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アメリカ (1984)

KLASSENVERHHULTNISSE

監督
ジャン=マリー・ストローブ
ダニエル・ユイレ
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3.75 / 評価:4件

行き当たりばったりの孤独な青年。

 学生時代、学内の上映会で観た。原作者は不条理な幻想世界を描くことで名が知られているフランツ=カフカ、監督はフランスのジャン=マリー=ストローブ氏、主役は私とほぼ同年齢(当時、20歳前後)の俳優、モノクロ映画で舞台はタイトル通りアメリカだが全編ドイツ語の台詞だ。(余談1)
 物語は原作にほぼ忠実な流れで展開するが、時代背景がよく解らない。映像に出るニューヨークのビル群は公開当時と同じ80年代アメリカのようだが、登場人物たちは20世紀初頭の物語でも流用できそうなオーバーコート姿だ。主人公の青年は刈り上げに七三頭、一貫して白いワイシャツ・ネクタイ・ダークスーツ姿、着ている物自体は現代の背広だかベストには懐中時計をつけていた。物語の中盤、主人公は旅先で知り合った悪人の家に監禁されベランダで生活するという虐待を受けるのだが一貫して襟元緩めずネクタイをきちんとしめているのが印象的だった。(余談2)

 物語は1人のドイツ人青年がある事情で家を追い出されアメリカに渡る。まだ高校生のような面もちで見るからに世間を知らなさそうだ。冒頭で船から下りる際に傘を忘れたことに気がついて持っていたスーツケースを放り出し船室へ戻り、案の定その間に荷物を盗られてしまうドジをするのだ。日本人でもなかなかいないボンボンである。
 そこで行き当たりばったりの根無し草放浪が始まる。幸運にも金持ちの伯父や、ホテルの主任をする親切なドイツ人女性と出会って職を見つけるが、青年には常に緊張感と孤独感が漂っている。心の底から打ち解ける友人が存在せず他人行儀だ。青年の所作を見ていると、演じている俳優と同世代ということもあってか、旅をし始めた頃を思い出して親近感がある。周りの人間全員がドロボーに見えたこともあったし、思わぬ親切を受けて臨時収入やごちそうにりつけたりなど。だが奇妙な孤独感と不安感があり夜も熟睡できない。そんな頃の自分に似ている。

 作品の雰囲気は暗くも明るくもなく、いたって淡々としており、青年は住処を転々としながら最終的にはある楽団に就職することに成功する。新天地への明るい未来を連想するラストなのだが、青年のこれまでの経緯を考えると、映画は楽団就職のこれからも続くかもしれない根無し草生活の別の章に移っただけかもしれない。はたまた、穿った見方をすれば監禁されベランダで蹲っていたはずの青年が唐突に街を歩いている場面へと話が飛ぶので、就職場面は青年の夢かもしれない。
 孤独と緊張と不安と僅かばかりの希望、そんな形容ができる映画だ。

(余談1)フランツ=カフカは出生は現在のチェコ・プラハだが、当時はオーストリア・ハンガリー帝国だった。当時のチェコには昔からドイツ人が大勢定住していることもあり、母語はドイツ語である。だから小説もドイツ語で書かれている。

 因みに「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ大佐はオーストリア海軍の大佐だが、内陸国のオーストリアになぜ海軍というと、オーストリア・ハンガリー帝国時代は地中海にも面していたからだ。第一次大戦で帝国は瓦解してチェコやユーゴなどの国々に分裂、トラップ大佐の時代には支配民族だったドイツ人を中心に現在の内陸国になってしまうのだが、ドナウ川防衛という名目で海軍は存続する。現在も極めて小規模ながら海軍は存続している。

(余談2)カフカのファンなら御存知だと思うが、「アメリカ」は未完成小説であり、タイトルも「失踪者」が正しい。カフカが生前「アメリカロマンだ」と語っていたことから、「アメリカ」が通り名になり作品タイトルと世間に認知されるに至っている。カフカ自身はアメリカへ行ったことが無い。
 タイトルが「失踪者」であるなら、物語の内容は合点がいく。

詳細評価

物語
配役
演出
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音楽

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