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『万引き家族』安藤サクラ 単独インタビュー

2018年6月4日 更新

『万引き家族』安藤サクラ 単独インタビュー

都会から忘れ去られたような小さな家で静かに暮らす、ある家族。一見平凡そうに見えながらも、実は犯罪で結ばれていることが次第に明らかになっていく。是枝裕和監督の最新作『万引き家族』は家族のあり方を考えさせられる衝撃作。リリー・フランキー演じる治の妻、信代を演じた安藤サクラは初めての是枝作品にもかかわらず、どっしりとした安定感で家族をまとめ上げる中心的存在。憧れの是枝組体験の率直な気持ちを明かす。

■これが是枝裕和監督の撮影現場か…

■これが是枝裕和監督の撮影現場か…

Q 是枝裕和作品への出演をオファーされた時の気持ちは?

意外でした。「えっ、私?」って驚きました。私がすごく尊敬していて、かわいがっていただいている大先輩のカメラマンの山崎裕さんや俳優の井浦新さんが是枝組で、いつもお話をうかがっていたので、そこに私も参加できるんだととてもうれしかったです。先輩方がお話するのを聞いていて、是枝組ってすごく特別な場所のように感じていました。

Q 是枝組の常連である樹木希林さんやリリー・フランキーさんと息もぴったりで、むしろ中心的存在のようでした。どんな気持ちで撮影に臨んだのですか。

なんの心構えもなく、あまり考えず、本当にただこの家族と是枝組に会いに行くような感覚の日々でした。撮影を進めていくなかで、家族との関係やいろいろなものが育まれていき、監督もそこに寄り添うような形で作品を作っていかれてたので、気が付いたらこんな家族になっていた。私自身のこの家族に対する感情も、ふと気付いたら最初とは変わっていたりもします。私たちが家族として自然に呼吸していくなかで出来上がってくるものを活かすように、その都度、監督が脚本を足したり引いたりされていたので、「こういう家族だから」とか「こういう女性です」とか最初から決めて臨んでいたことはありません。撮影現場で呼吸をしていたら、出来上がっていたというような感覚です。

Q 子役たちの演技が今回もまた素晴らしいですが、大人の俳優たちからはどのように引きだしたのですか。

監督の作品を観ていると、子供たちが本当に素直にそこにいますよね。監督の映画は、人々の息遣い、生活している、生きている音が聞こえてくるようだと思っていたんですが、是枝組に参加して、現場で一番感じたのはセットの内外、カメラの前と外、カチンコが鳴る前後、空気が全然、変わらないんです。何かやらなきゃという空気にならない。カメラの前でもカチンコが鳴った後でも自然と呼吸をしていられる。いままで経験したことがない現場で「子供があんなに素直に映るのはこういうことか」と思いました。あんなに本能的に空気の変化に敏感な生き物が自然とそこにいられる現場づくり。これが是枝監督の現場なんだ、と。私自身も何も構えずにいられました。

■頭では考えなかった役づくり

■頭では考えなかった役づくり

Q 普通の役づくりとは違いますか。

あんまり頭で考えずに監督に言われるがままにやっていたという感じですね。最初は働いているクリーニング屋さんのシーンが主だったんですけど、その時は監督から「ちょっと犯罪者の感じが出るといいな」と言われていました。だけど、セットに入って家族と過ごしているうちにそれも意識しなくなっていきました。物語のポイントとなるところがいくつかあって、その辺りは監督と話し合って、やっていきました。ただ、海に行ったシーンだけは夏に撮影してたので、脚本もプロットの状態でした。準備段階で手掛かりが少なくて不安だったので、まだロケ場所も決まっていないなか、この家族が住んでいるであろう地域は聞いていたので、そこを一日ドライブしたり、お散歩したり、こういう地域で生活しているんだというのを踏まえて撮影に臨んだんです。それ以外は本当にただ肉体だけ預けていたという感じでした。

