
映画『EUREKAユリイカ』『サッド ヴァケイション』の青山真治監督が、およそ4年ぶりとなる長編作品『東京公園』を完成させた。本作は、カメラマン志望の大学生・光司が、ある不思議な依頼をきっかけに、身近な存在だった人たちと向き合っていく姿をみずみずしく描いた物語。光司を等身大で演じた三浦春馬、光司の幼なじみで親友の元カノ・富永役の榮倉奈々、義理の姉・美咲役の小西真奈美、そして、ミステリアスな女性を演じた井川遥が、青山作品に初出演した感想や、撮影時のエピソードを明かした。
■青山監督は健康オタク!? 意外な素顔にビックリ!

Q
青山真治監督4年ぶりの新作に、期待している映画ファンも多いと思います。まずは、オファーを受けたときの感想から聞かせてください。
- 三浦春馬(以下、三浦)
- 青山監督は、人間の心の奥底をえぐり取るような作品を撮る方なので、腰が曲がった白髪のおじいちゃんのようなイメージを勝手に持っていたんです。だから、実際にお会いしたときはビックリしました。「あれ? おじいちゃんじゃない!」って(笑)。絶対に緊張すると思っていたのに、すごくフランクな方だったので、楽しく撮影ができそうだなと思いました。
- 榮倉奈々(以下、榮倉)
- わたしは、監督のこれまでの作品が哲学的だったので、その精神世界のような映画に自分が入っていけるのか、ちょっと怖かったんです。脚本を読んだときも、監督の意図をつかむことができるのか不安になってしまって・・・・・・。だから、監督とお話する機会を設けてもらったんですけど、8割が腰痛の話で終わってしまって、「あれ?」みたいな(笑)。でも、監督と健康話をしているうちに、わたしがいろんなことを考え過ぎていたのかな、と反省するようになったんです。それからは、この作品に参加することを楽しめるようになりました。
- 小西真奈美(以下、小西)
- わたしは、最初に脚本を読んだとき、すごく気持ちがオープンになれるようなさわやかさを感じたんです。この作品を、独特の映像感覚を持つ青山監督が撮ったらどんなふうになるのだろう? という期待が大きかったですね。ちなみに、わたしが監督とお話したときは、9割5分が肝臓の話でした(笑)。「肝臓にはカキがいいらしいですよ!」って言ったら、「じゃあ、ひと箱買います!」っておっしゃって、素直な方だなーって思いました。
- 榮倉
- やっぱり、監督は健康に興味があるんですね(笑)。
- 井川遥(以下、井川)
- 監督はいつもニコニコしている方なんですけど、初めて衣装合わせでお会いしたときはこだわりを感じました。「もっと強い衣装を」と何度もおっしゃっていたのが印象的でしたね。わたしの役はロケ場所の公園が持つ自然の強さの中で、異質な存在感を放っていなければいけなかったんです。監督と役のイメージを共有するために衣装を決められたことはとても大切だったと思います。
■3人の女優が三浦春馬を大絶賛!

Q
三浦さんは、それぞれ違った個性を持つ3人の女優さんたちに、現場で引っ張られた部分があったのではないですか?
- 三浦
- それはありますね。光司は受身の役だと思っていたので、それぞれの女優さんのリズムに合わせられたらいいなと思っていましたし、引っ張っていただいたというのは間違いないです。(と言いながら小西をじっと見る)
- 小西
- なんでわたしを見るんですか(笑)?
- 三浦
- 僕、小西さんの「先にお風呂入るよー!」ってサバサバ言うシーンがメチャメチャ好きなんです!
- 小西
- ええー!?
- 榮倉
- あー、すごくわかる!
- 井川
- それまであった空気を一瞬にして変えられるってスゴイですよね。実はすごく難しいお芝居だったと思います。
- 小西
- わたしは、本当にお風呂に入りたかっただけなんですけど・・・・・・。
- 一同
- (爆笑)。
- 小西
- でも、わたしのほうこそ、三浦さんに引っ張ってもらったような気がしています。三浦さんは何でも受け止めてくださるような、大きな器の方なんですよね。
- 井川
- わたしも三浦さんを見ていて、どんな方にも同じ距離感で話しかけられていて、静かなリーダーという印象を受けました。「オレについて来い!」ということではなく、逆に受身でいられるところに懐の深さを感じたというか。
Q
なるほど。榮倉さんも、三浦さんの器の大きさを感じましたか?
- 榮倉
- んー、そうですね・・・・・・。
- 三浦
- 無理して合わせなくてもいいから(笑)。
- 榮倉
- いや、本当にそう思います(笑)。
■撮る側は武装、撮られる側は丸裸!

Q
光司と富永の近しい距離感がすごくリアルでした。三浦さんと榮倉は、現場でも積極的にコミュニケーションを取っていたのですか?
- 榮倉
- 撮影の合間もセットの居間のコタツで普通に過ごして、お互いにケータイをいじっているときもあったし、すごく盛り上がってしゃべっているときもあったし、とにかく自由にマイペースに過ごしていました。
- 三浦
- お互いに同じコタツに入って、そこに監督もいたりして、ボーっとしている時間が多かったですね。
- 榮倉
- そのまったりとした空気の中で、2人の関係をつくっていったような気がします。
Q
井川さん演じる謎めいた女性と、彼女を盗み撮りする光司との微妙な関係も見どころですよね。
- 三浦
- 光司の妄想で、ものすごく近い距離から彼女を撮るシーンがあったんですよ。どういうスタンスで撮ればいいのか迷ってしまって、「じゃあ、やってください」と監督から言われたとき、井川さんと2人で「どうしましょう?」ってなっちゃって・・・・・・。
- 井川
- お互いにすごく違和感があったよね(笑)。
- 三浦
- でも、光司は彼女の写真を撮りたい気持ちでいっぱいだったと思うので、「楽しんじゃえ!」って吹っ切るようにしました。
Q
逆に、光司が小西さん演じる美咲にカメラを向ける場面は、緊張感が漂っていましたね。
- 三浦
- あのシーンでは、まったく息ができなかったです。カットの声がかかった瞬間に、「ブワー!」って思いっきり呼吸をしていました。
- 小西
- ああいうシチュエーションでカメラを持って迫られるのって、自分の中身をさらけ出していかなければならない状況に追い込まれることでもあるんですよね。三浦さんがカメラを外して、目と目が合った瞬間に、ものすごい安心感がありました。撮る側は武装しているのに、撮られる側は丸裸にされているような感じがして、すごく緊張しました。
■4人がケジメをつけたいこととは?

Q
それぞれが抱えていた問題にケジメをつけていく登場人物たちですが、皆さんは、「ちゃんとケジメをつけたい」とか、「ここは変えていきたい」と思っていることはありますか?
- 榮倉
- いっぱいあり過ぎちゃって、ここでは言えないかな(笑)。
- 小西
- わたしもそうですね(笑)。
- 井川
- ケジメとは違うかもしれませんが、わたしは子育ての真っただ中にいるので、自分の習慣が子どもに取り入れられていったり、無意識でやっていることや、口グセなども移っていくらしいので、生活の中で改めなきゃいけないことがたくさんあるような気がしています。
- 三浦
- 僕は、周りの人たちとの距離感を変えていきたいです。友達でも仕事上の仲間でも、もうちょっと踏み込んでいきたいなと思っています。そうしたほうが新しい自分を発見できるだろうし、視野が広がるような気がするんです。もっと勇気を持って前に進んでいきたいですね。

取材・文:斉藤由紀子 写真:吉岡希鼓斗