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『天気の子』新海誠監督 単独インタビュー

2019年7月22日 更新

『天気の子』新海誠監督 単独インタビュー

国内興行収入およそ250億3,000万円を記録した『君の名は。』を手がけた新海誠監督の最新作『天気の子』は、天候の調和が狂っていく時代に、運命に翻弄された少年と少女が自らの進む道を選択していくストーリーだ。前作が歴史的なヒットを記録しただけに否が応でも注目を浴びる今作だが「観客とのコミュニケーションを図りたかった」とあえて“賛否”が巻き起こるようなチャレンジを施したという。その真意はどこにあるのだろうか。新海監督が胸の内を語った。

■賛否両論が巻き起こる=観客とのコミュニケーション

■賛否両論が巻き起こる=観客とのコミュニケーション

Q 製作報告会見で、エンターテインメント作品でありつつ、観客に「投げかける部分が大きな作品」と話していましたが、そこにはどんな真意があるのでしょうか?

いま映画の鑑賞料金も上がり、劇場に足を運んでいただけるお客さんには、とにかく楽しんでもらいたい、特別な体験をしてもらいたいという思いが強いんです。そんななか『君の名は。』では、喜怒哀楽の感情を多くの人に届けられたという実感を味わうことができました。今回、東宝の夏休み映画のド真ん中という大舞台だからこそ、そこからさらにもう一つ、より強く観客とのコミュニケーションがとれるような作品にしようと考えたんです。

Q 「観客とのコミュニケーション」というのは?

僕らにとって、お客さんとのコミュニケーションというのは「いろいろな意見をいただく」ということです。ある意味で“賛否両論”が巻き起こるというのも、作り手にとってはすごく面白いことなんです。実際『君の名は。』のときも、賛否ははっきり分かれましたし、ずいぶん批判もされました。でもそれはありがたかった。今回は『君の名は。』よりもさらに大きな舞台。問題を投げかけたとき、いままで以上に大きな波が起きるのかなという期待もありました。

Q 新海監督の以前の作品も、ある意味でいろいろな議論が起きる作品が多かったような気がします。

そうですね、キャリアの浅かったときから、せっかく作品を観にきていただけるなら一つぐらい泣いてほしいとか、ゾクッと鳥肌が立つぐらいの映画体験をしてもらいたいなという思いは常に持っていました。

■主人公を完全に理解していなくても問題はない

■主人公を完全に理解していなくても問題はない

Q 主人公の帆高とヒロインの陽菜。演じているのは醍醐虎汰朗さんと森七菜さんというフレッシュな二人でした。

この作品はキャラクターありきではなく、「天気」というモチーフが最初にあった。そのために生まれたキャラクターだったので、役割は変わっていませんが、内面や行動については最初はクリアではなかったんです。そんななか醍醐くんと森さんに決まって、徐々にキャラクターの精度が高まっていきました。最終的に帆高ってこんな子なんだ、陽菜ってこういう行動をするんだというのは、彼らが約1か月アフレコをやっていくうちに固まっていったんです。

Q キャラクターがきっちり決まっていないなかで進んでいくというのは、新海監督のやり方なのでしょうか?

あえてそうしているわけではないですが、例えばヒロインがどんな女の子か、監督が把握していないというのは、それほど悪いことだとは思っていません。音楽や発する声によってもキャラクターは変化していくし、いろいろな人の思いの集合体としてそこに存在することは、作品にとってすごく良いことだと思っています。

Q 醍醐さんと森さんに演じてもらっていかがでしたか?

彼らが演じてくれてとても良かったです。特に森さんの演技は「陽菜というのはこういう子なんだな」と教えてくれるような説得力がありました。

■『君の名は。』があったから自由にやらせてもらえた制作現場

■『君の名は。』があったから自由にやらせてもらえた制作現場

Q 本作を制作するにあたり、『君の名は。』という作品を経験したことによるメリットは感じましたか?

