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『空白』古田新太 単独インタビュー

2021年9月16日 更新

『空白』古田新太 単独インタビュー

女子中学生がスーパーの店長に万引きを疑われ、追いかけられた末に車に轢かれて亡くなってしまう……。そんなショッキングな事件から始まるサスペンス『空白』。『ヒメアノ~ル』『犬猿』などの吉田恵輔が監督・脚本を務めた本作で、亡くなった娘の無実を証明しようと、スーパーの店長や周囲の人々を徹底的に追い詰めていく主人公・添田充を演じた古田新太が、「いいチームだった」という充実した撮影現場を振り返った。(吉田恵輔監督 の「吉」は「つちよし」が正式表記)

■「オイラでこれ撮るの?」と驚いた

■「オイラでこれ撮るの?」と驚いた

Q 出演を決める上で最も惹かれた点は?

添田のように「追い込まれていく人間」というのは、オイラにいただける役としては珍しいなと。これまでは余裕ぶっこいたような奴を演じることが多かったので、「オイラでこれ撮るの?」とも思ったんだけど、「へえ~、こういう作品にオイラを使うんだ」「松坂桃李くんをいじめる役か」っていうところにまず興味を持ちました。

Q 主人公の添田充は、どのような役だと解釈されましたか。

自分のことを棚に上げて怒っているおじさんだったので、そういう偏った人間というのは演じていて楽しかったです。感情を出すのが不器用で表情はあまり変わらないんですけど、感情の起伏は激しい人なので、テンションだけは高くしようと思っていました。すぐにプチッと切れてしまう怒りっぽい人なので、常に瞬間湯沸かし器のようになっていなきゃいけない。でも根っこはイイ漁師さんで、仕事もできる。離婚してはいますが、娘の親権は自分が持っているし、元嫁の再婚相手にも嫉妬するから、人間的な愛情は持っている。「俺が一番娘を愛していた」とさえ思っているけれど、その表現ができなかった。わかってあげようともしなかったから離婚しているし、娘のことも弟子のことも実はよく知らないという。内ではそんなことを思いながらも、それを表現しないようにするのは楽しかったです。

■感情を表情で表現する必要はない

■感情を表情で表現する必要はない

Q 物語が進むうち、娘を奪われた怒りにまかせて事件の真相を暴こうと猛進していた添田の感情が変化していきますが、どのように演じようと思われましたか。

内なる葛藤などはありますが、それは自分の中で思っていればいいことで、感情をあからさまに表現する必要はなかったです。自分の中では最初から最後までなるべく表現を変えないし、ずっと同じ人間として映っていく。だけど、周りの人間との関係によって、演じている役の見え方が変わっていく。映画は、極端なことを言えば無表情を撮ってくれるカメラと、その画(え)をうまく選んでくれる監督がいればいいと思っています。映画というのはアップもあるし、いろんな撮り方をしてくれるし、音楽がつくこともある。それによって心情も映るものだから、オーバージェスチャーは必要ないし、感情を表情で表現する必要はないと思っているんです。自分の芝居としては座っている、タバコを吸っているとかだけで、その映り方はカメラや監督の演出に委ねる。そういう芝居に関しては、この作品では特化できたように思います。

Q シナリオ自体に感情の変化が書かれているから、役者があからさまに表現を変えなくても伝わるはずだし、どのように見えるのかは監督の演出や見る観客に委ねるものが映画だと思っているということですね。

だから、娘が亡くなった後に田畑智子ちゃんが演じる元の奥さんが家にやってきたときのイラつきと、寺島しのぶちゃんが演じるスーパーの店員と小競り合いをしているときのイラつきなどは、表現的にはあまり変えていないんです。それは松坂桃李くんが演じるスーパーの店長に対するイラつきとかでもそう。野村麻純ちゃんと片岡礼子ちゃんの演じた、娘を車で轢いた加害者とその母親への接し方についても、最初のシーンも後半のシーンも自分の芝居はあまり変えてない。でも完成品を観ると、それぞれ違って見えるんですよね。心の動きというのは、相手役によって見え方が変わってくる。それは藤原季節くんの演じた弟子との関わり方もしかりで。それは演じていて楽しかったし、完成した作品を観ても面白かったです。

