
桜井画門の人気同名コミックを映画『踊る大捜査線』シリーズの本広克行監督が実写化した映画『亜人』。交通事故をきっかけに自分が亜人であることを知ってしまった主人公・永井圭を演じた佐藤健と、自分たちを虐げた人間を恨み続ける凶悪な亜人のテロリスト・佐藤を演じた綾野剛が、アクション満載だった撮影の裏話を明かした。
■頭脳を駆使するアクションに挑戦

Q
アクションがすごくかっこよかったです。
- 佐藤健(以下、佐藤)
- 『るろうに剣心』シリーズで見せたかったアクションと、本作で見せたかったアクションは全然違って、頭脳を使ったアクションだったので、体よりもいかに知的に戦うかに重点を置きました。
- 綾野剛(以下、綾野)
- 冒頭のシーン、そしてSAT戦という2つの重要なアクションシーンがありました。佐藤という人間はゲリラであり、接近戦を得意とする人物なので、冒頭では観客に永井はこの男と対峙できるのか? と思わせることが必要だったんです。だからまず永井に向けて圧倒的な力を見せつけることが大事でした。ファーストシーンとは反対に、ラストのバトルシーンでは佐藤か永井のどちらが勝つのか分からない、頭脳戦になっていると思います。リセットと麻酔銃とを駆使する、どっちの脳みそが勝つかという勝負でした。
Q
冒頭の逃げる永井を追いかける佐藤のシーンは本当にドキドキさせられました。
- 綾野
- あのシーンは『ターミネーター』シリーズのようなひたすら追われて、ひたすら逃げるっていう圧迫感を出したいという、健のアイデアが大きく反映されていたんです。そのおかげで僕もアクションの方向性が明確になったので助かりました。
- 佐藤
- 何となく今回の映画のイメージは、『ターミネーター』シリーズと『ミッション:インポッシブル』シリーズだと思っていたんです。『ミッション:インポッシブル』シリーズのトム・クルーズっていわゆる戦っているシーンだけがすごいわけじゃなくて、ただ走ったり、ただ飛んだりっていう細かい所作が総合してかっこいい。だから『亜人』もただ戦っているだけではなく、全編通してカッコいい映画にしたいと思いながら作りました。
■スタントに頼らない!佐藤と綾野の男の美学

Q
まさにトム・クルーズですね! お二人ともほとんどスタント無しで撮影にのぞまれたそうですが、スタントシーンを自分でする楽しさとは?
- 佐藤
- 撮影現場にはもちろんプロのスタントマンの方がいらっしゃるんですが、でも「同じ男なんだから、誰かにできるスタントだったら、俺にだってできる」っていうスタンスで考えちゃうんです。でもその考え方ってデビュー当時から思っていたことで、自分で挑戦することが好きなんです。
- 綾野
- 僕もアクションが好きなので、とにかく練習すれば不可能なことはないはずだって信じてひたすらトレーニングしていました。
Q
アクションシーンでつらかったことはありましたか?
- 佐藤
- 全編を通して佐藤からやられて、逃げるっていうやられ役に回っていたので、これまでしてきたアクションとはまた違う「受け身をとる」ことを必要とする動きが多かったです。例えば佐藤に投げ飛ばされて、棚とかそういうものにぶつかるアクションも一回なら良かったですが、ずっとやっていると地味に痛い……。徐々に蓄積していくのはつらかったです。
- 綾野
- 僕は疲れるってことはなかったですが、呼吸を合わせて戦わなければならないIBM(インビジブル・ブラック・マター)とのシーンでは、身体的というよりも考えながら動かなければならなかったので大変でした。後からCGが足されるので正解が分からなくて、想像力を働かせながらのアクションでした。
■体の匂いまで同化!?

Q
あれだけのアクションをこなしただけあって、すごい肉体でした。ハリウッドでは、筋肉にCG処理を施すこともあると聞きますが、本作は完全に本物ですよね。
- 佐藤
- 思い出す限りでは……自分の体にCGの要請はしていません(笑)。でもすごく頑張ったわけではなく、普段の筋トレの密度を濃くして、撮影現場に入ってから2か月ほどは食事制限をしていました。
- 綾野
- 僕は『亜人』に入る前の作品から、計4か月くらい肉体改造していました。あのシーンは俳優部がここまでプライベートを犠牲にして肉体改造をしているってことに対し、各部署のスタッフが応えてくれたものだと思います。
Q
食事制限は厳しくされていたんですか?
- 佐藤
- ずっと鶏肉ばかり食べていました。もし綾野くんが隣で米を食べていたら、絶対に続かなかったと思います(笑)。綾野くんも我慢しているから、自分自身も我慢できたところはあります。
- 綾野
- ずっと同じものを食べていたからね。人間って不思議なもので、人とずっと同じものを食べ続けていると、異常なほどの安心感と親近感が生まれるんです。だから気がつかないうちに、健のために何ができるだろうってことを考えちゃうんですよね。一緒に同じことを頑張っているって、こんなに心強いんだと思いました。
Q
お互いがライバルという感じではなく、同志という方が近いですか?
- 綾野
- ライバル心っていうのはなかったです。逆に信頼の方が生まれました。同じものを食べ過ぎて、匂いまで一緒になるんじゃないかと思いました。
- 佐藤
- 僕もライバル心とかはなくて、むしろ綾野くんが先に食事制限も筋トレも始めていたのでとても心強い存在でした。
■信頼し、注目し合う間柄

Q
初めての共演は2012年の『るろうに剣心』ですが、役者という世界の中でお互いはどんな存在でしたか?
- 佐藤
- 綾野くんの出演作はほとんど見ているんですけど、どんな役でもできる人だと思っています。ザ・日本映画という作品にも出ているし、メジャーな作品にも出て、主演も脇もなんでもできる、すごくフレキシブルな役者さん。そのフレキシブルさが、作品に反映されていると感じています。
- 綾野
- 健は好きな役者の一人なので、どんな映画に出ているか見ていました。作品によって違う芝居を見せる役者だから、どんな表情を見せるんだろうっていうのがいつも気になっています。今までも今後も健は常に注目していたい存在です。
Q
実際に共演をして、どんな印象を受けましたか?
- 佐藤
- 当然なんですけど、ものすごくストイックだと思いました。綾野くんは周りが求める以上、そのもっとずっと上を見続けているんです。綾野くんのことをすごく信頼できたし、主演としても楽なんです。自分がいないシーンでも、彼がいればお願いしますという感じで。でもそこまで信頼することって、簡単そうで難しいことだと思います。
- 綾野
- 健は全くブレないので、主役がブレないということは、共演している側からすると本当に楽なんです。もちろん、本人の中では大変なことがいっぱいあると思いますが、いつも毅然とした態度で撮影現場にいてくれるので、こちらも何をすべきか見つけやすかったです。

取材・文:森田真帆 写真:日吉永遠