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『BLUE/ブルー』松山ケンイチ 単独インタビュー

2021年4月5日 更新

『BLUE/ブルー』松山ケンイチ 単独インタビュー

『ヒメアノ~ル』『犬猿』などで知られる吉田恵輔監督が、30年以上続けてきたボクシングを題材にオリジナル脚本を書きおろした『BLUE/ブルー』。挑戦者を象徴する“ブルーコーナー”で戦い続けるボクサーたちの生きざまを、試合に勝てないベテラン、才能豊かなチャンピオン候補、モテたくて始めた新人という3人を通して描いている。本作で負け続きの主人公・瓜田を演じた松山が、やらないと決めていたボクサー役を引き受けた理由や、俳優としてのスタンスを明かした(吉田恵輔監督 の「吉」は「つちよし」が正式表記)。

■避けていたボクサー役に挑んだワケ

■避けていたボクサー役に挑んだワケ

Q 出演依頼を受けた際、最初は断ろうと思ったそうですね。

関西弁とボクシングは付け焼き刃で演じることはできないし、嘘もバレると思っていたので、避けたかったんです。ボクシングはテレビなどで実際の試合を見たことがある人も多いし、自分自身もボクシングを描いた作品はリアルに見られないことがある。役を成立させるには十分な準備の時間が必要なので、難しいと感じていたんです。

Q それでもやろうと思った理由は?

脚本がボクシングを抜きにしても面白かったし、もともと吉田監督の作品には、直接言葉で理解するよりも心に訴えかけてくるものがあると思っていたので、すごく惹かれていたんです。今回の作品も何か救われるというか、言葉にはできないようなものをちゃんと表現することができていて、そういう監督はなかなかいないと。僕自身(作品について)しゃべったりするより、セリフを通して伝えたいと思っているところもリンクするような感覚がありました。製作の方々が、ボクシングの練習をするための準備期間を設けてくださったというのも大きかったので、それなら腹を括ってやろうと思ったんです。

Q 連勝の後輩ボクサー・小川を演じた東出昌大さんから、一緒にやりたいとも言われたそうですね。

同時期に出演依頼があったようで、その頃偶然会った東出君から言われたことが、出演を決めるきっかけにもなりました。また、柄本時生君と木村文乃さんのキャスティングは出演を決めた後に聞いたのですが、中心人物を演じるその3人とは共演経験があって、すでに信頼関係ができていたので、安心感もありましたね。

■俳優として成功した実感がない

■俳優として成功した実感がない

Q 主人公の負けっぱなしのベテランボクサー・瓜田をどのように解釈して演じたのでしょう?

なぜ瓜田が殴られ続け、負け続けながらもボクシングを続けているのか、という疑問に向き合いながら演じていましたね。勝った時の快感が忘れられないというボクサーも多いようですが、最終的に自分の中で腑に落ちたのは、“居場所”だったのかなと。人って居場所がないと生きていけないですよね。それに、負け続けることで得てきたものもあるわけで、勝ち続けている人とは、考え方がまるで違うと思うんです。瓜田は、失敗や負けというものに向き合い続けてきた結果、それが芯の強さになって大きな人間になっている感じがする。生き物としての強さがあるとも言えるし、そこはこの作品を通して、いろんな人に感じてもらいたいなと思っています。あと、僕は勝負の世界には生きていないけど、いま思い返すと、俳優としてほとんど成功したことがないんですよね。

Q 成功したことがないとは? 瓜田が負け続けてきた部分でも、シンクロする部分があったということでしょうか。

自分が大きな人間になれているのかはわからないですが、挫折があったからこそ、いろいろなことを想定するようになったし、いま自分自身がこうして居られて、幸せだとも思えている。それは勝ち続けてきたり、成功し続けてきたからではないと思う。例えばボクサー役としての説得力でいえば、本物のボクサーが演じた方がいいので、実際に自分がプロボクサーとして試合に出るところまでやるという目標も立てられる。今回は負け続けている役柄なので、そこまでの目標は立てませんでしたが、その作品ごとに自分の中での目標があります。でも毎回「また目標にまで至らなかった」という感じがあるんですよね。

