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『蜜蜂と遠雷』松岡茉優 単独インタビュー

2019年9月30日 更新

『蜜蜂と遠雷』松岡茉優 単独インタビュー

直木賞と本屋大賞をダブル受賞した恩田陸のベストセラー小説「蜜蜂と遠雷」が、松岡茉優主演で映画化された。長編初主演映画『勝手にふるえてろ』(2017)に続く主演作であり、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『万引き家族』(2018)以来の実写映画となる。松岡演じる亜夜はかつて天才少女と呼ばれるほどピアノの才能を持ちながらも、挫折を味わった繊細なキャラクター。国際コンクールでの再起に懸け、孤独と恐怖と闘いながら、ライバルたちと触発し合う難役に挑んだ松岡が、苦難の道のりを明かした。

■一発OKはワンシーンのみ

■一発OKはワンシーンのみ

Q 『勝手にふるえてろ』や『万引き家族』で演じたキャラクターは松岡さんの素の部分も感じさせましたが、『蜜蜂と遠雷』は天才ピアニストたちの物語。アプローチは簡単ではなかったと思います。

そうですね。『勝手にふるえてろ』『万引き家族』のときとは、まったく違いました。でも単に役をつくるという点では、わたしが最近出演した作品の中ではとてもやりやすかったんです。というのも、恩田先生が書かれた素晴らしい原作がありましたから。小説の中にすでに栄伝亜夜という人物が完璧な形で存在していたので、わたしがやることは活字上の人物にどうやって血を通わせるかということだけでした。もともと恩田先生のファンで、作品はほとんど読んでいましたが、今回は脚本と原作をセットにして持ち歩き、演じる上で悩むと原作を読み返すようにしていたんです。

Q 亜夜というキャラクターをつかめれば、天才ピアニスト役も難しくはなかった?

いえいえ、役づくりと技巧的なことはまた別問題です(笑)。ピアニストの指の動きを正確に覚えることは容易ではありませんでした(※実際のピアノ演奏は河村尚子)。この仕事をしていると、普段の自分がやっていないことを背負うことはままあることで、例えば、医療ドラマだったら医療の専門知識が必要になってきますし。そんな中でも、亜夜はこれまでになく難易度が高い役でした。石川慶監督から一発OKがもらえたのは、最終日の最後に撮った冒頭のシーンだけ。そのくらい大変な現場でした。

■言葉で語らないヒロイン

■言葉で語らないヒロイン

Q 亜夜は情感たっぷりなピアノ演奏を披露しますが、ステージを下りると口数が少ない。セリフで心情を表現できないもどかしさもあったと思います。

亜夜のセリフが少ないことに、撮影中も初号試写を観たときも気づかなかったんです。亜夜は普段からあまりしゃべらない女の子なんだと思います。わたしも亜夜を演じている間は、セリフが少ないとはまったく感じませんでした。

Q 言葉以上にピアノでコミュニケーションする亜夜に、すっかり成り切っていたようですね。松岡さんも子役から仕事をしていたわけですが、神童と呼ばれた亜夜に共感する部分はありましたか?

撮影中はわたしの近くに亜夜がいる感覚はありましたが、決して距離が近かったわけではなかったんです。亜夜は小さい頃に天才少女と呼ばれていたわけですが、おそらく彼女は音楽を職業だとは考えていないと思うんです。彼女にとってピアノを演奏することは、食事をしたり、息をしたりするのと同じくらいに自然な行為。ピアニストを職業にして食べていこうという考えは、特に持っていないのではないかと。わたしの場合は仕事をコンスタントにいただけましたが、食べていけるようになったのは高校を卒業してからですし、亜夜とは価値観は違うように思います。

■鈴鹿央士との連弾シーンは最高!

■鈴鹿央士との連弾シーンは最高!

Q 亜夜は、一番の理解者である母親を失ったショックでステージから逃げ出した過去がトラウマになっています。松岡さんご自身にそんな体験はありますか?

撮影を翌日に控えて眠れなくなることや、初号試写で自分の演技を観て落ち込むことはあります。でも、撮影中の現場を捨て、逃げようとは考えません。そうすることで、どれだけ周囲の人たちに迷惑を掛けてしまうのか、わかっていますし、これまでずっとわたしを支えてくれた両親や妹をがっかりさせられないので。亜夜は、失敗できない重責と闘っていますが、自分を応援してくれている人や陰で支えてくれている人たちがいることに気づく瞬間があるんです。わたしが大好きなシーンです。そういったところはすごく共感できましたね。

Q 正式なピアノ教育を受けていない異端児・風間塵(鈴鹿央士)と亜夜が、ピアノの連弾をするシーンがとても印象的です。天才同士が演奏しながら、神の領域へと近づいていくといった感じがありますね。

亜夜が音楽の楽しさを思い出す、とても大切なシーンでした。石川監督が「流れるように撮りたい」と長回しで撮影したんです。真夜中の空気の澄んだ倉庫の中で、塵役の鈴鹿くんと2人きりで「ピアノ演奏って楽しいね」とピアノを通じて会話しているような雰囲気でした。今回の撮影は大変な場面ばかりでしたが、連弾シーンとクライマックスのオーケストラとの共演シーンは、少ないテイク数で撮ることができたんです。石川監督、テイク数が増えるとわたしのテンションが落ちてくるのに気づいたようです(笑)。

■バラエティー番組にも積極的になる理由

■バラエティー番組にも積極的になる理由

Q 天才たちが刺激し合い、さらなる高みを目指す。『万引き家族』など、これまでに出演された作品の撮影現場でも感じたことはありますか?

『万引き家族』に限らず、それはいつも感じています。今回なら(コンクールの審査委員長役)斉藤由貴さん、(松坂桃李演じる高島明石の妻役)臼田あさ美さんなど先輩女優の方たちと共演させていただくことで、生き方ですとか仕事への向き合い方など、学ぶことがたくさんありました。でも、この仕事をしていると、自分が学んだことにすぐには気づけないんです。映画が完成するのは半年後や1年後になりますから。この『蜜蜂と遠雷』は5年後や10年後には、「あの作品に出てよかった」と確実に思える作品になっていると思います。

Q 最近では、俳優は演技だけでなく、映画の公開前にテレビのバラエティー番組などに出演して、宣伝することも大切な仕事になっています。松岡さんは率先して宣伝に努めている印象がありますが、どのような意識で取り組んでいるのでしょうか。

『蜜蜂と遠雷』がクランクアップした際に、主演ということでコメントを求められ、「俳優はお芝居が3、宣伝が7で……」とポロッと口にしたのですが、事務所の社長から「せめて、5対5にして」と叱られました。自分で自分の発言に引いてしまっています(苦笑)。なぜこの言葉が出てしまったのかというと、今回は主演ということもあって現場にずっといて、スタッフのみなさんが早朝から深夜まで頑張っている様子を見ていたので、少しでも多くの人に観てほしい、興行として成功してほしいといつも以上に感じたからなんです。俳優なのだから一定レベルの演技ができるのは当然という想いや、共演者たちの素晴らしい演技を間近で観て、自分が恥ずかしく感じられる瞬間もあり、「宣伝は頑張るから許して」という気持ちもあったかもしれません。でも、冷静に考えるとやっぱり「3対7」はないですよね(笑)。

取材・文:長野辰次 写真:尾鷲陽介

映画『蜜蜂と遠雷』は10月4日より全国公開

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