『マリリン 7日間の恋』ミシェル・ウィリアムズ 単独インタビュー
2012年3月26日 更新

没後50年にして今なお輝き続ける、不世出の女優マリリン・モンロー。彼女が新境地を開こうと1956年に初めて海外で映画撮影をしたときに年下の英国人青年と恋に落ちていた! 映画『王子と踊子』のスタッフだったコリン・クラークの回顧録を基に映像化した『マリリン 7日間の恋』で、その真相が明かされる。本作や『ブロークバック・マウンテン』『ブルーバレンタイン』でもオスカー候補となった女優ミシェル・ウィリアムズが初来日を果たし、世紀のスターを演じる難しさとプライベートを語った。
■初来日!好きな日本語は「もしもし」!?

Q
ようこそ日本へ。初来日ですが何か観光プランはありますか?
- スタッフまかせだから詳しいことはわからないけど、小旅行(京都行き)を計画しているみたい。娘のマチルダにどんなお土産を買おうか迷っているの。
Q
日本での映画撮影や、日本の監督と一緒に仕事することを考えたことはありますか?
- もちろん。ぜひやってみたいわ! でもね、日本語がまったくしゃべれないから……。(日本語で)コンニチワ、アリガト、モシモシが好きな言葉よ。日本で暮らすアメリカ人の役ならできるかしら。
Q
お嬢さんは本作をご覧になったのですか?
- この前、娘と一緒に飛行機に乗ったらちょうど機内上映していたの。マチルダが気付いて「あ、ママ!」と大はしゃぎしちゃって。なんだか恥ずかしくて「静かに」って慌ててなだめたのよ。でもね、マリリンが涙するシーンでは「どうして泣いているの?」って心配されちゃったわ。
■マリリン・モンローを演じるとは?

Q
世紀のスターを演じるという大変さ、お察しします。
- とても、とても難しかったわ。これほど難しい役柄を演じたことはなかったもの。自分が想像しうる範疇(はんちゅう)を超えていたわ。
Q
本作に惹(ひ)かれた理由は?
- 初めて脚本を読んだときに「演じたい」と思えるキャラクターだったの。思い返しても不思議よね、なんら演じる準備をしていない状態だったのに。だからあとになって「なんという大変な企画にかかわってしまったのかしら」と気が付いたの。だって、わたしったらマリリンのことをほとんど知らなかったんですもの。準備に10か月かけたけれど、欲をいえばもっと時間が欲しかった。その間に彼女のありとあらゆることを調べたし、出演作や書籍をベッドの中にまで持ち込んで、自分の中に彼女をしみこませていった。そうしてわかったの。マリリンがいかに真剣に物事に取り組んでいたか、いかにデリケートで思いやりがあったか。それに、抱えていた悲しみの深さには驚いたわ。彼女の人生そのものに強い衝撃を受けたという感じかしら。
Q
マリリン・モンローを意識したのはいつごろか覚えていますか?
- 子どものころはベッドの横に彼女のポスターが張ってあったから、毎晩彼女に見守られるようにして眠りについていたの。最近になって、あのポスターは誰が選んだのかしら? と気になって母に尋ねたら「あなたが自分で選んだのよ」って。ショッピングセンターの売り場で、ほかのポスターには目もくれずに選んだんですって。運命? うーん、ある意味ではそうかもしれないけれど、きっと大勢の女の子がマリリンのポスターを張っていたと思うの。わたしはその一人に過ぎないわ。ただ、すごく惹(ひ)かれていたことは間違いない。「マリリンを演じるために生まれてきたの」なんて言えたらかっこいいけれど、それはおこがましいわ。
Q
実際演じてマリリンの気持ちがわかった! と思える瞬間はありましたか?
- あったわ。というより、キャラクターを理解できなければ演じることは難しいものなの。いろいろな人が彼女に対するイメージを抱いているでしょう。だけど、わたしが軸にしたのは部屋に飾っていたポスターから自分が受けたイメージ。芝生の上で手を広げたポーズで、まるで自然の一部のように純粋な表情を浮かべていた。何ものにもとらわれない自由を感じたわ。
Q
軸がしっかりあるからこそ、マリリンの多面性を見事に演じ分けられたのですね。
- どうもありがとう。この作品では『王子と踊子』の再現シーンは女優としてのマリリンだけど、それ以外のシーンはコリンが記憶するマリリンを演じた。そして女優として認められたいと願いながらも、実像と虚像とのはざまで葛藤(かっとう)する姿も。世間が抱くイメージは彼女自身が作り上げたものだとわかるのが、この物語の特徴の一つになっているわ。
■英国の大御所からハリポタのエマまで豪華な共演陣!

Q
歌や踊りも吹き替えなしですよね?
- 独学だけど、12歳のころから歌と踊りにあこがれていたの。近所の児童センターのミュージカルでは裏方とコーラス担当で(笑)。だから舞台の中央で歌って踊れるなんて、ついに念願がかなった! という感じ。うまく踊ろうとは考えないで、純粋に舞踏会を楽しむ気持ちで臨んだ。3週間ぐらい特訓したけど、素晴らしいスタッフのおかげで撮り終えられたのよ。
Q
イギリス期待の若手エディ・レッドメイン(コリン役)やエマ・ワトソン(ルーシー役)との共演はいかがでしたか?
- エディとは多くのシーンを演じたから素晴らしい俳優だと言い切れる。それに役柄そのままの好青年。そして劇中ではコリンとルーシーとマリリンが三角関係っぽくなるんだけど、エマと同じシーンがあまりなくて。でも人柄ならわかったわ。彼女はとても謙虚。だから次々と幸運に恵まれるのよね。
Q
その一方でベテランのケネス・ブラナーとジュディ・デンチも。お二人から何かアドバイスはありましたか?
- 大先輩の演技を間近で見られるのよ! いっぱい観察したわ。アドバイスいただけるものならありがたく受けるけど、往々にしてしないものよ。その代わりに彼らは絶対的な信頼を与えてくれるの。言葉ではなくて、瞳で「信頼している」って、それが支えになりマリリンを演じる自信に結び付いたわ。
Q
撮影中の印象的なエピソードといえば?
- マリリンとコリンが日帰りでウィンザーに出掛けて、テムズ川に飛び込むシーン。とてもお天気の良い日に撮ったんだけど、水の中はとっても寒かったの。テストもあったし本番でも数回入って、エディもわたしも冷えきって歯がカチカチ鳴っちゃうほど震えたし体が紫色になってしまったのよ。
■美の秘けつは睡眠と幸福と愛!

Q
美しさの秘けつは何でしょう?
- なんといっても睡眠ね(笑)。マリリンも良く寝ていたそうよ。あとは幸せだと感じることかしら。そして最も大事なのが愛。愛に囲まれていると女性は美しくなれると思うの。
Q
休業して子育てに専念されるといううわさを耳にしましたが……。
- 休業宣言をしたわけじゃないのよ。わたしの職業は特殊で、作品に携わる期間とそうでない期間があるでしょ。ちょうどサム・ライミ監督の撮影が終わったので、次のお仕事に入るまでは母親らしいことをしなくちゃね、という意味なの。だからまた良い新作を持って日本に来るわね、約束するわ!
取材・文:南樹里 写真:吉岡希鼓斗