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『斬、』池松壮亮 単独インタビュー

2018年11月19日 更新

『斬、』池松壮亮 単独インタビュー

世界の映画ファンが待ち焦がれる塚本晋也監督の新作。戦争のむごさを伝えた『野火』に続いて、『斬、』では初めて時代劇に挑戦した。舞台は江戸時代末期。主人公は剣の達人でありながら、人を斬ることに疑問を持つ浪人、杢之進。劇中、人の命を奪ってしまう武器である刀を手にしながら、「生とは? 死とは?」を自問し続ける主人公を凄まじい熱量で演じた池松壮亮が、敬愛する塚本監督の熱い期待に応え、渾身の演技を披露した胸中を語る。

■これまで時代劇と距離をとってきた理由

■これまで時代劇と距離をとってきた理由

Q 塚本晋也監督にとって、初めての時代劇だそうですが、ワクワクする組み合わせですね。

話を聞いた時は嘘かと思いました。塚本晋也監督という人は僕のなかでものすごく偉大な人でしたし、しかも最近の塚本さんは見ていてわかるほど、とにかくストイック。まさかこんなタイミングでご一緒できるなんて。僕が一番、ワクワクしたと思います。

Q 池松さんはこれまでも時代劇に出演していますが、塚本さんの時代劇となると、やはり違いますか。

実は自分にとって時代劇はあまり身近なものではなくて、ほかの俳優さんたちと比べると、むしろ距離をとってきた方だと思っているんです。時代劇って、時代設定だけでエンターテインメントになりうるパワーを持っていて、絶対に失ってはいけないジャンルだとは思ってはいるんですけど、僕はその時代のこともよく知らないし、歴史も弱かったし、ジャンルとしてやりたくなかった。様式美みたいなものはどの世界にもあると思うんですけど、そういうものが美化され過ぎると、ちょっと違うなぁと思っていた矢先のこのお話でした。今回は時代劇という感覚はあまりなくて、プロットを読んだ時に感じたのは、時代劇でありながら、現代劇で戦争ものだということ。だから、自分ではそこまで時代劇ということにとらわれてはいません。

■自然のなかで聞いた初めての音とは

■自然のなかで聞いた初めての音とは

Q 杢之進はどういう人なんだろうと魅きつけられるキャラクターですね。相当、減量もしたのではないですか。

減量を目標にしてはいませんでした。映画を作る過程で、自分の感覚、精神などを僕なりに研ぎ澄ませようとした結果、痩せていったんです。それが役に向かう時間だったのかもしれません。だから、何キロ減量目標みたいなことはまったくやっていないんですけど、一か月、役と向き合って準備した結果、体重はかなり落ちたと思います。体重計に乗っていないので、正確な数字はよくわからないですけど。

Q その期間はどのように過ごしていたのでしょう?

殺陣がありましたから、今回は相当、準備させてもらいました。週一で一か月くらい稽古していくことで、肉体から役に近づいていく時間みたいなものを得られたので、それは大きかったです。立ち居振る舞いなど、徐々に決めていく時間が一か月もあったのは日本映画にしてはなかなかない、贅沢な期間だったと思っています。

Q 殺陣はライブのようですが、決まっていたんですか。

もちろん殺陣は決まっているんですが、塚本さんは人間の肉体みたいなものをずっと描いてきた人ですから、「塚本さんが時代劇をやるとこうなるのか」と僕自身もちょっとしびれました。

Q 決まった殺陣でも自然のなかで演じることでまた違った発見がありそうですね。

本当にそうです。役柄のせいかわかりませんが、暮らしている東京では見えなかったものが撮影していた山形ではたくさん見えてくるんですよ。虫たちが鳴いていて、鳥が自由奔放に飛び回っていて、ヘビや蛙がいて、素晴らしい夕景と朝焼け、目の前には何も見えないような完全な夜の闇がある。周囲には圧倒的な自然がありました。そんなところで人生で初めて、Jアラートを聞きました。ミサイルが飛んでいたんです。僕たちは刀に執着する人間の映画を撮っていて、頭上には同じような鉄の武器が飛んでいる。不思議な体験だったし、すごく美化して、仰々しくいうなら、「人間が始めたことを人間が終わらせる時代に入ってきているのかな」と思いました。映画や戦争だけじゃなく、世界のさまざまな問題が淘汰される時代になってきているのかと。僕らを取り巻く自然界からしてみると、そんなこと、知ったことじゃなくて、それがまた面白かった。あんな経験、初めてです。