はっきりとありました。試写を行わず、ギリギリまで制作をやらせてもらえたのは『君の名は。』のヒットのおかげだと思います。期待値は上がりましたが、そのぶん、許されることも増えました。制作過程においては本当に自由にやらせていただき、100パーセント自分が作るべきと思える作品が完成しました。キャスティングも物語の終わり方も、一切縛りはなかったです。

Q デメリットと感じることは?

制作に関してはメリットばかりだと思っています。前作で1,900万人という想像もできないような数の観客の方と出会うことができたのも大きかったです。ただ、デメリットという言葉ではないのですが、今作のタイアップ企業の数や、宣伝規模の大きさなどを客観的に見ると「大丈夫かな、責任とれないよ」という興行的なプレッシャーはかかりますよね(笑)。僕に数字的な義務はないですが、やっぱり責任は感じるので、ドキドキしますよね。

Q ご自身を取り巻く環境も大きく変わったのではないでしょうか?

自分自身の内面は大きく変わっていないのですが、単純にちょっと人生が窮屈になったかなというのはあります(笑)。例えばSNSを使っていてもポジティブとネガティブな側面がありますよね。常に誰かに見られているという気持ちにはなります。

Q 確かにSNS上での盛り上がりも『君の名は。』はすごかったです。ファンの分析や考察もディープでした。

すごいなと思います(笑)。映画って、テレビシリーズやマンガ連載と違って、2、3年かけて制作して公開したものがすべてなんです。出来上がってしまっているものなので、軌道修正ができない。だからあらゆる描写について、考え抜いた表現をしているんです。それでも予想外の意見や批判がある。そこが面白さでもあり怖さでもあります。考察についても、かなり踏み込んだものもあり、こちらの意図が伝わっているものや、それを超えているものもあります。『君の名は。』に瀧と三葉がカタワレ時に出会うシーンがありますが、古事記にある「国生み神話」をモチーフにしているという考察もあって……マジかって思ったりしました(笑)。

■リアルな街の描写は、現代と地続きの物語と意識してもらうため

■リアルな街の描写は、現代と地続きの物語と意識してもらうため

Q 聖地巡礼というのも、大きな話題になりました。新海監督の作品には、いつも「新宿」が出てきますね。

今回は新宿じゃなくてもいいかなという思いもあったのですが、ストーリーのなかで、良い場所はどこかなと探しているなか、一番イメージがピッタリあったのが新宿近辺だったんですよね。現代の東京を舞台にする以上、現在と地続きの物語だと思ってもらいたいので、どうしても現実の場所がベースになります。その副産物として“聖地巡礼”というものになっているのかなという感覚で、制作上、あまり意識はしていないです。

Q ロケハンはご自身で行うのですか?

スケジュールなどの都合にもよります。自分で行く場合もあれば、スタッフに行ってもらうこともあります。今回は、街歩きの先生にもコンタクトをとっていろいろと案内していただき、陽菜の家の周囲のロケーションは固めていきました。ロケハンなどのプリプロ(ダクション)は、苦しい制作作業が始まるまえなので、楽しいです(笑)。
映画公開直前に行ったインタビューに「少しナイーブになる時期なんですよね」と率直な胸の内を明かした新海誠監督。久々に娘さんと『君の名は。』を少し鑑賞して「前作はよくできていたな」と実感し、やや落ち込んだという。『君の名は。』の次にふさわしい題材を見つけ、前作を超えるべく、すべてを費やして完成した『天気の子』。出来には自信を持ちつつも、日本だけではなく世界規模で展開する興行に、少し心が落ち着かないようだった。それでも「劇場に足を運んでくれた人に損をさせたくない」と思いを込めた作品は「賛否は大歓迎」というように、どんな形でも観客の心に強く残る作品となっている。
(C) 2019「天気の子」製作委員会

取材・文:磯部正和 写真:中村嘉昭

映画『天気の子』は全国公開中

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