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『祈りの幕が下りる時』松嶋菜々子 単独インタビュー

2018年1月25日 更新

『祈りの幕が下りる時』松嶋菜々子 単独インタビュー

東野圭吾の人気ミステリーを映像化した『新参者』シリーズがついに完結。最終章となる今回の劇場版では、阿部寛ふんする主人公・加賀の母の失踪の理由をはじめとした過去が明らかに。そして、一人の女性の殺人事件から浮上する演出家・浅居博美を演じるのは松嶋菜々子。物語のキーパーソンとしてシリーズ初参戦した松嶋が、役や本作のテーマでもある「親子」について語った。

■悲しみが深いからこそ、あえて笑顔で

■悲しみが深いからこそ、あえて笑顔で

Q 松嶋さんが演じた博美という役はとても難しかったのでは?

そうですね。小さい頃に両親がいなくなって、一人で生きていかなくてはいけなくて。いろんなものを背負いながら、どうにかたくましく生きていく姿をどう見せるか、ということは確かに難しかったです。闇の部分も持っている人物だということを念頭に置いて取り組みました。

Q 今回の役のためにしたことはありますか?

実生活で何かに取り組んだというわけではありませんが、この博美役は、悲しみが深いからこそあえて笑顔を作るというか。あえて何事もないようにするやり方もあるなと思いながら演じていました。

Q 物語の鍵となる複雑なキャラクターですが、一番苦労したことは?

子ども時代のパートが要所要所に出てくるからこそ、見え方として、どこまでのどういう表現をするのかというのはすごく大事でした。何通りかあるなと思いながら現場に行って、福澤監督と話し合いながら方向性を決めていきました。

■役は引きずらない

■役は引きずらない

Q ヒットメーカーとしていくつも代表作がある福澤克雄監督は、どんな演出をされる方ですか?

細かい指示は出されず基本は好きなようにさせてくださる監督です。気持ちをガツンと爆発させちゃってくださいと言われることのほうが多く、抑えるよりも発散するお芝居をそのまま画面で伝えるという演出をされる監督なので、激しさみたいなものは秘められていると思います。

Q 人物としてはどんな方ですか?

体育会系なので、ぶつかり合いが好きな熱いタイプの方でしょうか。画面には熱さをそのまま伝えたいという。ちょっとした表情の違いや心の揺れをくみ取りながらも大きく動かして、観ている人に感じさせる演出をされますね。

Q 何とも言えない表情で涙を流すシーンが脳裏に焼き付きましたが、監督とどういうやりとりをして生まれた表情なのでしょう?

監督からは「子どものように」という指示があったので、そのようにしました。これしかないという気持ちで現場に入るのではなく、何通りもの気持ちの表現がある中、監督と相談して決めました。

Q 実際に現場でいくつかのパターンを監督の前でやって見せるのですか?

まず自分の思う表現をテストで1回やってみて、「ここは、こちらの表現で」と監督が決められて、「わかりました」という感じです。

Q 何回も何回もやって、あの何とも言えない涙のシーンが完成したのかと思いました。

想像の世界の中ですので、どういう気持ちになるんだろうといくつも考えて。きっとどれも正解なのですが、全体の流れを全てわかっていらっしゃる監督が出した答えは腑に落ちます。

Q 役を引きずることなく、オンとオフは切り替えられるほうですか?

大体はメイクをして衣装に着替えるとその気分になるので、普段からあまり役を引きずることはないです。

Q 壮絶な過去がある役柄なので、共感できる要素も少なかったのでは?

そうですね。でも、役を演じるうえで共感が全てではないと思っていて。その環境に身を置かれたらおのずとそうなっていくというか、想像しえないこともたくさんあると思うので。まず台本で自分の役柄を読むときに、正しいか正しくないかというよりは、どこまで同情し理解しようと努められるかということですね。

Q 今回の役ではどういうところに気持ちが寄り添えましたか?

自分の思いとは関係なく、相手が望むこと、自分の大事な人が望んでいるならと思いやること。そこが切なくもあり、大切にした感情でもあります。

■親子・変化・今後

■親子・変化・今後

Q ドラマ・映画と続く新参者シリーズの一つのキーワードに「親子」があると思いますが、松嶋さん自身はどんな親子の形が理想ですか?

理想形は特にないのですが、家族って血がつながっているけど他人、けど切っても切れないものですよね。付き合い方がすごく難しいのも家族かなと思います。

Q まさに新参者シリーズで阿部さんふんする加賀刑事が解きほぐしてきたような親子関係ですね。

そうですね。もともとこの新参者シリーズを観させていただいていて、「刑事ものでこういう切り口から読み解いていく方法があるんだ。新しいな」とハッとしました。なぜその事件が起きたのかを掘り下げることによって結末が見えてくるという。行動を理解することで点と点がつながっていくような。そこが新参者シリーズの良さの一つだと思いました。家族だからこそ、こじれたらこじれ続けてしまう悲しさ。もし他人なら、こじれたら距離を置けばそれで済むけれど、そうはいかなかったり。そういう難しさみたいなものが家族関係にはあるように思うので、家族や親子ってすごく考えさせられるものですね。

Q 血はつながっているけど、他人。その通りですね。

それぞれ人格が違い、自分と一緒ではないから理解できないこともありますよね。そういう意味では、一生諦めることなく理解しようと努め合い助け合えるというのが家族なのかもしれません。

Q 10代から今までいろいろな役柄を演じてきて、実感する変化はありますか?

生まれ育った環境が土台となるものなので、今でも私自身はそんなに大きく変わらないのかもしれません。結婚や出産、新しい作品の経験によって何かが生まれるというよりは、それを消化してきた自分がスパイラルするように年を重ねて、変わっているように見えるというか。

Q 意外です。

あの年のあの時だったから、その役ができたし、その時のその役は、その時にしかできないと思います。もしも今、同じ台本でも、違うものに絶対なります。やはり20代、30代、40代と環境が違うのは当たり前で、経験を積んだから自分が変わるというのは、なんだかちょっと違う感じがしますね。

Q 今後こういうふうになりたいなど、思い描いていることはありますか?

今後のことはあまり考えないのですが、そうですね。存在感のある俳優になれたらいいなとは思います。セリフがなくてもそこにいてもらいたいと思われるような役者に最終的になれたらと。そこにはきっと、積み重ねてきた努力の何かがあるのかなとも思います。

Q 最後に、この映画の一番の魅力はどんなところだと思いますか?

事件を解決させることだけではなく、やはり家族愛が描かれているところですね。怒りや切なさ、全ての感情が入っているので、とても奥深いものを感じていただけるのがこの映画の魅力だと思います。
自然体でやわらかい雰囲気を放ちながらも真摯に受け答えする言葉の端々から、松嶋のプロフェッショナルな姿勢が垣間見えた。華々しい経験におごることなく目の前の役に寄り添うからこそ、難役でも難なくこなすことができるのだろう。松嶋と阿部の魂のこもった演技・やりとりは必見だ。

取材・文:編集部・小松芙未 写真:高野広美

映画『祈りの幕が下りる時』は1月27日より全国公開

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