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『長いお別れ』蒼井優 単独インタビュー

2019年5月27日 更新

『長いお別れ』蒼井優 単独インタビュー

『湯を沸かすほどの熱い愛』で日本映画界に衝撃を与えた中野量太監督の最新作映画『長いお別れ』。本作で、厳格な父親に育てられたものの、なかなか自らの夢を叶えられずにもがく次女・芙美を演じたのが女優・蒼井優だ。蒼井自身「ちょっと不憫なタイプ」と語る芙美が、認知症になった父と触れ合うことで、少しずつ自信と愛を取り戻していく姿は胸を熱くさせる。そんな女性を演じた蒼井が、現場を共にすることが信じられなかったという山崎努との共演や、20年という節目を迎える女優生活について振り返った。

■「ちょっと痛々しい」と感じる芙美という役へのアプローチ方法

■「ちょっと痛々しい」と感じる芙美という役へのアプローチ方法

Q 夢、家族、恋と複雑な思いを抱えている芙美という役。脚本を読んでどんな印象を持ちましたか?

「そこを少し我慢すればいいのに」と思うところで行動してしまったり、周りが楽しんでくれるほど不器用でもなかったりと、ちょっと痛々しいキャラクターだなと思いました(笑)。でもそのぶん、すごくリアルな感じは受けました。

Q リアリティーを感じる役というのは演じていて難しさはありますか?

自分の役に対して愛情を持てると、すごく楽しいのですが、今回の役は、愛情を持てないわけではないのですが、分かりやすい愛され方じゃない女性。観る方にあるラインを保ちながら楽しんでいただかなくてはいけないので、常にフィクションとしての人物と、日常にいそうというリアリティーのバランスを考えながら演じていました。

Q 具体的にはどんな作業を?

リアルとフィクションの境界線を曖昧にできたらなというアプローチですね。わたしは日常に落とし込もうとしていたのですが、中野監督は割とポップな演出をされたので、調整には気を使いました。

■名優・山崎努への熱い思い

■名優・山崎努への熱い思い

Q 認知症を患っていく父・昇平役の山崎努さんとのお芝居はいかがでしたか?

わたしは山崎さんが書かれた「俳優のノート」という本を読んで、お芝居とはなにかという第一歩を学んだんです。最初の出会いが本だったので、そんな方と二人きりでセリフを交わすシーンがあることが信じられなかったです。しかも父と娘という実感を持てるんですよ。考えただけでもすごい経験をしたなと思います。

Q これまで味わったことがない感覚でしたか?

もちろん大好きな先輩はたくさんいますし、そういう方との共演もすごいことなのですが、まだ映画の世界をなにも知らないときに、大事だと思うところに線を引いたりして熟読していた本を書かれた人と一緒にお芝居するなんて、やっぱり特別な経験でした。いまだに「俳優のノート」は本棚に大切に置いてありますからね。

Q 蒼井さんの思いは山崎さんに伝えたのですか?

クランクアップの前日、この話をさせていただきました。そして「もし良かったら、その本にサインをいただけませんか」とお願いしました。山崎さんとお仕事させていただいたことが夢のような時間で、それを形に残さないと実感できないと思ったんです。でも仕事中にサインを頼むなんて……という思いもあったので、最後の日まで待ったんです。ただでさえ「俳優のノート」はわたしの宝物なのですが、山崎さんは「役者にあの本を読んでいたんですと言われたのは初めて。すごく嬉しい」とおっしゃって、サインとコメントをしてくださいました。本当にわたしにとって宝物になりました。

■救われた父親の言葉

■救われた父親の言葉

Q 劇中、芙美が昇平に対して「期待はずれだね、わたし」と言った言葉が印象に残ります。そのとき昇平は「立派だ」と声をかけ芙美は笑顔を見せますが、蒼井さんは、お父様からかけられた言葉で救われた経験はありますか?

山田洋次監督の『東京家族』という映画に出演させていただいたとき、橋爪功さんと吉行和子さん夫婦の会話のなかで「うちなんか(まだ)ええ方よ」というセリフがあったのですが、父はそのセリフがすごく好きだと話していたんです。その言葉を聞いたとき「あーお父さんは家族に完璧を求めていないんだ」と感じて、なにか救われた気分になったんです。

Q 蒼井さんは家族のなかで「完璧でいなくては」というプレッシャーがあったのですか?

わたしは中学一年生のときに仕事をはじめ、親元を早く離れてしまったんです。その部分でなにか負い目があって、どこかで「良い家族でいなければ」という気持ちがあったんだと思います。だから父親のこの言葉を聞いてスッと楽になったんですよね。

Q お芝居にもストイックに向き合う印象があります。

確かにこの仕事、ストイックになろうと思えば、いくらでもなれる仕事ではありますよね。わたしにもそういう部分はあるかもしれませんが、でも我が家の家訓が「なんとかなるさ」なんです(笑)。だから思い切り追い込んでいても、どこかで「なんとかなるさ」という言葉が、考え込み過ぎないという浮力になっている気がします。

■女優生活20年で逃げ出そうと思った壮絶な撮影現場

■女優生活20年で逃げ出そうと思った壮絶な撮影現場

Q 芙美は夢も恋愛も思い通りにいかず、思い悩む女性でしたが、20年の女優生活のなかで「逃げ出したい」と思ったことはありましたか?

わたしはお芝居で追い詰められることはあまりないんです。できないこともできるようになりたいと思えるし、できないことを知るためにやっている部分もあるので。でも『フラガール』の撮影のときは、重圧がすごかったです。

Q それは「フラダンスを踊る」という物理的な部分での負荷ですか?

バレエをやっていたので、真ん中で踊る人がどれだけ大事かは理解していました。真ん中で踊る人のレベルが低いと、全てが下手に見えてしまう。だから普通は一番上手な人が真ん中で踊るんです。でも映画では、わたしは役柄的に真ん中で踊るわけで……。みんなは練習をしているのですが、わたしは物語の撮影があって、なかなか一緒に練習ができない。そのプレッシャーはすごかったです。夜中まで撮影して、ホテルに帰ってきて、一人部屋で練習するわけです。そんななか、ふとカーテンをあけて何度真っ暗な夜道を逃げ出してしまおうと思ったか(笑)。

Q でも『フラガール』は非常に高い評価を受けましたよね?

夢中でやったことは伝わるんだなと知ることができたのは、すごく大きな経験でした。あとは『フラガール』を経験してから、あまり先のことは考えないようになりました。考えると不安になるだけですからね(笑)。

取材・文:磯部正和 写真:高野広美

映画『長いお別れ』は5月31日より全国公開

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