Q リリーさんとの夫婦の絆はどういう風に築いていったのですか。

どんな男女間なのか、どういう関係性なのか、全然わからないまま撮影に入って、わからないまま撮影していくうちに、二人のすごく特別で独特な関係性のようなものが作られていったんですね。それで、監督もこの二人のやり取りやシーンを増やしたりして、形が変わってきたんです。後半になって、「いい関係だったな。もっと一緒の時間があればよかったな」と思うこともありました。どうしようもなく情けなくて、なんてことのない、このリリーさん演じる治にもすごくいろんなことがあって、その存在だけでこの家族は助けられていたんだなあとしみじみ感じました。

■是枝監督の意地悪な仕打ち?

■是枝監督の意地悪な仕打ち?

Q 池脇千鶴さん演じる刑務官との取り調べのシーンは迫力がありますね。

取り調べのシーンは一つ一つの質問に時間はかけていないですし、そんなに長く回してた印象はないです。決まっている台詞もありましたし、さくさくと撮っていった気がします。ただ、監督がどんな質問をするかは私には内緒にして、池脇さんにこっそりホワイトボードで書いたものを見せて、質問をさせていたので、予想外のいろんな質問など、量はいっぱいあった気がします。

Q 涙を流していたのは監督の演出なのですか。

実はスタジオでの撮影が終わるくらいの時、監督に「私、家族のなかで自分のことを『お母さん』とは呼んでないんです。そういう機会があっても、ずっとそうは言えないで撮影をしてきました」という話をしたんですが、それがきっかけで、「じゃあ、あなたはなんて呼ばれてきたの?」という質問をあの時、池脇さんにさせたのだと思います。「うわっ、意地悪だな」と思いましたね(笑)。信代さんには、自分のことをお母さんとは言えない葛藤があった。取り調べている相手に対して絶対に涙を見せたくなかったので見せまいと頑張ってはいたんですけど、ダメでしたね。

■ここまで答えが出ない気持ちになるなんて

■ここまで答えが出ない気持ちになるなんて

Q どんどん形を変えていった作品が出来上がった状態を見て、どう思われましたか。

最初の印象は信代さんってものすごくいろんな意味で汚い女性、いわゆる犯罪者という風に思いながら演じていたんですが、正直、演じている時も演じ終えてからも彼女がいい人なのか、犯罪をしているから悪い人なのか、結局、どんな女性かはわからないままなんです。まあ別に答えは探してはいなかったんですが、作品を観て私はもう何が正義で何が間違いで、何が家族なのか、そういうの、やっぱりちょっとわからないんですよね。ここまで答えがすぐには出てこない気持ちになることってそうはないので、観る方がどんな風に感じるのか、すごく楽しみな作品です。私としては、治さんを見ておっちゃんでこんなに切ない気持ちになるのかと思いました。「切なおっちゃん」に注目です(笑)。

Q 最後の治さんは切ないですよね。信代さんは晴れやかな顔でしたけど。

それぞれの感じ方の気がします。私は怖かった。自分でやっていて、そんな風にやってるつもりはなかったんですけど、「去り際が怖いな、この女」と思いました(笑)。あと監督って、台詞をしゃべっているその人を映さないんだなと出来上がったものを観て思ったんです。だから観る人が本当にその場にいるような気持ちになって、一緒に呼吸をしていられるんじゃないかな。だからこそ、観終わった後、もっと答えがわからない気持ちになる。すごいです。
念願の是枝組に参加して、撮影現場に行くのが楽しみで仕方がなかったと語る安藤サクラ。共演の子供たちと同じような好奇心いっぱいの視線で、撮影現場での日々をいきいきと過ごしていただろうと想像してしまう。今回に限ったことではなく、どんなに大変そうな現場でも、彼女の口からネガティブな言葉を聞いたことがない。映画を心から愛し、映画からもとことん愛されている人。まさしく天性の映画女優だ。

取材・文:高山亜紀 写真:中村嘉昭

映画『万引き家族』は6月8日より全国公開

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