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『未来へのかたち』伊藤淳史 単独インタビュー

2021年5月10日 更新

『未来へのかたち』伊藤淳史 単独インタビュー

愛媛県にある小さな焼き物の里・砥部町を舞台にした家族の物語『未来へのかたち』。「オリンピック聖火台をぜひ砥部焼で」と沸く街で、すれ違う家族の絆を取り戻そうとする、砥部焼きの窯元の若き主人・竜青を演じたのは伊藤淳史。妻役に内山理名、数年ぶりに実家に戻ってくる兄役に吉岡秀隆、そして頑固な職人肌の竜青の父親・竜見には橋爪功という豪華なキャスティングが実現した本作で、オール愛媛ロケで焼き物にも初挑戦した伊藤が撮影を振り返り、改めて感じた家族への思いを真っすぐに語る。

■完璧な先生のもとで焼き物に初挑戦

■完璧な先生のもとで焼き物に初挑戦

Q モチーフとなった砥部焼はご存じでしたか?

名前を聞いたことがあるくらいで、詳しくは知りませんでした。焼き物のお話と聞いて、最初は職人さんの厳しい世界をイメージしていましたが、ご指導いただく先生方に実際にお会いしてみると、皆さん本当に温かくて素敵な方ばかりでした。

Q 陶芸家の役づくりは大変と聞きますが?

撮影まであまり時間がなかったのですが、職人さんにみっちり教えてもらいました。それこそ怖い人が登場するんじゃないかと不安もあったのですが、先生は優しくて褒め上手で、助かりました。陶芸の技術はもちろん、より陶芸家らしく見える工程を中心に、カメラのアングルを意識した指の力の入れ方など、細かくアドバイスしてくださったので、それらしく見えていたとしたら、先生のおかげです。

Q 実際の職人さんに触れて、竜青の役づくりに生かされたことはありますか?

作品の舞台になっている「きよし窯」さんがとてもスタイリッシュなんです。建物自体にも新しい風を取り入れているなという感じがしました。職人といっても、いまどきの若者らしさを前面に出していいんだという大きなヒントになりました。それに相対する伝統を守る職人の厳しさは(父親役の)橋爪(功)さんが役柄で表現してくださっているので、竜青は若くして結婚して家庭を持ち、自分のやりたいことに真っすぐでプライドを持っている。だから、職人さんっぽい役づくりより、強い思いを持った男の役なんだということを大事にしました。

■撮影現場で大事にしているのは「仲良く、楽しく」

■撮影現場で大事にしているのは「仲良く、楽しく」

Q 父との対立や兄とのいさかいなど、不器用な男系家族が描かれていきます。

頭ではわかっていても、男として、一度口にしたことを簡単に曲げることはできない気持ちはすごくわかります。それが信念であり、自分らしさを表現する方法なんです。父子の繋がりだけで捉えれば、もうちょっと違う打開策があるかもしれないのですが、それぞれが職人同士で良くも悪くもぶつかってしまう。僕が演じる竜青のやりたいことは新しい砥部焼。そんなものは砥部焼じゃないという父親。どちらも間違ってないし、どちらも素晴らしいことなのに、なかなか歩み寄ることができない。そこにはなにかきっかけが必要で、そのきっかけを砥部焼が作ってくれる。エンターテインメントとして感動的な要素がいっぱい盛り込まれていて、それが自然に調和しているのは監督や台本の力、橋爪さんや吉岡(秀隆)さんをはじめとしたみんなの力なのかなと思います。

Q それにしても、すごいキャリアのメンバーが揃いましたね。

芸能界のトップオブトップみたいな、すごい人たちばかりで、毎日「本当にすみません。ありがとうございます」と恐縮していました。橋爪さんも吉岡さんも数え切れないほどの経験をしていらっしゃるので、撮影現場での居方が絶妙なんです。待ち時間が長引いて雰囲気が悪くなりそうになった時など、ちょっとしたことで場を明るく盛り上げてくれる。特に橋爪さんは余計な気遣いをさせないよう気軽に話しかけてくださって、自然と親子の距離感が出来上がりました。もちろん時には、演じる父・竜見のような威厳でムードをまとめあげることもあり、共演の皆さんに関しては感謝しかないです。

Q 主演として意識していたことはありますか?

