真:高野広美

映画『君が君で君だ』は7月7日より全国公開

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