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『マイ・ダディ』ムロツヨシ 単独インタビュー

2021年9月21日 更新

『マイ・ダディ』ムロツヨシ 単独インタビュー

幅広い分野で大活躍中のムロツヨシが、俳優人生25年のメモリアルイヤーに実写映画初主演した金井純一監督のオリジナル脚本作『マイ・ダディ』。中学生の一人娘が白血病になってしまったシングルファーザーの牧師が、愛する娘の生命の危機の最中に、娘と自分に血縁関係がないという衝撃の事実を知り、愛していた亡き妻への疑惑など、さまざまな葛藤に苛まれる。さえない中年男だがユーモアもある優しい父親・御堂一男を演じたムロが、本作に込めた強い思いを明かした。

■この作品の世界に存在していたい

■この作品の世界に存在していたい

Q 金井純一監督の書いた初期段階の脚本を読んで「この世界にいたい。この人(一男)になりたい」と、出演を即決されたそうですが、どんなところに魅力を感じたのですか。

親子愛に翻弄される一男という男の真っ直ぐさや人間臭さですね。本当に純粋だし、愛を信じているけど、その愛に裏切られる。亡くなった妻を愛し、信じていたからこそ、実は自分と娘に血縁関係がないと知ったとき、妻を信じられなくなった瞬間の自分を恨み始めるんです。そこで絶対に奪われてはいけないと思ったものが娘だった。最初に脚本を読んだときは、客観的な読みものとしてすごく面白くて純粋な世界だなと。現実にあってほしいし、その世界に僕が存在していたいと感じて、出演を即決しました。それに、真っ直ぐな親子愛の物語ですが、それだけではなくいろいろな要素が入っている。また、よくある難病ものかと思いきや、そんなわかりやすい簡単な物語でもない。実は時間軸をずらしていたり、ミスリードさせるような構成にもなっていて、映画としての面白さがある作品だと。

Q 父親を演じることにも特別な思いがありましたか。

思い入れはもちろん強いですし、簡単にやってはいけないなと考えています。例えば、実際の父親の方や他の作品を見て、そこから何かをチョイスしたり、こういうふうにやれば説得力があるなどと安易に考えないようにしています。僕は親戚の家やおばあちゃんに育ててもらったので、無条件に抱きつけるような人は4歳からいませんでした。そういう人間が父親を演じたときに説得力があるのか、どう見られるのかなとは考えましたが、今回演じた一男はちょっと僕自身と境遇が似ていたので、僕がやる意味があったのかなとも思っています。

■あえて準備をしないで臨んだ覚悟

■あえて準備をしないで臨んだ覚悟

Q 一男という役を演じるために、準備をされたこととは?

今回はほとんどありません。僕は父親になったことがないので、どんな演技をするかといった準備をしてしまうと形から入ってしまい、父親ごっこのようにもなりかねないし、感情を狭めてしまうかなと。もちろん親になったことがない事実は変わらないけど、撮影現場で目の前の娘と対峙したときの自分のリアルな表情や感情を信用しようと思ったんです。だからセリフを覚える以外の準備をしないで撮影現場に臨む恐怖もあったし、覚悟が必要でした。

Q 普段は事前に役づくりなどの準備をしていくことも多いのですか。

今回は違うけど、恰好よく見えるので、他の作品でも準備してないとは言っています(笑)。でも、普段はこういうお芝居をしたら面白いだろうなと事前に考えた上で、監督が現場で言ってくれたことをプラスできるスペースを空けて本番に臨む場合が多いですね。それに他の作品では、物語の中でつながって見えるようにとか、人として多様な面があるように見せたいということを考えて演じていますが、今回の役に関しては、あえてそういうことを考えずにその場の感情で演じたところがあったので、他の作品とは違いました。

