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『ひとよ』佐藤健 単独インタビュー

2019年11月5日 更新

『ひとよ』佐藤健 単独インタビュー

アクション、ラブストーリー、人間ドラマなど、どんな作品も縦横無尽に行き来しながら、確かな存在感を残し続けている佐藤健。30代を迎え、役者として脂の乗り切っている彼が、白石和彌監督最新作『ひとよ』では無精髭を生やした“やさぐれ男”に変身。新境地を切り開いた。三兄妹を守るために、ある事件を起こした母親。そして彼女の決断によって人生が狂ってしまった三兄妹の葛藤と戸惑いを描く本作。新たなチャレンジを重ねている佐藤が、年月を経るごとに変化した芝居への想いや、“引き寄せ力”の秘密を語った。

■即決で「やりたい」と思った白石監督との仕事

■即決で「やりたい」と思った白石監督との仕事

Q 話題作を世に送り出し続けている白石監督の最新作。白石監督が「主演は佐藤健さんでやりたい」と願い、オファーをされたそうです。

僕も「白石監督とぜひご一緒したい」とずっと思っていたので、ものすごくうれしかったです。脚本を読んでも非常に面白かったので、即決で「やりたい」というお話をしました。白石監督作品は、毎回とにかく面白い。僕は『彼女がその名を知らない鳥たち』が大好きなんですが、気持ちいいくらいに“騙された”映画で。日本映画で、そういった衝撃を受けたのは久々でした。ミステリーがうまい方という印象で、観ている側の気持ちを誘導したり、裏切ったりしていくのが、とてもうまい。映画づくりの才能がある方なんだろうなと、ずっと思っていました。

Q そんな白石組で主演を任されたことに、プレッシャーはありませんでしたか?

それはなかったですね。雄二役へのアプローチとして、出たもので勝負しようと思っていたこともあり、プレッシャーというよりも、逆にものすごく力が抜けていたように思います。白石監督、そして現場の空気に身を委ねていればいい映画になるだろうという確信があった。自分がなんとかしようという、気負いは必要ないなと思っていました。

Q 役者のみなさんには、脚本以外にキャラクターに関する設定資料も手渡されたそうですが、そういったことも含め、白石組の印象はいかがでしたでしょうか。

設定資料をどう役づくりに生かしたかということ以上に、そういったものをチームが作ってくれているということが非常に大事だと思っていて。家族やキャラクターについて、現場全体がしっかりと考えて、ある思いを共有している。その資料を見たときにも、この現場は信頼できる、力を抜いて飛び込めると思いました。実際の撮影現場は、ものすごく淡々と進んでいきました。白石監督はすごく判断が速いし、すべてに迷いや無駄がないんですよね。

■年齢を重ねて変化した芝居への想い

■年齢を重ねて変化した芝居への想い

Q 幼いころに抱いた夢とはかけ離れた生活を送り、いら立ちを抱えたフリーライターの雄二を演じました。役づくりでは、どのような準備をされましたか?

監督から「髭を生やしてみようか」というお話がありました。それもスタイルとして髭を生やすのではなく、雄二には髭を剃ったりする精神的余裕はないだろう、髭を剃ったりはしない人間だろうとイメージしていたので、無精髭にしました。また白石監督作品のキャラクターは線が太い方がいいのかなと思い、体重も増やしています。

Q 怒りをたたえているような、目の表情も印象的でした。目のお芝居で大事にしたことはありますか?

それはびっくりするくらいないです(笑)! そう言っていただけるのは、本当にうれしいです。でも俳優が「こういう目をしよう」「こういうことをしよう」と狙った瞬間、そこで終了かなと。「こういう芝居をしている」と見えないようにすることが大事だと思っています。それはやはり信頼できる監督や共演者の方がいるからこそ、できること。今回、本当にすばらしい方々とご一緒できました。

Q 何かをしようとしない……それはとても難しいことのように感じます!

