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『真実』是枝裕和監督 単独インタビュー

2019年10月17日 更新

『真実』是枝裕和監督 単独インタビュー

映画『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督の最新作『真実』。カトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュというフランスを代表する女優を母娘役に迎え、二人の間に隠された複雑な関係性を活写した本作は、第76回ベネチア国際映画祭でオープニング作品として上映されるなど、世界中から注目されている。長時間にわたるドヌーヴやビノシュへの取材を経て完成させた脚本を基に描かれた本作に込めた思いや撮影の裏側を是枝監督が語った。

■読後感が明るいものに

■読後感が明るいものに

Q 本作の構想は『万引き家族』の前からあったとお聞きしています。

そうですね。基になっているのは2003年に書いていた戯曲です。そこからフランスを舞台に、このキャストでという動きが始まったのが4年前なので、『万引き家族』よりも前であることは間違いないです。

Q これまでの是枝作品は、観客の想像力を掻き立てるような余白を与える作品が多かった印象でしたが、本作は非常に明快で爽やかな作品という印象を受けました。

前作の『万引き家族』も決してバッドエンドだとは思っていませんでしたが、やや重い感じがする作品だったので、読後感が明るいものになればいいなというコンセプトを持って臨みました。自分自身にもそういうものを作ってみたいという思いがあったんです。

Q 是枝監督の作品は、どうしても裏読みしたくなってしまうのですが、この作品はストレートな見方でいいのですか?

そういう先入観は良くないな(笑)。シンプルな話ですよ。というのも、構造自体が、ファビエンヌ(ドヌーヴ)とリュミール(ビノシュ)の母娘関係と、劇中劇の母娘が重なり合い、なおかつリュミールとシャルロット(クレモンティーヌ・グルニエ)が、見方によってはファビエンヌと小さかったころのリュミールにも見えるという三層構造になっているので、交わされる言葉自体はシンプルにしたかったのです。

■ロングインタビューを経て膨らんでいった脚本

■ロングインタビューを経て膨らんでいった脚本

Q 以前書かれた脚本からロングインタビューを重ねて完成させていったとお聞きしました。

インタビューをそのままセリフに起こしている部分はそれほど多くはないですが、印象に残っていたのが「あなたのDNAを受け継ぐ女優は誰ですか?」と聞いたとき「フランスには一人もいないわね」と話したことです。すごく面白くて、それはもらおうと思いました。

Q ドヌーヴさんは本を読んでどんなことをおっしゃっていましたか?

最初に書いたロングプロットを読んでもらったとき、ドヌーヴさんは「これはたぶん1950年代、(ビリー・ワイルダー監督の)『サンセット大通り』で描かれている女優像に近いので、フランスでいまも活躍している女優の話にするなら、人間関係を含めて20年ぐらい新しくした方がリアルよ」と言われました。そこで秘書との関係性などを直しました。

Q ファビエンヌという女優像にはどんな思いを込めているのでしょうか?

あまりこうあるべきだという思いはないのですが、ファビエンヌは非常に意固地で、弱さを隠すために強がっていることで、時代から取り残されてしまった女優。そのことに気づいているけれど、認められないという……。実際のドヌーヴさんは、チャリティーもやるし、政治にもちゃんとコミットされる方ですね。

Q 日仏合作映画という形をとっていますが、脚本に関して文化的な違いに気づかされた部分は?

リュミールと父親のピエール(ロジェ・ヴァン・オール)の関係は、少し本が動きましたね。日本の感覚だと、両親が離婚し、母親に育てられた娘の結婚式に、父親は呼ばれないんじゃないかなと思っていたのですが、現地の人に話を聞くと「父親であることは変わりないから呼ぶ」というのです。すると、ファビエンヌの家にピエールがフラッとやって来たとき、リュミールの夫のハンク(イーサン・ホーク)とは初対面ではないんだなとか、ファビエンヌのいまの旦那と前の旦那が一緒の食卓でディナーすることもあり得るのか……というような形にも発展していきました。

■「フランス人は」と大きな主語で捉えない

■「フランス人は」と大きな主語で捉えない

Q フランスでの撮影で感じた日本との違いはありましたか?

主語を「フランス人は」としてしまうと、画一化されたものになってしまうけれど、実際フランス人もそれぞれ考え方が違うので、その都度人に合わせて対処するのは、日本でもフランスでも変わらないですね。大きな主語で語るとき、それをあまり普遍的だと思わないように脳内変換することが大事なんじゃないですかね。

Q 劇中劇でフランスの撮影クルーの描写があり、ケータリングもおいしそうで、時間の流れもとても優雅に感じました。辛いと思われている日本の映画の撮影現場への風刺的な思いはありましたか?

そんなことは全然ないです(笑)。ただフランスはちゃんと夜は帰れますからね。あの撮影現場は実際に映画を撮っているスタッフが作ってくれているからリアルだと思います。でも劇中で描かれている撮影クルーは、監督を含めて “B級映画”という設定ではありました。

Q 劇中ファビエンヌは「映画には詩が必要」と語っていますが、是枝監督が書かれたセリフですか?

そうですね。あれは僕の考えをセリフにしました。美学というと硬い表現になってしまうかもしれませんが、どの作品も常日頃からそういう意識で撮っているつもりです。

■フランスでの公開がゴール

■フランスでの公開がゴール

Q フランスでも上映されたとお聞きしました。

ベネチア国際映画祭の合間に、パリでスタッフやキャストたちの試写会は行いました。まだ一般の方々の反応はわかりませんが、関係者がみな笑顔で映画のことを語り合っていてホッとしました。

Q プロモーションを含め世界規模での活動になってきていると思いますが、モノづくりには影響はありますか?

いろいろな人とやり取りをすることで「自分はこの作品でなにをやりたかったのだろうか」ということがクリアになってきたり、自分で意識していなかったことに気づかされたりすることがあります。プラスになっていると思います。

Q 本作を撮ったことで、次に繋がると思ったことはありますか?

作品としてフランスでの公開がゴールだと思っているので、フランスの観客の反応を見てからということになりますが、これがうまくいったという前提で話をすると、ファイナルカットの権利を僕が持つなどの自分のやりたい形を通すための契約ができるのならば、意外とどこでも撮れるのかなという感想は持ちました。言語の壁も完璧な通訳がいてくれるならば、大きな問題にはならないと感じました。

取材・文:磯部正和 写真:日吉永遠

映画『真実』は全国公開中

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