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セント・オブ・ウーマン/夢の香り

5.0

ネタバレ見えないからこそ見えるもの

ゴッドファーザーからアル・パチーノ大好きで色々な作品を見てきたんですがこちらは「盲目の元軍人の役」との前情報からなんとなく避けてきていた作品。 自分の好きな彼のイメージと程遠い気がして見てもきっとつまらなく感じるんだろうなという超勝手な見解から。 ですが意を決して見てみると全くそんなことはありませんでした。 反対に、盲目の役、というハードな役柄をもまるで自然に演じる彼を見て改めてすごい役者だ、と思い知らされました。 ストーリーとしては人生を悲観してふてくされきって何に対しても、誰に対しても高圧的な態度しかとれなくなった盲目の元軍人が純粋な若者との数日間の旅に寄って徐々に生きる光を見出してゆく、といったもので、こういったストーリーはドラマや映画にありがちといえばありがちです。 なのにこの映画がここまで賞賛されるのはやはり結局アル・パチーノの盲目の演技、が大きなポイントになっている事は否定できない事実です。 眼球をむやみに動かすことをせず、力強くカッと見開いた状態での台詞回しや、細かな体重変動での瞳の移動さばき、それらすべてのひとつひとつの所作が本当に見えない方なんじゃなかろうかと錯覚してしまうレベルでアカデミー賞受賞も納得です。 その彼が演じる元軍人フランクがクリスオドネル演じる大学生チャーリーと初めて顔を合わせるシーンではその強烈キャラが炸裂します。 まるで未だに軍の中で独り生きているかのような上からな物言いと孤独感。 次の時代を生きている平和ボケした世代の甘ちゃんなんぞに用はないわぁ!怒 と言わんばかりの洗礼を浴びるチャーリーですが、彼も彼でまた聞き流す力を持っている(もちろんいい意味で)。 普通の青年ならば怒って帰るか、初対面の人間にいわれの無い罵声を浴びてしゅんとして帰るか、いずれにしても帰るであろうこの場面ですがフランクの姪からの懇願でお世話を引き受けます。 これにより二人の奇妙な週末の旅が幕を開けるわけですが、ニューヨークへ着いてからの風景やホテルの部屋、運転手とのやり取りにジャック・ダニエル… 画面に映るすべてのものが芸術的に美しく、レストランでの二人のやり取りも面白い! 目が見えないはずなのにチャーリーがフランクの酒を薄めるようにウエイターに目配せすれば「おい、そういうのはやめてくれ」と即座に言われてしまったり。 俺は見えない分見えてる奴らより神経をはりめぐらせている、というような趣旨のセリフがありましたが、なんか、わかるような気がしました。 見えてる人間に見えないものも見えるのかもしれないですね、彼の芝居からはそういう凄みが感じられ、ストーリーと並行して楽しめる点が随所に散りばめられています。 ガブリエルアンウォー演じるドナとのタンゴのシーンは本当に素敵でその時ばかりはアル・パチーノが心から楽しんでいる普通の紳士に見えて幸せになりました。 終盤チャーリーの学校での大演説は物語をまとめるにあたり不可欠なシーンなので多少大げさな演出はやむなし。 それが映画ってもんです、野暮なことはいいっこなし!ってところでしょうか。 自死を遂げようとするフランクを必死で止めたチャーリーですが、なかなか自死をやめようとしてくれないチャーリーに対して、わかった、諦めるよ、自分も一緒に死ぬから!と腹をくくった彼にフランクは救われたのでしょうね。 ただ止めるだけでは誰でもできる。 昨日今日知り合ったばかりのこれからを生きてゆく若者に一緒に死ぬと言われたことでフランクは救われたんです。 なんの損得もない、ただただ純粋にフランクを失うことを恐れた青年の綺麗さ。 その言葉だけでよかったんです。 このシーンはこちらまであやうく涙するところでした。 全編通して高評価の訳がよくわかりましたし最近ではなかなか巡り会えない名作でした。 アル・パチーノにも改めてリスペクトです。 ラスト、教授の女性に興味を持たれ、きっとこの先フランクが諦めていた「目覚めたときにも横に女がいる」が、実現しそうな余韻を演出しての終わり方、いいですよねぇ〜笑 帰宅してからの姪っ子との仲直りのしかたも微笑ましいったら。 見る前はてっきり勝手にアル・パチーノは死んで悲しい終わり方なのかと予想していたのでハッピーエンドでほんとに良かった! ただ、ガブリエルアンウォーの出番があのシーンだけだったのは意外でした。 とにかく素敵な作品です!

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