■脚本への提案と監督からの演出

■脚本への提案と監督からの演出

Q ご自身のアイデアが生かされたところもありましたか。

脚本が決定稿に至るまでには、僕の意見も言わせていただきました。最初に読んだ脚本から少しずつ変化していったのですが、わかりやすくなって良くなった部分もあるものの、初見で読んだ感動が薄れていく感覚があったんです。僕も脚本を書いたり、演出の経験もあるから、何度も脚本を読みこんで改稿していくと、わかりやすくしようとしすぎたり、逆に難しくしようとしたりなど、いろいろな段階があるのがわかる。この話はこれ以上安易にわかりやすくしすぎると本当の良さがなくなると思ったので、生まれたてのものを信用しましょうということで、ある箇所は最初の脚本に戻す提案をさせていただきました。それによって最後の娘と父の会話にリアルさがあるというか、成立している部分があるのではないかとも思っています。

Q 金井監督からはどんな演出がありましたか。

金井監督自身が生んだ物語ですから、監督には「思ったことは全部言ってほしい」と伝えましたが、僕の芝居自体は任せていただけました。ただ、亡くなった妻が好きだったのはもしかしたら夫の僕じゃなかったかもしれないという葛藤のシーンは、すごく細かく演出していただきました。例えば教会で机を何度もたたいて悔しがるとか、こういう顔をして悲しんでほしいとか。それはすんなり腑に落ちて芝居ができたので、偉そうな意味ではなくいち役者としていい演出を受けられた喜びを「今日の演出最高でした」と監督に伝えたこともありました。

■役者を目指して25年かかった初主演映画

■役者を目指して25年かかった初主演映画

Q 初主演映画であることは意識されましたか。

そこに大きなこだわりはなく、結果的にそうなった感じです。ただ、人生で一回きりのことなので、この作品を初主演映画にしたいと思ったところがなかったと言えば嘘になりますし、思い入れは強いですね。なんだかんだ役者を目指して25年かかっての初主演映画ですからね。

Q 共演経験があったり、普段から親交の深い方々も出演されていますね。

今回は、僕の初出演映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005)から約17年もの間お付き合いがあり、ずっと僕の活動を見てきてくれたプロデューサーの村上公一さんより、脚本を読んで最初に思い浮かんだのが僕だったということで話をいただきました。そしてその映画デビュー作で、その後も一緒に舞台などをやる永野宗典や本多力にも出会っていて、本多は出演できなかったものの、彼らには今回の映画のどこかに居てもらいたいなと思いました。主演だからと共演者の希望を言うのはどうかとも思いましたが、他にも名前をあげさせていただいたり、僕が直接出演をお願いした方もいます。そういう方たちと一緒にやれるのは、初主演じゃなくてもやっぱりうれしいですね。

Q コロナ禍でも、インスタライブ、野外での舞台公演、映像制作ユニット・非同期テック部など、精力的に活動されていますが、主演の舞台、ドラマ、映画も経た今後は、どんなことをやりたいと考えていますか。

これからもたくさんの映画やドラマ作りに参加していきたいですね。いろいろな活動をやっているのも、基本的には全て役者のためです。役者っていらない経験は一つもない。それに今の世の中は、人前に立って何かを表現することの責任とやりがいが広がっているのと同時に、一方でそれらがやりにくい時代になってきたとも思う。この時代に置いていかれるのは嫌ですから、役者としての核を育てるためにも、より一層いろいろなことをやって吸収しないといけない。それに、新しいことをやる若い世代の方たちの方が確実に強くて素晴らしいけど、その方たちがもっと多く生まれるための前例となるような自分発信のものは、これからも続けていきたい。良い例ではなく、反面教師のような失敗例でもいいから、若い世代の皆さんの前例にならないと、僕もやっている意味がない。だから自分のケツをたたいて頑張り続けたいと思っています。
概略だけをいえば難病ものの親子の感動話となるのかもしれないが、本作の魅力の本質は、血のつながらない娘と亡くなった妻との愛、それらを疑うのか信じるのかといった、家族の愛を巡って心の深淵を探ろうとするようなところにあるものだと感じた。そんな作品自体がシリアス一辺倒になっていないのは、主人公を演じたムロならではの柔らかな存在感も大きい。脚本作りや娘を演じた中田乃愛のオーディションにも関わったというムロは、思い入れが強すぎて本作を客観的に見ることができないとも語っていたが、代表作の一つとなることは間違いないだろう。

取材・文:天本伸一郎 写真:中村嘉昭

映画『マイ・ダディ』は9月23日より全国公開

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