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『散歩する侵略者』長澤まさみ&松田龍平 単独インタビュー

2017年9月4日 更新

『散歩する侵略者』長澤まさみ&松田龍平 単独インタビュー

世界的に人気のある黒沢清監督が、劇作家・前川知大が率いる劇団「イキウメ」の舞台を映画化した『散歩する侵略者』。夫の異変に気づき、翻弄されながらも人類の危機に立ち向かっていく妻の鳴海を演じた長澤まさみと、侵略者に概念を乗っ取られた夫・真治にふんした松田龍平が、その特殊な役柄と、幸福な時間が流れていたという黒沢組の撮影現場を振り返った。

■これまで見てきたどのタイプとも異なる宇宙人

■これまで見てきたどのタイプとも異なる宇宙人

Q 侵略者の脅威を描きながらもどこかおかしみのある不思議な作品ですが、最初に脚本を読まれたときはどんな感想を持たれましたか?

長澤まさみ(以下、長澤)
黒沢監督の作品に出られることが単純にうれしかったんですけど、脚本もわたしの好きな世界観のものだったので、アッと言う間に読んでしまって。女性って現実的な考え方をする生き物だと思うし、わたしも現実味のあるフィクションが好きなので、まさにこういう作品を待っていたという感じでしたね。
松田龍平(以下、松田)
僕は最初どんな映画になるのか、なかなかイメージが湧かなかったですね。ただ、侵略者の宇宙人が人間の概念を奪うという設定が面白かったし、奪われることで変化していく人たちのリアクションにはちょっとワクワクさせられて。それと、自分が宇宙人(侵略者)ってところはやっぱり気になりました。気になるというか、“えっ、宇宙人役?”って(笑)。
長澤
宇宙人役は初めて(笑)?
松田
ただ、宇宙人と言っても、皆さんが思い浮かべる宇宙人や僕が映画で観てきたさまざまな宇宙人のどれにも当てはまらない変わったタイプの宇宙人だったから、演じる前はわからないことが多かったし、逆に“宇宙人はこんなことはしない”といった縛りを勝手に意識してしまっていたんです。でも、長澤さんとお芝居を続けていくうちに、彼のかすかな変化を感じるようになって、「あっ、そういうことか? 概念に縛られていない最高に自由な役なんだ」ということがわかってきたんです。

Q 侵略者に概念を奪われた松田さんは長澤さんから見ていかがでしたか?

長澤
松田さんが演じられた真治は脳を侵略者に乗っ取られているんですけど、その鈍くさい動きは中に入った侵略者がまだ人間に慣れていなくて、違和感があるようにも見えて。そこが逆にすごく人間っぽいし、コミカルでかわいいんですよね。

■撮影中に肩こりが治った不思議

■撮影中に肩こりが治った不思議

Q 真治がテレビの気象予報士の動きを真似するところはユーモラスでしたね。

松田
ストレッチをする感覚でやったら、なぜか痛かった肩がすっきりして(笑)。わ~スゴい! と家でもやってみたんですけど、やっぱり違うんでしょうね。おそらく撮影の緊張の中でやるストレッチは極限の力が出ているので治癒力が高いのではないかと。
長澤
アドレナリンが出ていたとか?
松田
そうかもしれない。あのシーンを撮った後、肩が本当に楽になりましたからね。
長澤
人間に近づいた?(笑)
松田
はい。不思議な感覚でしたね(笑)。

Q 真治が、長澤さんの演じられた真治の妻・鳴海の妹・明日美(前田敦子)から概念を奪うシーンも印象的でした。

松田
あそこは結構最初の方に撮影をしたんですけど、こう歩いて、ここでこういうセリフを言うという動線だけ決めて、黒沢監督から「真治は何のためにここまで1回来るのかを自由に考えてやってみてください」と言われたので、最初は戸惑いました。でも、CDか何かを探しにきた、というようなことを自分で考えてやってみて。ほかのシーンでも自分で目的を探しながら演じるのは不思議な感覚でしたけれど、そうやって黒沢監督の演出を一つ一つ噛み砕いていくうちに、自分にとっての宇宙人って何だろう? という可能性がどんどん広がっていきました。
長澤
わたしも毎回、撮影の前に口頭でそのシーンの動きを説明していただいて、その行動に自分で辻褄を合わせていく作業が面白かった。しかも、自分で考えてやるので最終的にそれでしっくりくるのがよかったですね。

■役者がこぞって黒沢映画に出演したくなるワケ

■役者がこぞって黒沢映画に出演したくなるワケ

Q 俳優の多くが黒沢監督の作品への出演を熱望されますし、一度出演された方はまた出たいと言われます。黒沢監督の撮影現場は何がそんなに魅力的なんですか?

長澤
今回のわたしの場合だと、(鳴海の)心情的な表現の部分で黒沢監督と自分とで思っていることが真逆なことが多かったです。例えば、中身が本人じゃなくなった真治と河原を歩きながら「今日の晩御飯、何にする?」というシーンでは、黒沢監督に「真治と仲がよかったころ、二人でスーパーに行った帰りによくこの道を通ったな~、この風、気持ちいいな~って思い出したりする感じで」と言われて、最初は“?”だったんです。でも演じてみると、そこで夫婦としてのお互いの価値観や夫婦が再生していく感じを表現しようとする黒沢さんの意図がリアルに感じられて。わたしは夫婦になったことがないからわからないけれど、特殊な状況にあっても夫婦であれば当たり前の普遍的な感情の描写が多々あって、それがとても面白かったです。

Q 侵略者に概念を奪われ、別のキャラクターになった真治と鳴海の会話はちょっとヘンですけど、それでも噛み合っているのが興味深かったです。

長澤
夫婦として連れ添った時間があるので、自然とそういう空気を作っているのかなと思って演じていました。
松田
黒沢監督の現場では役割が明確になると思いました。自分が何をすべきかわかりながらもそれを窮屈に感じないというか。それに、この画(え)の中に自分が出てくることを想像するだけでワクワクしました。しかも、完成した映画を初めて観たときに、このシーンのこの動きがここまでの意味を成してくるのか? とビックリしたりして。そういった意味でも、僕は今回自発的に何かをしようという感覚では演じていなかったと思うし、何だかいい意味で打ちのめされる感じがありました。

■奪われたらイヤな概念

■奪われたらイヤな概念

Q お二人はこの作品が初共演で、夫婦の役だったわけですけど、いかがでしたか?

松田
僕はこの作品では右も左もわからない役だったから、ひたすら長澤さんが頼りで。しかも撮影のときだけではなく、撮影の合間も結構助けてもらって。自分も気性の激しい役で疲れているのに、僕のテンションをすごく上げてくれるから、本当に長澤さんのおかげです。
長澤
すごく楽しい現場でしたね。ほかの侵略者を演じた若いお二人(高杉真宙、恒松祐里)も素敵だったし、いい意味で肩の力が入っていない、その役に当たり前のように没頭している方たちばっかりだったから、とてもいい現場だなと思いました。

Q ところで、お二人が奪われたらイヤだな~と思う概念は何ですか?

長澤
食欲です(笑)! 食べることが好きなので、その楽しみがなくなったら寂しいですね……。
松田
僕は不安や恐怖でしょうか。どちらもイヤなものだけど、それが自制になるような気がするし、それがなくなって最強無敵みたいな思考になるのも怖い。ですから意外と大切なものだと思います。

取材・文:イソガイマサト 写真:中村嘉昭

映画『散歩する侵略者』は9月9日より全国公開

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