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『老後の資金がありません!』天海祐希 単独インタビュー

2021年10月25日 更新

『老後の資金がありません!』天海祐希 単独インタビュー

垣谷美雨のベストセラー小説を『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲監督が映画化したお金のコメディ・エンターテイメント『老後の資金がありません!』。老後のお金の問題という、高齢化社会の現代日本で誰もが直面する切実な課題に、一人の主婦が立ち向かう姿をユーモラスに描いている。義父の葬儀、娘の結婚、夫の失業、浪費家のセレブ義母との同居など、不測の事態の連続で出費がかさみ、お金の災難に振り回される主人公の主婦・後藤篤子を演じた天海祐希が、撮影の舞台裏や自らの老後について語った。

■主婦を演じられるのはうれしい

■主婦を演じられるのはうれしい

Q 出演依頼を受ける上で最も惹かれたところとは。

ちょうどこのお話をいただく直前に、「老後の資金は2,000万円必要」というようなニュースが流れていたので、タイムリーな作品だなと。それに、わたしはシャキシャキした役をいただくことが多い中、表現は良くないですが“普通の主婦”と言われるような、世の中の主婦の方の最大公約数のような女性の役を、独身のわたしに振っていただけるというのはすごくありがたいなと思い、喜んで受けさせていただきました。

Q 節約をモットーにお金をやりくりし、家族を支える主婦の篤子という役をどのように演じましたか。

とにかく一生懸命な人ですね。ぶち当たる壁を一生懸命に乗り越える努力をした人だと思って演じていました。

Q 魅力的な共演者が数多く出演されていますが、家計は妻の篤子に任せっきりの夫・章を演じた松重豊さんとの共演はいかがでしたか。

本当に心強かったです。どんなお芝居でも受けてくださるし、突発的なことが起きても、必ず一緒に乗り越えてくださったので、本当に頼りにしていました。前田監督は関西出身でコテコテの笑いが好きなため、「ちょっとやりすぎでは?」と思う場合などは、東京と関西の言葉の圧の戦い(笑)みたいな感じでわたしが監督と話し合うこともあったのですが、それを松重さんはニヤニヤ笑って見守ってくださって和みました。監督はわたしのことを多少怖がっていらっしゃったようですが(笑)、みんなが話し合えるような現場でしたね。

■いるだけで撮影現場が明るくなる大先輩

■いるだけで撮影現場が明るくなる大先輩

Q 篤子と対立する義理の妹・志津子役の若村麻由美さんとは普段から親交があるようですね。

共演は3~4回目くらいですけど、本当によく電話でお話ししています。麻由美ちゃんは、ベテランの域というか職人ですから、お友達ですけど女優としてとても尊敬しています。だからすごく楽しかったし、一緒にゲラゲラ笑いながらお芝居していました。ただ、仲の良いお友達とお芝居するのは、「こんなこともできないのか」って思われるんじゃないかと考えたりもして、お互いにちょっと嫌なところもありますね(笑)。

Q 篤子を振り回す義理の母・芳乃役で、大先輩の草笛光子さんとも共演されていますね。

草笛さん自身が表情的にも人間的にも豊かな方ですし、ゴージャスかつかわいらしい方ですから、いらっしゃるだけで現場が明るくなるんですよね。草笛さんの演じるお義母さんが魅力的に見えれば見えるほど、この作品自体の魅力も増すと思っていましたから、草笛さんを支えつつ、一緒に役柄や芝居を作れたらいいなあと思っていました。草笛さんがそうしたくなるような方だからこそ、この作品の世界にみんなが自然にいられた感じがします。

Q 草笛さんとの共演シーンでは、以前から監督・脚本家・演出家としてお仕事をされている三谷幸喜さんも出演されていましたね。

もう、嫌でしょ~(苦笑)。演出家や監督って、本当にズルいし、ダメでしょう(笑)。どこでどうすれば、そのシーンやカットで目立つかをわかっているから、そこを攻めてくるわけですよ。それは今回の三谷さんしかり、この作品には出演していませんが野田秀樹さんなどもしかりですね。

