ここから本文です

おにいちゃんのハナビ (2010)

監督
国本雅広
  • みたいムービー 264
  • みたログ 1,056

4.39 / 評価:631件

大花火に故人の面影を重ねる映画

映画『おにいちゃんのハナビ』を語る前に、私の地元で行われる花火大会について語ってみたい。この季節になると、東京都足立区では7月下旬に開催される荒川の花火大会が近づき落ち着かない気分になる。「足立の花火」は全国の花火大会の中でも早めに開かれ、梅雨明けが同時に来るイメージがある。炎暑の最中だがカラリと晴れる事があり、実際に見に行った時は、夕焼けの地平線近くに富士山のシルエットが浮かび感激した思い出がある。
いつも見慣れている荒川にはおびただしい屋形船が浮かび、商店街の飲食店やコンビニ前には稼ぎ時とばかりに沢山の出店が並ぶ。稼ぎ時といえば近所のクリーニング店も、花火大会の後には沢山の浴衣が持ち込まれるそうだ。それはともかく日常の風景がこの日ばかりは非日常の場所に変わるのが好きである。

またこの季節は新盆でもあり、スーパーや花屋さんでは盆飾りが売られている。近所は高齢者が多くこうした風習を律儀に守る人が多いせいか、「新盆コーナー」の面積も他地域と比べて大きいようである。花火大会の喧騒とは裏腹に、静かに故人を偲ぶ季節でもあるのだ。
『おにいちゃんのハナビ』の舞台は新潟県小千谷市で、2004年に発生した中越地震で大きな被害を受けた地域だ。また先ごろ惜しくも亡くなった小林麻央さんの出身地でもある。どうしても大地震の被災地というイメージで見てしまうが、世界最大と言われる四尺玉の花火が打ち上げられ、費用は市民グループや個人の寄付で賄われるとは映画を観て知った。
映画では地震については言及されないが、劇中で亡くなってしまう須藤華(谷村美月)への追悼の裏側には、地震で亡くなった人々への鎮魂の気持ちがあるのだろう。花火大会を見ると高揚感だけではなく、どことなく哀愁を感じてしまうのは、中越地震だけでなく自然災害で亡くなった人々に無意識で思いをはせてしまうためかも知れない。

本作の主役となる兄妹は高良健吾と谷村美月。二人は後に朝ドラの「べっぴんさん」で再び共演している。高良は長身イケメンだが引きこもりで(彼の演技はなかなかサマになっている)、谷村は兄とは反対に社交的な性格だが白血病に犯されている。頭髪を剃りウィッグを付けた谷村の姿は気の毒のひと言で、彼女が明るくふるまうほど来るべき悲劇を予感させて胸が痛む。
映画は実際にあった話を基にしているという。家族はもともと東京に住んでいたが谷村の療養のために空気の良い新潟県に引っ越した。それだけではなく治療費に大金がかかるため、少しでも生活費の安い地方に越さざるを得なかったのではないか。両親のスケジュールを書いたホワイトボードが、仕事と病院の予定でびっしり埋まっているのがリアルだ。高良はもともと成績が良かったが、転居先の高校になじめず卒業後は引きこもりになってしまう。こうした描写は重病人を抱えた家族が経験する現実なのかも知れない。

他の出演者について述べると、主役兄妹の両親に宮崎美子と大杉漣。高校生役の谷村のクラスメイトの一人に剛力彩芽。谷村の担任教師に佐藤隆太、担当の医師に佐々木蔵之介、看護師に朝加真由美。高良が弟子入りする花火工場の職人に塩見三省と、なかなか豪華な顔ぶれである。大杉は「僕の生きる道」、佐藤は「ルーキーズ」、佐々木は「白い巨塔」、塩見は「あまちゃん」と、彼らが出演してヒットしたドラマの役柄と重ね合わせるのも一興であろう。
退院した谷村により強制的に引きこもりから脱出した高良は、新聞配達のため自転車で市内を回る事になる。かなりの高低差があり決して楽な仕事ではない。雪が積もった冬の景色もきちんと映される(日本映画の中には、こんな当たり前の季節感さえ描けていない作品もある)。
新聞配達の先で兄妹が出会ったお婆ちゃんや、「どんな人が住むのだろう」と想像した新居に住む新婚カップル。彼らはクライマックスの花火大会に登場して市民サポーターとなる。長寿に結婚、いずれも谷村が叶えたくても叶えられなかった願いである。高良が所属するのは20歳の者のみが加入する青年団で、他にも30代や40代、還暦を迎えるグループもある。彼らは花火にお金を出すだけでなく各々が神輿を担いで祭りを盛り上げる。

気の毒にも、谷村はクライマックスの花火大会を見ることなく亡くなってしまう。骨髄移植をしてくれるドナーが見つかる前に、肺炎の合併症が悪化してしまうのだ。高良は花火のスポンサーになるだけでは満足できず、塩見演じる花火師に弟子入りして実際に大尺玉の製造に携わる。この花火製造の場面をもう少し丁寧に描いてくれれば良かった。
本作の製作当時は「スマートフォン」は一般的ではなく、代わりに映像メッセージを日時指定して送信する機能が効果的に使われている。この場面では「機動戦士ガンダム」でガルマ・ザビの形見となったビデオレターを父親のデギンが見ている場面を思い出した。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • かっこいい
  • かわいい
  • スペクタクル
  • 切ない
  • 悲しい
  • 泣ける
  • 笑える
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここまでです このページの先頭へ