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夜明け告げるルーのうた (2017)

LU OVER THE WALL

監督
湯浅政明
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3.83 / 評価:456件

独特の色彩感覚が魅力のアニメ

今年の5月に公開された『夜明け告げるルーのうた』は、アヌシー国際映画祭で長編部門のグランプリを受賞した。この映画祭はカンヌ映画祭からアニメーション部門を独立させたもので、今年公開された日本映画では有名な国際映画祭で大きな賞を受賞した、唯一の作品となった。
監督・脚本は湯浅政明で、この人の映画を観るのは初めてだが「ちびまる子ちゃん」で、大ヒット曲「踊るポンポコリン」に乗せたエンディングの映像を手がけている。日本人の多くがこの人の映像を1回くらいは目にした事があるはずだ。
本作を観た感想は、最初は独特の色彩感覚や途中でグニャリと崩れる描線に戸惑ったが、終わってみると不思議な高揚感を覚え、湯浅監督の映画をもっと観たくなる。よって私的評価は★5つである。
技術的な事はよく分からないが、本作は「フラッシュアニメ」というデジタル技術で作られたそうだ。従来のアニメは一コマずつ原画を描く必要があるが、この技法を利用して大幅に手間を削減できたとのこと。今後他のアニメに採用されるのか注目したい。

この手のアニメには登場人物の日常をかき乱す存在が不可欠だが、これに当たるのがルー(声:谷花音。「君の名は。」で四葉の声を演じた)という人魚である。幼女の姿をしているが、肩の部分には魚のエラのような線が入っており、人間よりも河童のような、妖怪を思わせる容貌をしている。
下半身は魚のひれになっているが、音楽を聴くと二股に分かれて人間のような足に変わる。彼女の歌声(ボーカロイドの初音ミクを思わせる)を聴いた人間は自然に身体がリズムを取って踊り出す。人魚に噛まれた人間や動物は人魚化してしまい、妖怪めいた印象をさらに強めている。
頭の周りをゼリー状の水で覆うことで陸上でも活動できるが、日光に当たると吸血鬼のように燃える弱点があり、車のライトやカメラのフラッシュといった強い光にも怯える性質がある。このように面白いキャラクターなのだが、本作が興行的に苦戦したのは、ルーの姿がアニメファンにあまりアピールしなかったせいかも知れない。

人魚の能力は海水の塊を自在に動かすことで、動く水が発するエメラルドグリーンの蛍光色が、本作のシンボルカラーになっている。舞台となる日無町(この地名にもちゃんと意味がある)が枯れた色彩であるのと対照的で、登場人物が人魚とからむ回想はポップな絵本を思わせる極彩色である。日常と非日常の境界(あるいは生と死の境い目か?)に、光るエメラルドグリーンが橋渡しの役割をしている・・・、私にはそう思えた。
日無町のランドマークは湾にそびえ立つ「お陰岩」という巨岩で、このせいで町はいつも日陰になっており、湾内で人魚の生息を可能にしている。町の地形がストーリーに密接に関係するのが「ブラタモリ」のようで面白い。私たちは日常的に「おかげさまで・・・」という言葉を使うが、本作の「お陰様」は人魚を傷つける人間に手痛いシッペ返しをする怖い神様なのだ。

町の伝統文化が丁寧に描写されているのも魅力だ。昔から人魚伝説が息づいており、玄関先に白く塗ったウニを吊るして(太陽に見立てている)人魚除けにする。実際にこれを見たルーが怯えるシーンがある。町の地場産業には漁業の他に日傘作りがあり、これも人魚伝説に関係があるらしい。アーケードの天井から吊るされる色とりどりの傘が美しい。主人公カイ(声:下田翔太)の家にある神棚に小さな傘が飾られているのも見逃せない。
波の静かな湾に面している家々は1階部分から直接舟が出入りできる「舟屋作り」で、京都の伊根町をモデルにしている。昔ながらの風情が美しい漁師町も近頃は漁獲高が減り、経済的には衰退している。そこへカイの音楽に惹かれたルーが上陸し、降ってわいた人魚騒動を町おこしの起爆剤として利用しようとする者が現れる・・・という形でストーリーが展開していく。

人間側のメインキャラは3人。カイは東京の出身だが、両親の離婚により父親の実家がある日無町に戻って来た。クラスメイトの遊歩(声:寿美菜子)は町一番の有力企業「えびな水産」の一人娘だが東京に憧れている。遊歩と共にバンド活動している国夫(声:斉藤壮馬)は神社の跡取り息子で、地元に根付いて生きる宿命を背負った人間の代表である。異なる価値観を持った中学生3人がルーという秘密を共有し、町に対する様々な思いが浮き彫りになっていく。脚本を担当する吉田玲子と湯浅監督の手腕が光る。

最後に私の感じた難点を述べてみよう。本作はカイが中学3年のひと夏の物語のはずだが、前半で廃墟のような状態だったテーマパークが、後半では真新しく整備され再オープンしてしまう。いくら何でも早すぎるだろう。またクライマックスでは町のほとんどが水没する大災害が発生するのに、ラストシーンでは何事も無かったように元に戻っている。この辺りがちょっと不自然に感じた点であった。

詳細評価

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