撮影現場ではいつも「仲良く、楽しく」を大事にしています。スタッフさんともいっぱい話すし、キャストの皆さんとも積極的にコミュニケーションを取るよう心掛けています。(妻役の)内山(理名)さんとは初共演だったのですが、すぐに打ち解けて、初日からすっかり家族っぽい雰囲気でいられました。

■子どもの頃の夢は役者ではなくサッカー選手

■子どもの頃の夢は役者ではなくサッカー選手

Q オール愛媛ロケの空気感はいかがでしたか?

砥部で撮影してなかったら、どうなっていたのかと思います。町中に砥部焼があふれている町で、いろんな窯元さんのさまざまな作品が飾られていて、少し足を延ばせば都会では考えられないような広い家があって、背後には山がそびえていて……。いるだけで空気が違いました。

Q 砥部焼の職人という家族の関係がユニークですが、伊藤さんのお子さんがもし俳優になりたいと言ったら、どうしますか?

素晴らしい質問ですね(笑)。本人がやりたいって言ったら止められませんが、止めたい気持ちもあります。ありがたいことに僕は作品に恵まれていますが、やっぱり厳しい世界です。もちろん、どの世界も厳しいんですけど、少なくとも自分からは勧めません。実は先日、試しに3歳の息子に「テレビ、出たい?」って聞いてみたら、「うん!」って言っちゃったんですよ。僕がこの仕事を始めたきっかけは、祖母がテレビ好きで、僕が3歳の時に「あっちゃん、テレビに出る?」って聞いたら、僕がうなずいたらしいんです。そこから僕の芸能界の歴史が始まりました。結果的に感謝はしているんですけども、子どもってたいていのことに「うん」って言うんだなと身をもって感じました(笑)。

Q 竜青は砥部焼で聖火台を作りたいという夢を抱き続けていましたが、子役から活躍していた伊藤さんにはどんな夢があったんでしょうか?

サッカー選手です。小学校3年生の時にちょうどJリーグが開幕して、部活に明け暮れていました。劇団に入って仕事はしていましたが、将来は役者になりたいとは思っていなくて、中学の頃には一度、劇団を辞めたんです。辞めてしばらく経った時、当時の劇団のマネージャーさんが「いい役があるから、ちょっとオーディションだけでも受けてみない?」と連絡をくださって、それが15歳の時に出演した映画『独立少年合唱団』(2000)。そこから本格的にこの仕事をしたいと思うようになりました。

■娘から気づかされた仕事への思い

■娘から気づかされた仕事への思い

Q 作品は一度、公開延期となりました。仕事に関して心境の変化はありましたか?

今回は新型コロナウイルスの影響でしたが、その時々で揺れることはあります。東日本大震災の時もそうでした。例えばお医者さんのような絶対に必要な職業の人がいる一方、エンターテインメントや娯楽に関する仕事は必要ないんじゃないか? と思うことはありますし、今でも思います。それでも街で声をかけてもらったり、「感動しました」って言葉をいただいたりすると、必要だと思ってくれている人が確実にいるんだと感じられて、頑張りたいと思います。加えて、家族ができて守るべきものや責任も生まれてきました。それまではどこか自己満足と隣り合わせというか、自分がやりたいからやっているみたいな思いもあったんです。でも、いまは必要か必要じゃないかということより、家族のために自分のできる仕事はこれしかない。今回、家にいる時間が増えて、子どもたちを見ていると考えさせられました。

Q 「家族」がテーマの作品だけに、影響を受けることもありましたか?

自分が大切だと思うものを、より大切にしていきたい。こういう状況だからこそ、改めて考えるきっかけにもなりました。最近、5歳の娘が僕の仕事を少しずつ理解し始めていて、僕が「仕事に行ってくるね」と楽しそうに出かける姿や帰ってきて満足そうにしているのを見かけたのでしょう。「パパはいいね。大好きなことがお仕事になっているんだね」と言われたんです。先ほどは責任って言いましたけど、やっぱり大好きだと思って、仕事をしている自分がいます。そんな気持ちに気づかせてもらって、はっとしました。家族って本当にすごいですね。
取材中、「感謝しかないです」「ありがたかったです」と共演者やスタッフ、関係者、そして家族と多くの人たちに感謝の言葉を口にしていた伊藤淳史。子どもの頃から第一線で活躍している大ベテランでありながら、イメージと違わず謙虚な人だった。劇中では高校生の娘(桜田ひより)に対してちょっと怖いお父さんだったが、実際には5歳の娘さんと3歳の息子さんの優しきパパ。今後は素敵な父親役もどんどん増えていきそう。

取材・文:高山亜紀 写真:高野広美

映画『未来へのかたち』は全国公開中

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