Q それは意外ですが、満足しないことが次の糧にもなっているわけですよね。

絶対に目標通りにできないとダメだということではないんです。ただ、いつも自分に負けている感じがする。でも、もし一回でも自分に勝ってしまったら、もう俳優をやっていないかもしれないとも思います。挑戦してみて、うまくいかないとすぐやめちゃうから、長続きしているものがあまりないんです。ちょっとでも興味があって面白いと思ったら試行錯誤してやってみることをすごく大事にしていますね。

■面白い人間でありたい

■面白い人間でありたい

Q シリアスからコメディーまで幅広い役柄を演じていますが、面白い役者でいることを心掛けているそうですね。

今はあまり意識していませんが、面白い俳優とは、きっとその人自体が面白いんだと思うんです。考えながら作り上げたものって、いつか虚像だというのがバレてしまう気がしているんです。でも本人が面白ければ、そういう虚像がなくても成立するのかなと。だから自分自身が面白い人間になれるように、と考えながら生活しています。

Q そのために意識して心がけていることはありますか?

仕事をし過ぎないことでしょうか。仕事ばかりだと、他のことをやる時間がなくなってしまいますし、職業柄プライベートの時間も仕事につなげていくことになるため、完全に仕事ではない時間を持つことも大事だと思っています。

Q とはいえ、今回は約2年間ボクシングジムに通い、過去には『聖の青春』で体重を20キロ以上増量するなど、長期の準備が必要な作品にも数多く出演されていますね。ストイックにのめり込んで取り組まざるをえない機会も多いのではないですか?

今回でいうと、ボクシングを練習する時間は一日の中のほんの少しにして、細く長くやっていました。ストイックに取り組んで自分自身のキャパシティを全部埋めちゃうと、いっぱいいっぱいになって、家族や周囲の人に迷惑をかけてしまいますし、どこかで集中力が切れて振り出しに戻るような恐れもあって、続かないんですよね。それに隙間を残しておかないと、新しいものも吸収できない。なので、そういう配分は大事にしています。

■コロナ禍で思うこと

■コロナ禍で思うこと

Q コロナ禍で俳優として変化はありましたか?

僕自身の普段の生活は、あまり変わっていないんですよね。コロナ以前から家族と過ごす時間もつくっていたので。だからずっと子供たちと一緒に居て、心を揺さぶられたり、反省したり、いろいろな異業種の方たちとも話をしたりして、「こんな感性があるんだ」「面白いなあ」と刺激を受けながら、ペースを乱されることなく生活していた気がします。

Q コロナ禍の撮影現場で、どんな思いでいますか?

撮影現場でもマスクをしなければいけないし、差し入れや打ち上げもできない。コミュニケーションをとる機会が少なくなったと思います。今後、作品作りというもの自体がどうなっていくのかわからないですし、製作本数が少なくなったりすることもあるかもしれませんが、そうなった時に生きていけないようにはなりたくないと思っていて。それに勝ち負けではなく、自分が納得いくように元気で生きていけたらいいなと思います。
静かなラストシーンで主人公・瓜田の姿に、好きなことをやり続けられる幸福のようなものを感じて、胸が熱くなった。本作の特色について松山は、通常はアクション監督などに任せるボクシングシーンも吉田監督自身が演出しており、見た目の派手さや華麗さはないが、体の表情のようなものまで表現されたリアルなボクシングシーンになっているとも語っていた。俳優である前に人として自然体でいることを心掛けていることが、松山の言葉の端々から伝わってきた。
(C) 2021「BLUE/ブルー」製作委員会

取材・文:天本伸一郎 写真:杉映貴子

映画『BLUE/ブルー』は4月9日より全国公開

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