■蒼井優は日本映画界の宝

■蒼井優は日本映画界の宝

Q 急に現実に引き戻されたのではないですか。

そうですね。でも、それがすごくこの映画にいいように作用して、言い方は悪いですけど、だからこそみんなが「この映画をなんとか発表しなきゃいけない」という気にさせられました。まさに杢之進が感じていたような一日一日を刻んでいく感覚。「また朝が来てしまった。夜が明けてしまった」という感覚を受けて、変な使命感に駆られていました。

Q ヒロインの蒼井優さんとはこれまでも共演していますが、お互いの存在がより演技の精度を高めていったように思います。

それはものすごくありますね。語弊を恐れず言うと、日本の女優でも群を抜いてトップクラス、世界に誇れる人だと思いますし、日本映画の宝物のような存在。たぶん、お会いしてなくてもそう思っていたと思います。蒼井さんとは僕が12歳の時の初めてのドラマ「うきは -少年たちの夏-」でも一緒でしたし、その後の初めての日本映画『鉄人28号』では主役とヒロインという関係でした。それ以降、3、4年に一回は必ずどこかで会っていたんですが、今回、このタイミングで主役とヒロイン。なんか大人になって初めてちゃんと向き合うような気分なんです。どこかでがっつり組む時がくるんだろうなとは勝手に思っていましたが、「それがここか!」と思うとやっぱり感慨深いです。相乗効果になっていたらいいですけど、とてもじゃないけど、恐れ多い。蒼井さんに引っ張ってもらった部分が大きい。現場にいるだけでみんなが映画に向かえる。女優さんとしての才能はもちろん、人格的にも素晴らしい方で、だいぶ助けられました。

■蒼井優に次いで、共演率が高いのは実はあの人

■蒼井優に次いで、共演率が高いのは実はあの人

Q 杢之進も蒼井さん演じるゆうも、二人が演じることで、それぞれの歩んできた物語を感じられます。

やっぱり映画って時間が限られていますから。それでも、人間の想像力って果てしなくて、たった一度、会うだけでも、どんな人か想像できたり、その人となりから生まれるものを感じられたりする。ましてや、物語となると、その枝葉から垣間見られるものがたくさん、あります。例えば、蒼井さんの役柄を見れば、これがどんな映画かがわかることもあると思うんです。蒼井さんを通じて、作品を解釈するお客さんもいっぱいいると思うので、僕なんかとうてい及ばない。やっぱり、すごい女優さんだと思います。

Q 蒼井さんとの距離感は10代と比べて、変わってきましたか。

10代の頃は「よく会う人」というくらいの印象です。圧倒的に蒼井さんとの共演が多かったんです。たぶん、過去に共演回数が多いのは、蒼井優さんと光石研さん。なぜか一緒の作品にいるんです。光石さんも福岡出身なんですけど、なにかあるんだろうな(笑)。

Q 同郷のシンパシーはあるんですか。

普段は全然、ないんですよ。そんなのあんまり関係ないですし、どうでもいいと思っている。僕も蒼井さんも光石さんも博多弁でしゃべり合うわけでもありませんから。それでもよく会うので、どこか親戚の人みたいな感覚があったんですが、今回、蒼井さんとこんなに毎日、顔を合わせて、いろんなことを話しながら時間を過ごしたのは初めてで、やっぱり面白い人でした(笑)。
訥々と話すいい声に聞き惚れそうだが、映画では圧倒的なエネルギーで人の生き様を突き付ける。「このもの静かな青年のどこにそんな力が」と不思議でたまらない。映画だから伝えられることを誰よりも大切にしている人。そして、伝えたいことがちゃんと伝わるよう、しっかりはっきり話す。「映画は過酷」というが、もっともっとと高みを目指す彼自身が自分を追い込んでいるのは明らか。名だたる映像作家が放っておかないわけである。

取材・文:高山亜紀 写真:奥山智明

映画『斬、』は11月24日より全国公開

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