Q 三谷さんが共演者をも笑わせようとしている感じで、爆笑シーンになっていました。

本当にひどいんですよ(笑)。三谷さんと間近で芝居していた草笛さんは、よく笑わずに黙っていられましたよね(笑)。あのシーンは本当にすごかった。ある事情から草笛さんが、毒蝮三太夫さんの演じる老人のふりをすることになるのですが、そこに毒蝮さん、区役所職員役の三谷さん、そして篤子の友人役の柴田理恵さんとわたしがそろうことになるので、わたしもワクワクしながらそのシーンを演じていました。本当に面白かったです(笑)。

■みんなが楽しめる撮影現場にしたい

■みんなが楽しめる撮影現場にしたい

Q 天海さんはいつも撮影現場のいい雰囲気作りを心掛けているとのことですが、主演の場合は特に意識が強いのですか。

みんなが現場を楽しんでくださっていると、そのシーンは素敵なものになるし、その空気感って必ず完成した作品にも出ると思っています。かといって馴れ合いすぎても、厳しすぎてもいけない。ちゃんと緩急あって、みんなが楽しめる現場だといいなと。それは主演助演にかかわらず心掛けていますね。ただ、共演者やスタッフの皆さんに支えていただいたり、力を貸していただく代わりではないですが、主演の人が必ずやらなければいけないことはいっぱいあって、現場の方向性について疑問があったり、いい雰囲気を作っていくためには、言うべきことはちゃんと言わなければいけない。助演の場合は、主演の方についていったりとか。そういうことをきちんとできる人間でいたいなと思っています。

Q この作品で提示された家族の生き方や結末については、正解などではなく、あくまで一つのライフスタイルの提案だと思いますが、どのように受け止めましたか。

いろんな選択肢があるのは人生においてとても大事ですし、素敵なことだと思います。個々人の人生の捉え方や状況によっても変わるでしょうが、こういう時代だからこそ提示できることだと思うんですよね。今までは「こうでなければいけない」ということもあったでしょうが、「こういうのも面白いね」と思っていただける、いろんな選択肢の中の一つになったらいいなと思います。

■もう老後に入っているつもり!?

■もう老後に入っているつもり!?

Q ご自身の老後を考えることもありましたか。

もう老後に入っているつもりで頑張っています(笑)。でも、わたしは独り者なので、ちゃんと自分で自分の始末をつけられればいいんですよ。人生の終幕になっていくまでをちゃんといい感じに楽し~くできたらいいなと(笑)。ですから劇中のお義母さんの生前葬という選択も、自分の判断がつくうちにみんなと一緒にお別れが言えるという意味では、素敵なことだと思いますね。

Q 年を取ることもポジティブに受け入れていらっしゃるようですね。

明日よりも今日の方が若いわけですから、みんなそれぞれ自分史上初の年齢が毎日繰り返されて記録更新していて、今日は今後の自分の人生の中で一番若い。年を重ねて体力的に落ちていくことも、老いを感じることも、自分にとって初めての新鮮な経験だし、以前はわからなかった母親や祖母が大変そうにしていたことがわかるのも、ちょっと楽しいんですよね。それにわたしたち役者のお仕事は、ありがたいことに年を重ねていく姿を皆さんに観ていただける職業ですし、その時々の年齢にならなければできない役もたくさんあると思っていますから、年を取っていくことを割と楽しみにしています。ただ、ちょっとだけ気になっているのは、演じさせていただく役が微妙に自分の年齢よりも若く設定されていること。申し訳ないくらい若~く設定されていることもあって、実年齢でもいいのになあと(笑)。やっぱりいろいろ気にしてくださっているんでしょうね(笑)。
本作でコメディエンヌとしての魅力を全開させていた天海は、出演作は自分の粗ばかり気になってしまうとも言うが、本作はそんなことを忘れるほど笑って観ることができたそう。誰もがひとごととは思えない切実なお金の問題をコミカルに描きつつも、多様性の時代を反映した人生の選択や豊かな老後に本当に必要なものは何かを考えさせられる、大人のエンタメ作品になっている。終始ユーモアを交えつつ明朗快活に語る天海には、老後という言葉はまだ無縁に思えたが、素敵な年の取り方をしてきているのは確かで、今後もさまざまな役に取り組んでいくことだろう。

取材・文:天本伸一郎 写真:高野広美

映画『老後の資金がありません!』は10月30日より全国公開

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