
入江喜和の同名漫画を『独立少年合唱団』の緒方明監督が映画化した『のんちゃんのり弁』。だらしない夫を捨てた31歳の子持ちが、心機一転して子育てに奮闘する姿をコミカルに描く。本作でヒロインにふんした小西真奈美は、夫役の岡田義徳とのど派手な乱闘シーンに挑戦するなど、これまで見せたことのなかった新たな一面を見せている。初めての子持ちママ役や体当たり演技の裏側などについて、たっぷりと語ってくれた。
■小巻の女性としての強さに惹(ひ)かれた

Q
脚本を読んだ感想はいかがでしたか?
- まず脚本を読んだときに、子どもという守るべきものがあるのに、お金もないし仕事もない、そういう女性が社会的に成長していく姿を描きたいのだろうと思いました。それから彼女は、よく面倒をみて導いていくというお母さんっていうよりは、自分がまずしっかり生きて、生きる姿勢を見せることで、のんちゃんに素直な子どもに育って欲しいという考えを持った人だとも感じました。そして、劇中で小巻が見せる女性としての強さに惹(ひ)かれて、ぜひこの役を演じたいと思いました。
Q
緒方監督とのお仕事はいかがでしたか?
- 監督は、演技のことや、そのときの感情をあまり説明しないんです。わたし自身、頭で演技プランを組み立てて、「こうしたい」という方ではないので、まず体でやってみるところから入りましたね。監督は、違うことは「NO」、いい演技なら「素晴らしい!」とおっしゃる方なんですよ。白黒はっきりさせる方だったので、とても演技しやすかったですね。
Q
岡田義徳さんが演じる、小巻のだんな・範朋は本当にダメな夫という印象でした。ああいうだんなを選んでしまった小巻のやるせなさには、共感できましたか?
- 範朋は、本当はとても愛情深いキャラクターで憎めない人だとは思うんです。そんなだんなが結婚して一緒に生活するうちにダメになっていったのは、小巻自身にも責任があると思っているんじゃないかと思います。だからこそ、あのだんなを見ているのがつらいんだと思います。子持ちでもないわたしの勝手な解釈なんですけど(笑)。
Q
結婚している、いないにかかわらず、相手と別れたいのに別れられない女の子って多いと思うんです。小巻は、すごくきっぱりと別れを決断したように見えましたが、小西さんは、どういうタイプですか?
- わたしは、別れたいって思うまでのスパンがすごく長いと思います(笑)。別れようかなって思いながら、距離をとってみて、また戻ってってことをする前に、別れようと思うまでに時間がかかるんです。ダメな彼氏でも何でも、まずは「いったいどうすればこの人は、よくなるんだろう……」って悩みながら、あの手この手を出し尽くして、それでもダメだったら、別れるって答えがようやく出てくる。それが決まれば、行動に踏み切るのは早いんですけど(笑)。そこまではわりと慎重に考えてしまいますね。
■本番はテンションが二割増しに!

Q
岡田さんとの殴り合いのシーンには、とにかく圧倒されてしまいました。
- あの殴り合いのシーンは、ほんとうにけがをするスレスレのところなんです。物も壊したりするので、何度も撮影できないんです。安全第一で戦いましたね(笑)。もちろん前日にリハーサルはしたんですが、やっぱり本番になると、わたしも岡田さんもテンションが二割増しになるんです(笑)。そうすると本当に、稽古ではなかったハプニングが起きちゃうんですよね。でもカットの声も聞こえないから、必死に続けた結果がそのまま使われているんです。
Q
実際に出来上がったシーンをご覧になった感想はいかがですか?
- バカだなぁ、この人たち。なんでこんな小さいことで、こんな大ゲンカしてるんだろう(笑)って。実際、あのシーンを観ながら、なぜか泣けてきちゃったんですよ(笑)。それが、自分としては面白かったですね。
Q
小巻の猫パンチ攻撃がかわいかったです。
- あれはもう必死だったんですよ(笑)。で、後で観ると、子どものけんかですよね、完全に(笑)。どうやったらけんかできるんだろうってことを必死に考えたんです。アクション指導も、殴るところに関しては教えてもらったんですけど、あとドタドタ戦うところはもうアドリブなんです。けがのないようにどうぞって言われていましたが、小巻の中の「ウワ~~~! だんなめ、もうワ~~~~!」っていう思いが出せるように頑張りました。仕上がりを観て本当にびっくりしました(笑)。
■子持ち体験から学んだこと

Q
バツイチ子持ちの役を演じたことで、何か感じたことはありましたか?
- 生活の糧は必要だけど、自分の子どもに対して恥ずかしくない生き方をしなくては、というところのバランスですよね。自分の仕事のことを堂々と語れるように、恥ずかしくない生き方をしなければいけない。そういうバランスを取るのってすごく大変だって思いましたね。
Q
小巻を演じられて、家族というものに対してどんなことを感じましたか?
- 確かに、家族は一緒にいたほうがいいし、子どものためにも離婚しない方がいいっていう意見はあると思うんです。でも、子どもって大人が思っているほど何も考えていないわけじゃないから、仲が悪い両親と一緒に暮らしている方が不幸になる場合ってあると思うんです。その点、小巻みたいなお母さんとだったら、お父さんがいなくても子どもと二人で幸せに生活していけそうですよね。
Q
最後に、作品を観る方々には、どんなところを楽しんでもらいたいですか?
- 結局、小巻は何もない状態で飛び出してきたけど、自分できちんと生きる道を見つけました。全身全霊で「これをやるんだ!」と。自分で決めて、胸を張ってわが道を生きていく。離婚した後、自分がどう生きるか、どう子どもと接していくかの方が大事なんだってことを、この映画に出演して考えさせられました。もし、何か決断できなくて悩んでいる女性がいたら、ぜひ小巻の生き方を観て参考にしてほしいです。

取材・文:シネマトゥデイ 写真:尾藤能暢