不安にはなるかもしれませんね。僕も芝居を始めたころには、そういったアプローチはできませんでした。20代の半ばくらいからかなと思うんですが、経験や作品を重ねるごとに、役者は「何かをしよう」「ここで何かを伝えよう」などと考える必要はないんだなと感じるようになって。特に映画に関しては、作り手の予想をはるかに上回るくらいに、観客の方々がいろいろなことを想像してくれる。だからこそ、「こういうことを感じてください」ということをやった瞬間に、お客さんの気持ちは離れてしまうんじゃないかなと思うんです。僕は現場で感じたまま、心のままを表現して、そこから観客のみなさんが発見する喜びを味わう。いい作品って、そういうものなのかなと思っています。

■田中裕子さんとの共演にゾクゾクした!

■田中裕子さんとの共演にゾクゾクした!

Q 鈴木亮平さん、松岡茉優さんと三兄妹役。ナチュラルな空気感がありましたが、3人で兄妹役について話し合ったことはありますか?

雑談はたくさんしていたように思いますが、役やシーンについての話し合いはしていませんでした。三兄妹の関係性では、松岡さんに引っ張っていってもらったように感じています。三兄妹の空気を作っているのは松岡さんの演じた園子。僕は園子の空気に乗っかっていきました。松岡さんには触発されたし、とても助けられました。

Q 鈴木さんとは3度目の共演となり、ドラマ「天皇の料理番」に続いての兄弟役となりました。

確かにこれまでにも兄弟役をやっているので、なんの不安もなく、関係性を作れたのは大きかったと思います。鈴木さんなら、大丈夫だという安心感があった。鈴木さんはものすごくストイックだし、面倒くさいことから逃げないし、ひとつの役に命をかけられる方です。魂を削って役に向き合っていくような人なので、それはものすごく信頼できますよね。

Q 田中裕子さんが、圧倒的な存在感とともに母親を演じられています。共演の感想を教えてください。

なかなか一緒にお芝居をできる機会のある方ではないので、共演できることをものすごく楽しみにしていましたし、目が合った瞬間に、理屈じゃなくてゾクゾクする感じがありました。撮影では「ここでコメディーに振るんだ!」というシーンもあって、田中さんのお芝居に現場全体が驚かされていたように思います。シリアスとコメディーを行ったり来たりして、その中でリアリティーを持たせていて、チャーミングな肝っ玉母ちゃんになっていました。すごかったですね。

■役者は順位づけできない職業だからこそいつも全力

■役者は順位づけできない職業だからこそいつも全力

Q 30代のスタートに、本作に出られたことが励みになることはありますか?

今回、僕はいままでにないくらい他力本願スタイルで臨んだので、監督や共演者の方が違っていたら、僕の芝居もまったく違うものになっていたはずです。やっぱり役者を生かすのも監督次第だったりするので、白石監督に呼んでいただいて、すばらしい作品に仕上げていただいて、ただただ感謝です。もし次にご一緒できることがあれば、もうちょっと僕が白石監督を助けられるような芝居ができたらいいなと思っています。

Q 本作もそうですが、『いぬやしき』『ハード・コア』など心に闇を抱えた役柄を演じるなど、ここ数年は新境地に果敢にチャレンジしています。話題作への出演が相次いでいますが、ご自身の“引き寄せ力”を感じることはありますか?

本当に幸運なことだなと思っています。役者というのは、順位づけができない職業。オリンピック選手のように、金メダルや銀メダルがあるわけではないし、評価するのも難しい。しいていうならば、一流のスタッフの方々が本気で作品に取り組む際に「誰と一緒にやりたいか」と名前を挙げる順なのだとすれば、白石監督のような方からまた声をかけてもらえるように、ひとつひとつ積み重ねていくことが大事かなと思っています。そのためには常に全力でなければいけないし、その上でいい作品になるかどうかは題材や演出次第だと考えれば、出演する作品もしっかり吟味していく必要があると思っています。

取材・文:成田おり枝 写真:高野広美

映画『ひとよ』は11月8日より全国公開

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