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早春 (1970)

DEEP END

監督
イエジー・スコリモフスキ
  • みたいムービー 47
  • みたログ 113

3.95 / 評価:58件

美しいほど残酷無比な、童貞破りの恋

  • gypsymoth666 さん
  • 2018年8月19日 16時26分
  • 閲覧数 923
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

学校を中退した15歳の少年マイクが仕事をはじめた公衆浴場の同僚で先輩である、年上の美女スーザン。何もしらず、何ものになろうとしているかもわからずに迷い込んだ大人の世界に戸惑うばかりのマイクに対し、大人の世界を経験したスーザン。彼女は自らの若さと美しさを自覚し武装し、体育教師として妻子を持つ社会的に安定した地位の中年男性、経済的に裕福なビジネスマンの同世代の婚約者を振り回しながら、終りのない欲望をかなえるために満たされなさを埋めようと人々を傷つけていく。傷つけられてもいい。美しい女性に近づきたい、一緒にいたい。特別な存在になりたい。大人びてみえても実は経験が早かっただけで、何ものでもない姿はマイクと何らかわりないスーザン。しかしマイクには、スーザンは自分が存在する理由のすべてとなってしまう。

破滅するような恋の衝動が、一気に点火される忘れられないシーンがある。
マイクに好意をちらつかせながら、婚約者の同世代の男に誘われポルノ映画を観に行くスーザン。劇場に彼女を追って入り、後ろの席につくマイク。後ろから彼女をまさぐるのがマイクであることがわかった。しかし簡単に自らを差し出すような女性ではないスーザンは、ただでは差し出すことはない。マイクの後ろからの手が、胸をさわった瞬間、スーザンは振り向いてマイクを思いっきり平手打ちする。他人のそぶりで、隣の婚約者に助けを求める。支配人に訴えに向かうため席をたった婚約者を見送り、スーザンは後ろ側のマイクに向き直り、彼の口に深く、長い数秒間のキスを届ける。全く予想のつかないスーザンの唐突なキスは、マイクの人生初の深く絡み合うキスだった。離れた瞬間、マイクはうっとりと素面ではない恍惚の表情で座席に沈み込む。私はもう思い起こすことはないと思っていた、20年以上前の記憶が稲妻のように蘇った。

ある場所で知り合った年上の女性。すでに社会人で何年か働かれ、結婚を考えている交際中の男性がいるということも話の中で聞いていた。それでも私はよかった。彼女に夢中になった。私は童貞でありしっかりと女性と交際したこともなかった。彼女が最も自分がすべてを一刻も早く差し出して受け入れてくれえる存在であることは確かだった。学生寮の私の部屋に入り、いろいろ話をして、遂に私は彼女の頬に勇気を振り絞りキスをした。彼女は「キスだけならいいよ」と、口元へとキスするように彼女は唇を差し出し、私の手を引いた。初めて交わすキスは、自分の全身の血液を快楽物質に変えて、目まぐるしく脳内をかけめぐり、喜びも悲しみも溶かしてしまうように性的な興奮の快楽で浸した。彼女はキスしか許すことはなかった。明け方まで私はひたすらに彼女にキスをもとめた。彼女もそれに応じた。舌が擦り切れるほどだった。夜明けがすぐにやってきた…

土曜の深夜から日曜の夜明けまでのキスは、自分の中で何かを変えた。姿かたちに何も変わったことがないとしても、もうその快楽と幸福を知ってしまった以上、昨日までとは違う人間であること、後戻りはできない世界にきたことを知った。そしてあの時の私の表情は、この映画で、初めて恋する年上女性とのキスを交わしたマイクと全く同じであり、とろけるような悦楽の表情は、まさにあの頃の私の表情とも思えた。

このキスを交わした後、マイクがどのような行為に向かうのか、何者でもない時代に悦楽を知った若者がすることは私にはわかった。マイクはさらに、今でいうストーカー行為を重ねる。本当の愛は自分との愛であることを教えるために目をさまさせる必要があった。私もそうだったのだろう。一夜の過ちのように思った彼女は私との距離を離そうとした。次に会った時、私は彼女に付き合ってほしいと迫った。「じゃあ、私は今の彼と別れる。そしたらあなた、結婚してくれるの?」私は結婚できる…とは返事できなかった。

初恋とはどのようなものか?性の初体験を越える先には何があるのか?…ここまで童貞という存在に向き合い、若いゆえに何も持たず評価されない男子が、若いからこそもてはやす男たちを振り回す美女に憧れ夢中になる無常観を、瑞々しく、美しく、激しく描きぬいた作品はないだろう。あまりに美しいスーザン演じるジェーン・アッシャー、マイク演じるジョン・モルダー・ブラウンだからこそこの映画は観続けることができ、満たされない青春の悶々も増幅させた。キャスティングも、鮮血をモチーフにしたビジュアルも、そして性の目覚めと死が避けられない背中合わせを美しく描き出した、イエジー・スコリモフスキ監督。奇跡の交わりがあったために。この映画は語り継がれ、時代に残った。

映画のコピーは「死ぬほどの恋に落ちたんだ。」。もう死ぬほどの恋はできないに違いない。しかし死ぬほどの恋を描いた映画のすばらしさ、そして青春の痛みは伝えていくことはできる。

詳細評価

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