
北杜夫の同名小説を山下敦弘監督が映画化した『ぼくのおじさん』。山下組初参加となる松田龍平が演じるかなり変わり者の「おじさん」を、注目の子役・大西利空が演じる「ぼく」こと春山雪男の目線で描くホームコメディーだ。ダメなおじさんと、ぼやきながらも彼をサポートするしっかり者の甥・雪男の、ある意味バディムービーともいえるかもしれない。この年の差コンビの誕生の秘密に迫る。
■松田は大西の起用に反対だった!?

Q
初めて会ったのはクランクインの前ですか?
- 大西利空(以下、大西)
- はい。オーディションのときに初めて会いました。
- 松田龍平(以下、松田)
- 雪男役が利空に決まる前に、山下監督の要望で、4~5人の子供たちと、僕が一緒に芝居をしたんです。僕が台本を読んでイメージした雪男は、もうちょっと人に対してあまり目を合わせられないタイプだったんですけど、利空は爽やかでキラキラしてて。
- 大西
- えー(笑)?
- 松田
- いいスマイルだなーって。今だから言うけど、雪男にはちょっと違うなって思ったんですよ。山下さんにも、利空はクラスのリーダーもできそうなタイプだけど、雪男はできないタイプじゃないかって話をしました。でも、山下さんから「雪男はナレーションもあるし、声が通る、ちゃんと芝居ができる子がいい」と言われて「あ、そうだな」と。
Q
松田さんの印象はいかがでした?
- 大西
- 室内に入ってきたとき、「え!?」ってびっくりしました。「オーディションに来るの!?」って。
- 松田
- 見たときどう思った? 怖そうとか思った?
- 大西
- 最初っから面白かった(笑)。
Q
クランクインしてからは、すぐに打ち解けましたか?
- 松田
- 最初の頃はかしこまってたけど、すぐに楽しくなってきたよね。
- 大西
- 初日はけっこう緊張したけど、みんな優しいし、すぐに慣れました。(松田とは)休み時間に「何が好き?」みたいな話をしたら、スポーツとか同じものが好きで。
- 松田
- 利空は野球が大好きなんだよね。
- 大西
- うん。野球習ってるし、大会でベスト4。明日も試合です。
■偏屈で変わり者ななおじさん

Q
おじさんは、とてもユニークなキャラクターで、最初から最後まで目が離せませんでした(笑)。
- 松田
- 僕も台本を読んで、面白いキャラクターだなと思いました。それをもっとコミカルに、“おじさん感”みたいなものを自分なりに出していってもいいかなと思ってやっていたところがあって。おじさんは誰からも影響を受けないし、自己完結している。演じながら、「こんな人はいないだろうな」と思っていたんですけど、山下監督は登場人物を存在するものとして撮る人だから、ふわふわした変わったおじさんなのに、ちゃんと地に足の着いた状態で作品の中に存在していたのがうれしかったです。
Q
楽しかったシーンは?
- 大西
- ハワイの溶岩地帯が楽しかった! ガラスみたいにすっごく硬いから、絶対転んじゃダメだよって言われて。
- 松田
- 転んだら血だらけになるからね。日本での撮影では?
- 大西
- 全体的に楽しかった。ニャム(本作に登場する猫)がいつもいたから、休み時間はずっとニャムと遊べたし。
- 松田
- 和菓子屋に雪男と並ぶシーンは、芝居をしていて楽しかったです。お店の人が行列してる人に、「待たせてすみません」って、お茶とお菓子をサービスしてくれるところ。
- 大西
- 僕が「おいしい!」って2個食べて、お店の人がおじさんに「どうぞ」ってやりかけたところで、他の人に呼ばれて、サーって行っちゃう(笑)。
- 松田
- やっともらえると思ったのに(笑)。
Q
だけどがっかりしている素振りを見せずにとりつくろう。ああいうバツの悪さってあるよなーと思いながら観ていました(笑)。
- 大西
- じいじとばあばがいたの。
- 松田
- 利空のおじいちゃんとおばあちゃんがエキストラで出てくれたんですよ。
- 大西
- うん。行列に並んでる。
Q
いい思い出ですね。
■大西利空はぶれない俳優

Q
松田さんから見て、利空くんのお芝居はいかがでした?
- 松田
- 利空がやっぱり中心にいたし、映画の雰囲気を作ってました。僕も自分の芝居をどうこう考えるよりも、彼を見ていたし。本番が始まるギリギリまでキャッキャして、ムードができて、その温度を保ったまま撮影に入っていった感じです。
Q
対等なんですね。
- 松田
- 大人も子供も関係ないですよね。利空はぶれないんです。撮影に慣れてきても、何か特別なことをしようとせず、淡々と、ちゃんと雪男を演じている。それでもどこか、雪男を習得していっていて、ハワイロケのときは、いい意味で力が抜けていた。ハワイで一緒に夕日を見たシーンでは、利空がなんだかいつもと違う雰囲気がしました。
- 大西
- え? そう? 意識してなかったけど。
- 松田
- ちゃんと雪男を積み上げていったから、あのシーンでお互いに役を忘れる感覚になれたんだと思う。僕もあのシーンでは、電池が切れたかのように何も考えてなくて、“おじさん”を演じるんじゃなくて、 “おじさん”になっていたんです。それが自分にとっては発見だったし、「すごいな」って感覚を味わえた。あのシーンを撮ったときに、自分の中で“おじさん”が完結しました。
Q
独特なせりふ回しなのに、無意識になれるってすごいですよね。雪男の「おじさん、調子はどうだい?」というせりふなんて、今の子供は絶対に言わないですよね。
- 大西
- せりふはとりあえず全部覚えて、発音とか意味がわからない言葉は、撮影現場で教えてもらいながらやりました。
- 松田
- 舞台は現代なんですけど、せりふ回しは北杜夫さんの原作(1960年代)のままにしているんです。雪男の日記から始まる物語ということもあって、そうすることで、映画全体にファンタジー性や懐かしさが漂っている気がします。雪男の妹が「アメリカ製のお人形がほしいわ」って言うんだけど、今の子が言うわけがない(笑)。
- 大西
- 「なんでアメリカ製なの?」って思ったし(笑)。
- 松田
- 僕もすごく気になって、「違う人形にしたほうがいいんじゃないですか?」って言ってしまった(笑)。
- 大西
- ピーターラビットでもいいよね(笑)。
- 松田
- 異質なせりふなのに、映画で観ると作品に溶け込んでいて、全然気にならないんです。「すごいなぁ」って思いながら観ました。
Q
雪男がおじさんの観察日記を書いたように、松田さんが観察日記を書くとしたら、絶対に書きたいエピソードはなんですか?
- 松田
- 雪男が女の人たちから「かわいい~」ってキャーキャー言われておじさんが蚊帳の外っていうギャラリーで撮ったシーンがあるんですけど、カットがかかるたびに利空が僕の方を見てニヤリと悪い笑顔をするんですよ。「僕はモテてるよ」みたいな(笑)。あの顔がすごく好きなので、そこですかね。
- 大西
- カメラに撮られてるつもりだった。
- 松田
- カットがかかってから笑ってたよ(笑)。
- 大西
- えー? 意識してなかった!

取材・文:須永貴子 写真:渡邉俊夫