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『すくってごらん』尾上松也 単独インタビュー

2021年3月11日 更新

『すくってごらん』尾上松也 単独インタビュー

大谷紀子の人気コミックを実写映画化した『すくってごらん』。メガバンクのエリート銀行員だったものの、些細なことで片田舎の町に左遷されてしまった香芝誠を演じたのが歌舞伎俳優の尾上松也だ。台本を読んで「なんてチャレンジングな作品。ぜひ出演したい」とオファーを受けた理由を述べた松也が、撮影で感じたことや、歌舞伎の舞台はもちろん、さまざまなジャンルで表現することに挑戦し続ける理由を語った。

■台本に込められた「チャレンジ」

■台本に込められた「チャレンジ」

Q 歌あり、踊りあり、そして金魚すくいが作品の大きなカギとなる、なかなかユニークな作品でしたが、台本を読んだときの率直な感想は?

正直、最初は「わけがわからないな」って思いました(笑)。でもある意味で、ハマるかハマらないかわからないけれど、制作側のチャレンジしてみようという思いが台本からすごく伝わってきて魅力を感じました。素直に参加したいなという気持ちになりました。

Q 真壁幸紀監督とはどんな話をされたのですか?

台本を読んでも完成形がイメージできなかったなか、真壁監督とお会いしてお話をしたとき「いろいろなところにトリッキーな仕掛けをします」と言っていたんです。そのなかで、作品として成立させるためには、香芝という主人公が、どういう思いで、どう成長していくかが重要だと。そこは自分のなかでも大切にしようと思いました。

Q 劇中で香芝は歌にダンスに、多彩な表現を見せています。松也さんのポテンシャルが存分に活かされる役のように感じます。

自分で言うのも恥ずかしいのですが、真壁監督が取材で「香芝という男は、ちゃんと歌えて芝居ができる人に演じてほしい」と話しているのを聞きました。すごくありがたい話ですが、僕自身は役柄というよりは、この作品のチャレンジ精神みたいなものに惹かれて、一緒に作品を作る仲間に入れてもらいたいと思ったんです。

Q 完成した作品を観て、そのチャレンジは満足いくものでしたか?

自分が出ている作品を素直に観ることって結構難しいのですが、僕は普通に面白い作品だなと思えました。真壁監督とお芝居をする前に話していた香芝の心情とか、物語の軸として捉えていた部分は、トリッキーな仕掛けがたくさん出てくるなかでも、見失っていなかったなとホッとしました。

■死ぬまでギラギラしたモチベーションは保ちたい

■死ぬまでギラギラしたモチベーションは保ちたい

Q 松也さん自身、挑戦することは好きなのですか?

僕自身、本質はどちらかというと怠け癖が強いので、追い込まれないと腰を上げないタイプなんです。だから自分自身を追い込んでいくことでエンジンがかかる。そこで新たに発見できる楽しさを知っているので、やったことがないことに挑戦するのは好きだと思います。

Q 年齢が上がるにつれて変化が億劫になってしまう部分はありますか?

もちろん年相応の落ち着きも必要だし、そこから生まれる大人の余裕も人間的な魅力に繋がると思います。でも、仕事に対しては、若いころにギラギラしていた野望みたいなものを失いたくないという思いが強いですね。死ぬまでギラギラしたモチベーションを保てればいいなと思っています。

Q これまで座長として舞台を引っ張ってきた経験はおありですが、映画は初主演。それもチャレンジでしたか?

映画の現場で主演を務めさせていただくことは未知の世界だったので、不安もありました。でも、舞台でもドラマでも現場の居方みたいなものは、自分のなかで印象としてあったので、同じように立ち振る舞ったつもりです。
主演として撮影現場ではどんなことを意識していましたか?
主演として参加させてもらうときは、共演者、スタッフの方々みなさんに楽しんでもらいたいという思いが強いです。作り手が楽しめなければ、お客さんには伝わらないですからね。だから現場の雰囲気がどうしたらよくなるのかは意識しました。ただ、歌舞伎だと、ほとんどの人間を知っているのですが、映画の現場は初対面の人ばかりだったので、その部分はちょっと心配でした。でもスタッフさんにもキャストの方々にも恵まれ、すごくいい雰囲気で撮影することができました。

■百田夏菜子はものすごくプロフェッショナル

■百田夏菜子はものすごくプロフェッショナル

Q ヒロインを務めた百田夏菜子さんとの撮影はいかがでしたか?

ものすごくプロフェッショナルな感じで僕なんかよりずっと大人だなと思いました。僕はカットが掛かったあとは、みんなでワイワイして盛り上げられたらと思っているのですが、ついついおふざけが過ぎてしまい、本番に切り替えるのに時間が掛かってしまいます。百田さんの場合は、そういう雰囲気に乗ってくれつつ、きっちり本番になると決める。かっこいいなと思いますね。百田夏菜子としてだけではなく、ももいろクローバーZというグループもしっかり背負っている感じがしました。

Q お芝居に関してはいかがでしたか?

すごく柔軟性がありましたね。僕が急に変化した芝居をしたときでも、しっかり対応してくれて、凝り固まっている感じがない。すごくいい影響を受けました。

■何らかの形で歌舞伎界に恩返ししたい

■何らかの形で歌舞伎界に恩返ししたい

Q 松也さんは現代劇に出演する際、歌舞伎界を背負っているという責任感みたいなものはあるのでしょうか?

背負うということではないですが、もし自分の芝居がよくなかったら歌舞伎のせいにされてしまうのかなという危機感はあります。「全然あいつダメだな。でも歌舞伎俳優だからしょうがないね」と言われたくないですよね。やっぱり「さすが歌舞伎俳優」と思われたい意識が強いです。僕のベースになっているのは歌舞伎ということは間違いないことなので、何らかの形で歌舞伎界に恩返しをしたいという思いですかね。

Q 歌舞伎を知らない人に知ってもらいたいという思いなのでしょうか?

それはあります。映画やドラマのお芝居だけではなく、バラエティーなどにも出演させていただいて思うのは、やっぱり幅広い世代の人に歌舞伎というものを知ってもらえて、興味を持ってもらえたら嬉しいなという気持ちですね。

Q 幅広いジャンルで活躍されていますが、今後の目標というものは具体的にあるのでしょうか?

僕自身、あまりいくつまでになにを成し遂げて……という風に計画を立てて遂行していくタイプではないんですよね(笑)。とりあえず目の前にあることにしっかりと取り組んで楽しむ。それによって次に繋がっていけばいいなと思っています。

Q この映画が公開後、どんなことを次に繋げたいですか?

この映画が評価されて『すくってごらん』の第2弾ができたらいいなと思っています。香芝という男を演じていて、この映画の先の彼も観てみたくなったので。
歌舞伎俳優としての活躍は言うにおよばず、近年は現代劇でも強い存在感を示している尾上松也。劇中では、ストレートな芝居はもちろん、歌にダンスにと、表現力の深さを存分に発揮しているが、なかでもやや低めな声の艶やかさは特筆ものだ。インタビューが行われたスタジオでも、松也の声はひときわ心地よく響き渡り、聴いている人を幸せな気分にさせてくれる。「とにかくチャレンジングな作品」と語っていたが、奇抜なストーリーに美しい映像、さらに松也の声をふくめた“音”にも注目だ。

取材・文:磯部正和 写真:高野広美

映画『すくってごらん』は3月12日より全国公開

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