『プーと大人になった僕』ユアン・マクレガー 単独インタビュー
2018年9月13日 更新

『スター・ウォーズ』シリーズのオビ=ワン・ケノービや『トレインスポッティング』シリーズのレントンなど、映画史に残るキャラクターを演じてきた俳優ユアン・マクレガーが、新作『プーと大人になった僕』で初来日。世界的な人気キャラクター「くまのプーさん」をディズニーが初めて実写映画化した本作で演じた、プーさんの大人になった親友クリストファー・ロビンや日本への思いを語った。
■また日本に戻ってきたい

Q
ユアンさんの来日をファンの皆さんも喜んでいると思います。
- 僕の方こそ光栄に思っているよ。この25年くらいの間に、3~4回ほど来日をオファーされたことがあったけど、いつも新作の撮影があったりして、来ることができなかったんだ。
Q
来日が決まったとき、「個人的な理由で来日ができないのかと思われていたけど、個人的な理由じゃないよ」とおっしゃっていましたね。
- みんなにそう思われてしまうくらい、日本に来られなかったのを恥じているんだ(笑)。全くもって個人的な理由があったわけじゃないんだよ。もともと僕は旅をすることが大好きだし、今回の来日も、本当に楽しみにしていたんだ。それと、日本のみんながフレンドリーに歓迎してくれたおかげで、心から温かな気持ちになれたことも言っておきたい。また日本に戻ってきたいという思いが増したよ。
Q
日本で『トレインスポッティング』が公開された当時、ブームは耳に入っていましたか?
- そんなに人気があったことは初耳かな。こうして知ることができてうれしいよ。僕自身、あの作品で演じたレントンが大好きだからね。続編の『T2 トレインスポッティング』(以下、『T2』)は観てくれた?
Q
もちろんです。主人公の成長した姿を描くという意味では、『プーと大人になった僕』(以下、『プー』)と『T2』には共通点がある気がします。
- 僕もそう思うよ。『T2』は、ダニー(・ボイル監督)が、男という生き物について、彼らが年齢を重ねる感覚を詳細に描いた点で秀逸だった。そして『プー』も、現実世界でジレンマに陥った大人の男を描いている。そういった面で、2つの作品には共通点があるね。もちろん『プー』には、『T2』みたいな汚い言葉遣いは出てこないけど(笑)。
■“何もしない”ことの大切さ

Q
ユアンさん自身、常に一線で活躍されていますが、多忙な日々を過ごすロビンに共感する部分はありましたか?
- そうかもしれない。まず何よりも、脚本が本当に素晴らしかったんだ。読み終わってすぐに、この役に挑戦したいと思った。そうやって即決することはあまりないんだけど、多分、普段の生活で感じていることと、この映画がどこかでつながったからじゃないかな。
Q
大人になって忘れかけていた「大切なモノ」を思い出させてくれる本作は、“何もしない”ことが大事なテーマのひとつです。ユアンさんも、日常でそんな時間を大事にされていますか?
- 今年は全くと言えるほど仕事をしていないんだ。まさに“何もしない”ことの喜びを発見できたよ。
Q
それだけ、この映画の撮影が充実していたということではないでしょうか。
- この映画に出演したからというほど、シンプルな理由じゃないんだ。いろいろなことが重なった結果かな。“何もしない”ことをするって、「何もしていないな」と感じているときよりもずっと忙しいものなんだよ。何かしら、やらなければいけないことが出てくるからね(笑)。一般的には、日がな一日テレビを観ているような感じだと思われるけど、それだって、実際にはテレビを観るってことをしているしね。
Q
どのように“何もしない”ときを過ごしたのですか?
- 僕の住んでいる土地はとても美しい場所なんだ。そこで木を切ったり、散歩したり、何もしてないときでもたくさんのことができるんだよ。その時間を愛しているし、とても楽しんでいる。
■怒ったパパに娘が困り顔

Q
プーさんのことはどの程度ご存じでしたか?
- 絵本は小さなころに読んでもらっていたし、とても大切にしていたから覚えていた。それに、僕もプーさんのようなクマのぬいぐるみを持っていたんだ。腕と脚の関節がおかしくて、とてもプーさん的だった。だから、この映画でプーさんと共演したとき、あの古いクマの記憶がよみがえったよ。
Q
大人になったロビンが、自由にふるまうプーさんに腹を立てるシーンが印象的でした。
- 実は、7歳の娘と劇場でこの映画を観たとき、そのシーンに彼女がすごく動揺してしまったんだ。僕は子供たちをあんなふうにしかったことがないのに、お父さんがプーさんを怒鳴っているんだからね。娘が2人は大丈夫なの? って心配していたよ。できるだけストーリーをばらさないように、お父さんは大丈夫だからねって、映画館でささやいたよ(笑)。
Q
おかしいけれど、ロビンが昔の彼とは違うことが感じられて、物悲しくもあるシーンですね。
- 大人になったロビンの人間性が垣間見えるシーンだからね。僕にとっても印象的だったよ。それに、とても挑戦的だと思わない? 子供に向けたディズニー映画で、大人の主人公がプーさんをしかるなんて! だからこそ、それからいなくなってしまったプーさんを苦労して見つけて、ごめんと謝る場面も素敵だと思う。
■オビ=ワン以上にプレッシャーな役って?

Q
ロビンが旅行かばん会社の社員で、上司に従業員のリストラを迫られる立場という設定も興味深いです。
- ロビンは大勢の人が職を失うのか失わずに済むか、その責任を担う立場だ。人々の生活が彼の手の中にある。そういう類いのプレッシャーは、僕がこれまでに感じたことのないものだから、そこは僕と彼との違う点だったかな。
Q
本作のロビンやオビ=ワン・ケノービのように、象徴的なキャラクターの過去や未来を演じるプレッシャーは、相当なものではないでしょうか。
- いや、特にそうしたことにプレッシャーを感じることはないんだ。それよりも、実在する人物を演じる方がプレッシャーだよ。かなり前に『マネートレーダー/銀行崩壊』(1998)という作品で実在のマネートレーダーを演じたときの方が、はるかに重圧を感じた。現実に生きている人物だからね。
Q
この映画で演じられたロビンについて、観客はどう感じると思いますか?
- どうかな、誰も大人になったクリストファー・ロビンのことなんて考えないからね。間違っているぞ! なんて言ってはこないんじゃないかな(笑)。

取材・文:編集部・入倉功一