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『来る』松たか子 単独インタビュー

2018年12月3日 更新

『来る』松たか子 単独インタビュー

妻夫木聡、黒木華演じる若夫婦の仲を引き裂き、周囲の人間にも脅威が及んでいく“謎の訪問者”の正体とは? 第22回日本ホラー小説大賞に輝いた澤村伊智の「ぼぎわんが、来る」に基づく本作で、『告白』以来、約8年ぶりに中島哲也監督とタッグを組んだ女優の松たか子が、日本最強の霊媒師・琴子にふんする。久々の中島組に、昂る気持ちを抑えながら「心を空っぽにして臨んだ」という松が、撮影の裏側を振り返るとともに、本作で初共演を果たした岡田准一、小松菜奈との刺激的な体験について語った。

■どんな「音」も逃さない中島監督の凄さ

■どんな「音」も逃さない中島監督の凄さ

Q 約8年ぶりの中島監督作品ですが、やはり気合いが入りましたか?

中島監督だから、というわけではなく、どの現場に入るときも、「雰囲気はどんな感じだろう?」「監督のイメージに応えられるだろうか?」と毎回、不安と緊張でいっぱいです。ただ、『告白』も今回の作品も、普通のテンションで過ごせるようなお話ではないので、「どんなことがあっても、そこに立ち続けなければならない」という覚悟は必要でしたね。

Q 実際に現場に入られて、中島組は以前と雰囲気が変わったところはありましたか?

スタッフさんの働きぶりを撮るだけで、1本の映画ができるくらい皆さんの熱量がものすごくて。撮影は確かに大変でしたが、「何かが生まれそう」な雰囲気は、『告白』のときと同じで。そこが全く揺らいでなかったのが素敵だなと思いました。

Q 中島監督には、何か特別な演出法があるのでしょうか?

中島監督は、映像も独特の捉え方をされますが、同時に「音」にも大変なこだわりがあって、ちょっとした声の高さだったり、スピードだったり、一瞬空いた間(ま)だったり、役者の気持ちが音に出るところを絶対に聞き逃さないんです。それこそ耳を疑うくらいに(笑)。逆にいうと、そういう姿勢がすごく信頼できるところでもあるので、その判断を頼りに琴子役を探っていった感じですね。最初のころは、中島監督のイメージしているものがなかなかつかめず、すごく不安で、毎日落ち込んで帰る日々が続きました。

■琴子は相当おかしい人?

■琴子は相当おかしい人?

Q 松さんが演じる琴子は「日本最強の霊媒師」という特殊な設定ですが、ハードルは高かったですか?

最初の衣装合わせのときに、中島監督と久々にお会いしたのですが、そのときは「今回は、松さんが『面白い!』と思ったことをどんどんやってみてください」と声を掛けていただいたような気がします。琴子という人物に関しては「正義のヒーロー的存在とか、人間離れしたサイボーグ的存在というよりも、どこかユーモラスなものを感じさせるキャラクターではないか」と中島監督から言われたときに、「あ、なるほど」と腑に落ちて。そういう風には考えていなかったので、それ以降、琴子を少し楽しみながら演じることができるようになった気がします。

Q 黒を基調とした衣装と大きなサングラス、淡々とした口調やクールな佇まい……ビジュアル的にもインパクトがありましたが、ある意味、登場人物の中で最も荒唐無稽と言える琴子のキャラクターを、どのように作り上げていったのでしょう。

外見的には、「中島監督のイメージにハマるかどうか」みたいなことはあったと思いますが、「とりあえず、いろいろやってみましょうか」という感じで決めていったと思います。パーソナリティーに関しては、例えば、誰かと話をしながらも、常に先を考えている頭の良さがあったり、無駄だなと思うことは一切しなかったり。そういうスマートさが琴子にミステリアスな魅力を与えているかもしれませんね。人によっては冷たく見えるかもしれないし、信頼できる人に見えるかもしれない。ある人は怖いと取るかもしれないし、もしかすると面白いと取る人も中にはいるかもしれない。

Q 何はともあれ、ものすごくインパクトがありました(笑)。

確かにすごかったですよね(笑)。中島監督やスタッフさんの努力の賜物です。わたしは、自分の演技を観るのがあまり好きではないし、観たところで何もできないし、言い訳もできなくなるので、モニターチェックは一切しないんです。だから、仕上がった映像を観て、「あ、こんなことがやりたかったんだ」とか、「こんな風に撮っていたんだ」とか、いろいろ発見することが多くて驚きますね。

■岡田准一を殴り飛ばす!

