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『銃』広瀬アリス 単独インタビュー

2018年11月12日 更新

『銃』広瀬アリス 単独インタビュー

雨が降りしきる夜の河原で、偶然、銃を拾った大学生の西川トオル。やがてその銃は、彼の心のなかで圧倒的な存在となり、眠っていた狂気を目覚めさせる……。村上虹郎を主演に迎え、芥川賞作家・中村文則の処女作を『百円の恋』の武正晴監督がモノクロームで映画化した衝撃作『銃』。徐々に常軌を逸していく主人公・西川(村上)に、唯一、手を差し伸べるヒロイン・ヨシカワユウコを演じた広瀬アリスが、「気付いたら、のめり込んでいた」という本作の魅力について思いの丈を語った。

■作品のなかで唯一、天使のような存在

■作品のなかで唯一、天使のような存在

Q 偶然、銃を拾ったことで理性をなくしていく西川(村上)と広瀬さん演じるユウコは、恋愛一歩手前の微妙な関係。彼にとってユウコはどんな存在だったと思いますか?

クランクイン前から武監督に、「この作品のなかで唯一、彼に救いの手を差し伸べてくれる天使のような存在であってほしい」と言われていました。撮影に入ってからもずっと。直接的な恋愛シーンはありませんが、なんとなく近い存在というか。モノクロームの映像ですが、2人のシーンだけは、ほんの少し淡い色が付いたような、そんな「印象」が残るシーンになればいいなと思いながら演じていました。

Q ユウコは、西川に何か自分に近いものを感じていたようにも見えました。

そうですね。ユウコ自体も、これが恋愛感情なのか、何なのか、実はまだあやふやなんですよね。でも、彼の存在がすごく気になるという感じで。最初に、ユウコが西川くんの頭をクシャクシャってやりながら声をかけるシーンに、その思いがあふれていたと思うんですが、あそこは念入りに、何度も何度もリハーサルをしました。

■虹郎くんとは、遠すぎず、近すぎずの距離感

■虹郎くんとは、遠すぎず、近すぎずの距離感

Q 村上さんはかなり西川役にのめり込んでいましたね。

毎日虹郎くんと会っているのに、毎日違う人と会っている感覚になっていくんです。どんどん役に染まっていくというか。西川くんって、いつも白シャツを着ているんですが、それが会うたびにどんどん黒くなっていく感覚っていうのかな。濃さが増していくような感じに見えました。

Q 初めての共演、どんな印象を持たれましたか?

ひと言で言えば、役への入り込み方が強烈でした。だから、撮影期間中はあまり話ができなかったのですが、インタビューや対談などで、表情豊かにいろんなことを熱く語っている姿を見て、「あ、虹郎くんって、こういう人だったんだ」って初めて知って、ちょっと驚いています(笑)。

Q 撮影中は、そんなに近寄りがたかったのですか?

あえてというか、お互いに少し距離を取る方が心地いいのかな、という感じでした。わたしも役によって、相手との距離感を考えるんですが、今回の西川くんとユウコの関係性を保つには、撮影の合間にあまりベラベラしゃべらない方がいいような気がして。「遠すぎず、近すぎず」という微妙な距離感を作るためには、少しおしゃべりするときも敬語で話すとか。だから、お互いのことを知ったのは、撮影が終わってから。まさにいろいろ取材を受けている今日なんですよね(笑)。

■泥臭くて人間味のある美しい作品

■泥臭くて人間味のある美しい作品

Q 西川は「銃」を手にしたことで胸にくすぶっていた思いが表面化し、ブレーキが利かなくなります。広瀬さんは普段、どのように感情をコントロールしていますか?

生きていく上で、我慢をしない人なんていないと思うし、ストレスがたまらない人もほとんどいないと思うんですが、皆さん、その感情をどうやってコントロールしているんですかね。わたしはいまだに明確な方法があるわけではないですが、今回の作品のなかで西川くんが手にした「銃」って、逆にわたしならブレーキになるなって思いました。「これを使ったら絶対にダメ!」っていうわかりやすいものがあると、それが救いになったりするような気がしたんですね。もちろん、銃なんて持っちゃいけないですが。

Q 確かに「銃」を軸にいろんな感情が芽生える作品ですね。

これは虹郎くんが言っていたんですが、西川という男の感情が「日記」のように描かれた作品だなって。人によって態度を変えたり、いろんな表情を見せたり、西川くんって実は「色」のある性格で、感情豊かな青年。それをあえてモノクロームで表現しているところに強いメッセージが込められているなと思いました。

■言葉で言い表すことができない「感情」

■言葉で言い表すことができない「感情」

Q 幼児虐待や家庭崩壊など社会的問題がバックボーンにありましたが、西川の言動や行動から、広瀬さんご自身は何を感じましたか?「世の中は死んでいい人間であふれている」という西川の言葉が衝撃的でした。

この作品は、全てがとてもリアルで生々しくて、きれいに描いてないところがわたしはとても素敵だなって感じました。人間の悪いところ、黒い部分を隠すことが世の中では普通になっていると思っていて。それを全部さらけ出しているところがすごい。西川くんが言っていることが正しいとは思わないけれど、ただ、この作品を観ていたら、いつの間にかその世界観に入り込んでいたというか、西川くんの善悪の区別がつかなくなって呑み込まれていく姿に共感している自分がいたんですよね。それがこの作品の面白いところでもあり、怖いところでもあると思います。何が善で、何が悪か、だんだんわからなくなっていく感覚になります。

Q 語るのが難しい作品ですが、それを広瀬さんなりの言葉で表現すると、この作品はどんな映画だと思いますか?

この作品を観終わったあと、「人間って何だろう」という思いが湧いてきて、銃はもちろん、人も怖くなったし、電車も怖くなったし、いろんなものを怖いと感じました。でも、その反面、すごく泥臭くて人間味にあふれた作品なので、その複雑な余韻にとにかく浸っていただきたいです。衝撃もあれば、恐怖もあるけれど、言葉で言い表すことができない「感情」がこの作品にはすごくたくさん描かれているので、その美しさも感じ取っていただけるとうれしいです。
快活だけれど、心に何かを抱えた女子大生・ユウコを可憐に演じた広瀬。役のために共演者と距離を取る徹底ぶりは、村上と同様に演技へのストイックさを感じさせる。遠からず、近からず、恋愛感情一歩手前の微妙なニュアンスを陰影豊かに表現する広瀬のパフォーマンスに、女優としての進化がキラリ。歳を重ねるごとに、作品を重ねるごとに、輝きを増すその存在感には、目を見張るばかりだ。

取材・文:坂田正樹 写真:奥山智明

映画『銃』は11月17日より全国公開

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