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『アンダー・ユア・ベッド』高良健吾 単独インタビュー

2019年7月16日 更新

『アンダー・ユア・ベッド』高良健吾 単独インタビュー

映画『甘い鞭』などの原作者である大石圭の小説を、『バイロケーション』や『氷菓』などの安里麻里監督が映画化した『アンダー・ユア・ベッド』。本作で、大学生時代、唯一自分の名前を呼んでくれた女性に執着し、狂気的な愛をほとばしらせる主人公・三井直人を演じたのが、多くの映画人から高い支持を受ける実力派俳優・高良健吾だ。「10代や20代前半にやっていたヒリヒリするような役と30代になった自分がどう向き合えるか」という課題を持って臨んだという高良が、作品に対する思いを語った。

■久々にヒリヒリした役に出会えた

■久々にヒリヒリした役に出会えた

Q 大石圭さんの問題作の映画化。お話を聞いたとき、どんな印象を持ちましたか?

とても痛々しい話。これをどうやって映像化するのだろうか、果たして映画になるのだろうかという興味を持ちました。

Q 大学時代から一途に思い続け、執着した歪んだ愛を表現する三井という役。台本を読んだときの感想は?

自分が10代後半や20代前半にやっていたようなヒリヒリとした役が、久々に来たなという印象でしたね。そんな役を現在30代になった自分がどう向き合って表現できるのかというのは面白いなと思いました。

Q どんなアプローチをされましたか?

準備するべきところと準備しない方がいいところなど、いろいろあるなかで、台本のセリフは覚えますが、あまり自分が説明的な役になるのはよくないと思ったので、ギリギリまで自分の行動を決め込まずに入ろうと思いました。

Q 三井という男を演じるうえで、一番大切にしたことは?

最初から最後まで三井を演じたとき、ラストで三井はどんな表情をするんだろうという興味が強かったんです。自分で台本を読んだとき「だいたいこんな感じなのかな」と思う一方「いやいやそうじゃないよ」という気持ちもありました。それだけ曖昧な部分があるキャラクター。そのなかで、大切にしなければいけなかったのは「誰かに認めてもらいたい」という思い。誰からも認めてもらえない、覚えてもらえないって相当きついことだと思うんです。

■グレーゾーンが広いから面白い

■グレーゾーンが広いから面白い

Q 「誰かに認めてもらいたい」の誰かが、大学生のとき唯一、自分の名前を呼んでくれた千尋という女性でした。三井の千尋への思いは愛なのか、執着なのか。

僕はそこに答えを出さずに演じました。愛だけにするのももったいないし、執着だけにするのももったいない。この作品全体に対して思うのは、すごくグレーゾーンが広いということ。白か黒、善か悪という二極でものを見てしまうと、すごく説明的になってしまう。もっとグレーゾーン、曖昧な部分を大切にしたいと思いました。三井の純粋さゆえにグレーゾーンが広がる感じです。

Q そのあたりの考えは安里監督と共有していたのですか?

安里監督とは、芝居をする前に話し合いましたが「やってみないとね」ということになりました。もちろん監督の考えはありますが、お互いストレートに言葉を交わして進めていけたので、すごくやりやすかったです。

Q 「やってみないとわからない」というのが高良さんのスタンス?

撮影現場で芝居をするとき、撮影の前にシーンについて監督と話し合いをすることって、僕は必要ないと思っていて、まずはやってみて、そこから演じたことについて話をすればいいのかなという考えだったんです。でも今回の安里監督の場合は、僕が現場に入ると、その日のシーンについて話し合いが始まるんです。最初は「そういうの、いらないんだけどな」と思っていたのですが、この現場ではそれが始まりになっていて、やっていくうちに「こういうやり方も新鮮だな」と感じるようになっていきました。救われた部分もたくさんあったんです。

Q 新たな感覚だったのですね。

というか、もうどっちでもいいんだなって(笑)。変なこだわりはなくなりましたね。

■俳優は熱演したくなってしまう

■俳優は熱演したくなってしまう

Q 千尋役の西川可奈子さんも圧倒的な演技でした。

すごいです。この現場で一番明るかったのが西川さん。どんな過酷なDVシーンの前でも、元気で笑顔でした。正直「大丈夫かな?」と思うこともありましたが、あれが西川さんのやり方なんでしょうね。でもこうした役って普通は熱演になってしまう。でも西川さんは、映画のなかでちゃんと千尋として生きていました。役との距離感がすごいなと思いました。

Q 千尋は感情的になる要素も満載でしたが、あまり爆発させないことで、内に秘める思いがすごく伝わってきました。

どうしても力が入ってしまいそうな役なのですが、そこで熱演してしまうと、観ている側は千尋の方に気持ちを持って行けない。でも西川さんは、役の手前に一つちゃんと冷静な自分がいる。それはすごい。どうしても熱演したくなっちゃうんですけれどね。僕もよく「熱演しないように」と自分自身に言い聞かせるのですが、西川さんは僕が好きなお芝居をされる女優さんでした。

Q 熱演したくなってしまうものなんですか?

役柄にもよりますが、どうしても熱演したくなってしまうことは多いのかなと。でも熱演って難しいことを難しいなと感じさせるお芝居だと思うんです。難しいことを簡単に見せる方がいいと思うんですよね。

■映画が役を作ってくれることも多い

■映画が役を作ってくれることも多い

Q 先ほどこの映画の魅力はグレーゾーンが広いところと話されていましたが、確かに登場人物たちの気持ちの余白を楽しめる作品ですね。

「どちらか」というはっきりとした映画もいいと思うのですが、曖昧なグレーゾーンを面白がってくれる人もいるはずなんです。僕たちが必要以上に提示しなくても、映画が導いてくれることもある。僕ら俳優も、自分で役柄を決めていくのではなく、映画が役を作ってくれると感じることも多いんです。だから僕らは必要以上に演技をすることはないと思っています。僕は映画の力を信じています。

Q いまのような考えが、高良さんの作品選びにも反映されているのですか? 商業的に成功するためには、より説明過多になる傾向が見受けられますが。

すごく簡単に言ってしまえば、それは好みの問題なんですよね。グレーゾーンが広い作品は好みではありますが、一方で、しっかりと答えを出してくれるエンターテインメント作品も好きです。どちらも必要だと思います。

Q 「誰からも認めてもらえない」という経験はありましたか?

転校が多かったので、最初はどうしてもみんなの輪に入れないという経験はありました。でも疎外感というのは、大小はありますが、誰にでもある感覚だと思うんです。最近の事件でも、加害者が存在を認めてもらえなかった過去があったという報道もありましたよね。それだけ人を狂わすものなんだと思います。この作品を観た人が、少しでもなにかを考えるきっかけになってくれたらいいなと思っています。
10代で俳優デビューした高良健吾も31歳。「久々にヒリヒリするような役だった」と笑顔で語っていたが、その言葉通り、劇中の三井を見ていると、こちら側の心もヒリヒリと痛み出す。写真撮影で見せる凜とした佇まいと圧倒的な存在感は、スクリーンのなかでは皆無だ。同じ人なのだろうか……と思ってしまうぐらい、孤独に蝕まれた三井に感情移入してしまう。衝撃のラスト、果たして三井は幸せだったのか不幸だったのか。その答えを確かめるために、再度劇場に足を運びたい。

取材・文:磯部正和 写真:フジイセイヤ

映画『アンダー・ユア・ベッド』は7月19日より全国公開

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