■松坂桃李演じる店長はずっと謝っていた

■松坂桃李演じる店長はずっと謝っていた

Q 撮影現場の充実ぶりが感じられますね。

𠮷田監督はまず自由にやらせてくれた上で、「すいません。タバコ投げちゃってください」とかすごくわかりやすい演出をしてくれるし、ちゃんとこちらの芝居の意図を解釈してくれるので、ストレスのない現場でした。『愛しのアイリーン』(2018)などこれまでの作風を観ると、「暗い人なのかな?」とも思っていたんですけど、全然そんなことなくて愉快な監督でしたね。

Q 劇中、最も関わりの深いスーパーの店長を演じた松坂桃李さんとの共演はいかがでしたか。

桃李くんの演じた追い詰められていく店長と、彼を追い詰めていくオイラの演じた役は、メインの共演者たちの中でいうと、実際の共演シーンとしては実は一番短かったかもしれません。夜の街で店長を待ち伏せし、ずっと罵詈雑言をぶつけながら追いかけていき、缶ビールを投げつけるみたいなところは、すごく楽しかったです。桃李くんの演じた店長は、最初から最後までずっと謝っていましたし(笑)。

Q 漁師の弟子を演じた藤原季節さんとは共演シーンも多かったですね。

二人で船や車に乗っているシーンが多かったんですが、アドリブじゃないけれど、オイラが勝手なことをやっても、ちゃんと返してくれる。もうちょっと堅い感じかなと思っていたらすごく臨機応変だったので、「良き若者だなあ」と。また共演したいと思いました。

■切り替えができる役者が集まっていた

■切り替えができる役者が集まっていた

Q 他の共演者の方も、田畑智子さん、片岡礼子さん、寺島しのぶさんなど、芝居の上手い俳優さんばかりが揃っていましたね。

本当にそれで言うと、娘の学校の先生を演じた趣里ちゃんや娘の花音を演じた伊東蒼ちゃんなどの若い子も含めて、芝居を固めてこないというか、現場で起こったことに対応できるチームで良かったですね。自分は、カメラが回ってからの相手役の方とのその場の芝居を楽しむタイプなので、事前に役を固めて作り込んできたり、入り込みすぎて普段も役が抜けないという人が苦手なんです(笑)。急に監督からの注文で、「こういう芝居にしてください」と言われても、「いや、わたしはこう思います」と主張して揉めるような人が一人もいなかった(笑)。オイラはカメラが回っている最中は集中するけど、「はい、カット!」って終わったら、すぐに「今日どこ(に飲みに)行く?」なんて言っているタイプ。𠮷田監督も含めてそういう感じの人ばかりのチームだったので、すごくよかったです。

Q 完成品を観た上でも、満足のいく作品が出来上がったようですね。

かわいそうな人しか出てこないというのは、笑えるなあと(笑)。というのも、撮影中は仲の良い俳優たちばかりだったので和気あいあいとやっていたんですけど、完成した作品を観るとかわいそうな人ばかり(笑)。片岡礼子ちゃんと野村麻純ちゃんの演じた親子も本当にかわいそうに見えるけど、そんなシーンの撮影後、3人で飲みに行ってケラケラ笑いあっていましたから。それはやっぱり映画の妙だと思うし、すごく面白かった。コロナが始まる少し前に撮っていたので、まだ飲みに行くこともできたし、ギリギリで撮ることができた。基本的にはスケジュールの合う限りどんな作品にも出演させていただきたいと思っていますが、特に映像作品ではせっかくなら自分の中にないキャラクターをやりたいと思っているんです。この作品は、愉快で楽しいエンタメ作品じゃないかもしれないけど、笑いがなくて全員が追い込まれていくというような作品や役は滅多にやらないので、俳優としてはやりがいがあったし、本当に楽しかったです。
古田は舞台を中心に活躍していることもあり、舞台に比べると映像作品の主演は少ないが、今回もその圧倒的な存在感を全編で発揮している。亡くなった女子中学生は何を考えていたのか、彼女は本当に万引きをしたのか、スーパーの店長は何かを隠していないのか……などの心のミステリーと共に、主人公と彼に追い詰められていく周囲の人々との複雑な関係や過熱する報道の恐怖なども描かれ、観る者の心を揺さぶる本作。古田の芝居もそうだが、この作品自体をどう見るかも観客に委ねられており、それを信じて撮られた作品だともいえるだろう。
©2021『空白』製作委員会

取材・文:天本伸一郎 写真:木川将史

映画『空白』は9月23日より全国公開

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