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『夜明け』柳楽優弥 単独インタビュー

2019年1月15日 更新

『夜明け』柳楽優弥 単独インタビュー

是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004)で鮮烈な映画デビューを飾った柳楽優弥が、是枝監督の愛弟子である広瀬奈々子監督の初監督作『夜明け』で主演を務めた。近年は『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)や『銀魂』シリーズなどで個性的なキャラクターを演じてきたが、『夜明け』では周囲の期待を重荷に感じてしまう等身大の若者を繊細に演じてみせている。本作での、コミック原作ものとは異なる役へのアプローチ、自身の体験を投影した役づくりについて語った。

■撮影が始まらないと何もわからない怖さと楽しさ

■撮影が始まらないと何もわからない怖さと楽しさ

Q 久々にナイーブな役ですね。是枝組出身の広瀬監督からのオファーはどのように感じましたか。

僕のデビュー作は是枝監督の『誰も知らない』なので、是枝監督がつくった会社「分福」の映画に参加できることは、素直にうれしかったです。広瀬監督が書いた脚本を読むと、登場キャラクターたちの心情が丁寧に描かれていたので、人間の深いところにしっかり向き合える作品だなと感じました。ここ最近は漫画原作ものや、個性の強い役が続いていたので、すごくいいタイミングでのオファーでした。

Q うれしい反面、是枝監督の存在を意識する部分もあったのでしょうか。

そうですね。是枝監督の作品でデビューしたという経歴も汲んで僕を起用してくださったと思うので、ちゃんと応えたいと思いました。

Q 福田雄一監督の連続ドラマ「アオイホノオ」(2014・テレビ東京系)や映画『銀魂』シリーズなどコミックの実写化作品に出演することも多いですが、やはり役づくりの仕方は違いますか?

すでに作品が世に出ているものだと、その作品やキャラクターのファンがいるわけですよね。それに対してオリジナル作品は蓋を開けてみないと何もわからないので、どうしても役との向き合い方は変わります。今回の場合は脚本を読んだだけではまだわからず、現場に入ってみないとつかめなかったんです。そういう作品に出演するのは、すごく怖いんですが、逆に楽しくもあって。どんな作品、どんな役になっていくんだろうというワクワク感があります。

■小林薫がいるだけで現場の偏差値が上がる

■小林薫がいるだけで現場の偏差値が上がる

Q 柳楽さんの演技を受け止めるのは、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017)でも共演した小林薫さん。組みがいのあるベテランですね。

小林さんと大河ドラマで1年近く一緒に過ごすことができたのは、貴重な体験でした。小林さんがいるだけで現場の“偏差値”が上がるんです(笑)。現場の空気が引き締まるし、頼りがいもある。今回はオール千葉ロケだったんですが、撮影期間の限られている作品の場合は、俳優同士の信頼関係も大きく作品に反映されます。棟梁としての小林さんがいて、その横で鈴木常吉さんが小林さんの話を聞いていて、少し離れたところで僕と YOUNG DAIS さんとで別の話をして……。役の関係がそのまま現場での雰囲気になっていて、すごくいい感じでロケを過ごすことができました。

Q 柳楽さん演じる流れ者のシンイチに対し、哲郎(小林薫)たち木工職人はみな優しく接する。居心地がいいはずだった木工所なのに、次第にシンイチは息苦しさを感じるようになってしまいます。細やかさが求められる演技だったのでは?

僕が心掛けたことは、とにかく自然なリアクションをすること。もちろん芝居ではあるんですが、素の自分を出すように努めました。多分、シンイチは、器用に生きられないタイプだと思うんです。僕もこう見えて、意外と緊張しやすいんです。舞台に出ると共演者から「柳楽を見ると安心する」とよく言われていて(笑)。自分より緊張したり、悩んでいる人を見ると、逆に落ち着くことってありませんか? 僕の演じるシンイチに、それに似たものをみなさんに感じてもらえればいいなという気持ちもありましたね。

Q シンイチは他人との距離の取り方に苦心する、若い世代の代表でもあるようですね。映画の中で小林さんやDAISさんを相手にあたふたしている素の柳楽優弥を、観客は楽しんで観ていいと?

ええ、そんなふうに楽しんでもらえれば、僕としてもありがたいです(笑)。

■カンヌ受賞の喜びを実感できたのは大人になってから

■カンヌ受賞の喜びを実感できたのは大人になってから

Q シンイチが哲郎の背中をマッサージする場面が中盤にありますが、何だか柳楽さんが是枝監督の肩を揉んでいるような印象を受けました。

僕が是枝さんの肩を揉んでいる!? その見方、面白いです(笑)。確かにそれって、第三者である広瀬監督じゃないと撮れないシーンですね。

Q シンイチは哲郎たちの期待をプレッシャーとして感じるようになりますが、柳楽さんも『誰も知らない』でブレイクした直後は周囲の期待に戸惑いを感じていたのでしょうか。

それはありました。カンヌ国際映画祭で男優賞をいただいたことは本当にうれしかったし、そのお陰で俳優としてやっていくことができて、感謝していることが大前提としてあるのですが、カンヌで賞をいただいた直後に他の作品でも高いレベルの演技を求められたものの、当時の僕は「これ以上を求められても何もできない」という不安がありました。どうすればいいのかわからずに悩んだ時期も10代の頃はあって、カンヌで賞をいただいたありがたさを冷静に受け入れられるようになったのは、いろんな体験を積むことで自分に少しずつ自信が持てるようになってからです。そういう僕自身が感じた葛藤も今回の作品に反映できればいいなと思いました。

■監督にインタビューしてみたい

■監督にインタビューしてみたい

Q シンイチは、子どもの頃はサッカー選手を目指し、以前は飲食店でアルバイトをしていたという設定になっていますが、この辺りも柳楽さんの実際のプロフィールを生かしているそうですね。

そうですね。やはり、自分が体験したことだからこそのリアリティーがあると思います。でも、広瀬監督がどんなふうに物事を考えて、人間の深い部分を見つめているのか、僕自身がすごく気になっています。現場でじっくりお話しする機会がなかったので、僕が広瀬監督にインタビューしてみたいですね(笑)。

Q 是枝監督から「30代で、またタッグを」というメッセージを受け取ったそうですね。

もちろん是枝監督の作品には、また出させていただきたいです。男は8の倍数、女性は7の倍数のときに、いい出逢いがあると聞いています。ですから、僕がまた是枝監督の作品に出るのは32歳くらいの頃じゃないかなぁと(笑)。この間も是枝監督からメールをいただきました。『ベイマックス』(2014)の主人公の少年は、『誰も知らない』に出ていたときの僕がモデルになっているらしいんです。『誰も知らない』は、今も世界中にいろんな形で影響を与えているんだなと考えるとテンションが上がりますよね。是枝監督からまた声を掛けていただけるよう、もっと俳優として大きくなりたいと思っています。
家出少年を主人公にした「海辺のカフカ」(蜷川幸雄演出、2012年上演)で初めて舞台に挑戦し、李相日監督の『許されざる者』(2013)で柄本明と共演したことも、柳楽にとって大きな刺激となったようだ。役者として同じ演技をするにしても、取り組み方や意識を少し変えることで、それまでとは違った視野が得られるようになったという。『夜明け』の主人公・シンイチは周囲から期待されることを負担に感じるが、果たして最後にどのような決断をするのか。ラストシーンの柳楽の表情が秀逸だ。
(C) 2019「夜明け」製作委員会

取材・文:長野辰次 写真:上野裕二

映画『夜明け』は1月18日より全国公開

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