■岡田准一を殴り飛ばす!

Q 琴子を客観的に見ると、どんな風に映りますか?

相当、おかしい人ですよね(笑)。例えば、岡田さんが演じるオカルトライターの野崎を「邪魔だから」という理由で殴り飛ばすって……すごい人だなぁと(笑)。

Q 岡田さんといえば、ジークンドーなど格闘技のインストラクターの資格をいくつも持っている猛者ですよ! それを一撃で倒すとは(笑)。

そうですよね! でも、今だから申し上げますが、それがやりたくてこの役を引き受けたっていうのも正直ありましたから(笑)。

Q 今、岡田さんのお名前が出ましたが、初共演の感想は?

何と言うのかな……ものすごく熱いけれど、淡々と仕事に向かうところが、すごく「自立」しているなという印象です。いい距離を保ちながら現場にいらっしゃる感じで。でも、ただ傍観しているのではなく、熱いものがどんどん伝わってくるというか、それがとても刺激的でしたね。

Q 琴子の妹・真琴を演じた小松さんも初共演ですよね。

あのファンキーな衣装や髪色が似合うのは、小松さんしかいないのでは? と思わせるくらいカッコよかったし、かわいらしかったです。華奢なんだけど弱々しくはない、ちょっと骨太な感じが、わたしにはすごく心地よかったです。ご本人は真琴役に対してグツグツと思いを巡らせていましたが、あまりこちらに同意を求めず、淡々と演じているところが岡田さん同様、自立しているなと思いました。むしろ、わたしの方が2人に助けられたことが多かったんじゃないかと。

■「男座り」はこうして生まれた

■「男座り」はこうして生まれた

Q 松さんは、絡むのはほぼ岡田さんと小松さんのみだったと思いますが、特に印象に残っているシーンは?

何でもないといえば、何でもないシーンなんですが、岡田さんと病院前のベンチに座って、タバコを吸いながら言葉を交わすシーンが、個人的には楽しかったですね。セリフは決まっているし、そこで伝えることも限りはあるんですが、「あ、このままずっとしゃべっていたいなぁ」と思ってしまって。たまにそういう瞬間があるんですが、何でですかね? 理由はよくわかりませんが、すごく心地よかったです。

Q 松さんの「男座り」がイナセでした(笑)。

(笑いながら)あれは監督からそういう風に座ってほしいと言われたので、それに従っただけなのですが、でも、ものすごく高いヒールだったので、もはや普通には座れなくて。一応、足を組んだり、伸ばしたり、いろいろ試してはみたんですが、最終的に、足を開いて座る、という感じですね。

Q 実はホラー映画が苦手だそうですが、この映画で克服できましたか?

いえいえ、全然克服できていません。例えば、そろそろ何か出て来るな、というときには、目線をサッとそらしたり(笑)。出演者はこのタイミングで来るというのがわかるから、逆に怖いんですよね。昔一度、ホラー映画のオファーをお断りしたことがあるんですが、それは、怖いプラス、恐怖の表情がピカイチでないと出ちゃいけないものだと勝手に思っていたからなんです。わたしは多分、どんなに演じていても、目の奥は怖がっていないと思うから。実際は怖がりなんですが、それとお芝居で表現することとは違うんですよね。今回は、怖がる側ではなかったのもありますが、中島監督からオファーされたら、「断る」という選択肢は……ないですから(笑)。
劇中、松が演じる霊媒師・琴子が登場すると、それまで淀んでいた空気が一変し、物語のスピードも一気に加速する。黒の衣装に身を包み、そこに佇んでいるだけで有無を言わさぬ貫禄があるのは何故なのか。ミステリアスな霊媒師、という役柄もあるが、松が発する肝のすわったオーラは、やはり松にしか出せないもの。何があっても、そこに立ち続けなければならない「覚悟」が、ケタ違いの奥深さで根を張っているのかもしれない。
(C) 2018「来る」製作委員会

取材・文:坂田正樹 写真:中村嘉昭

映画『来る』は12月7日より全国公開

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