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折鶴お千 (1935)

監督
溝口健二
  • みたいムービー 1
  • みたログ 19

3.80 / 評価:5件

男尊女卑で虐げられた女がとった行動の高尚

  • Kurosawapapa さん
  • 2011年6月1日 8時09分
  • 閲覧数 781
  • 役立ち度 15
    • 総合評価
    • ★★★★★

溝口作品レビュー第2弾も、サイレントです。
この無声映画の原作は、泉鏡花 の「売食鴨南蛮」。

前回レビューした無声映画「瀧の白糸」も、泉鏡花原作ですが、
本作も似た内容の “新派悲劇” になっています。
(*新派悲劇:「瀧の白糸」レビュー)

映画館における無声映画の上映というのは、楽団による音楽、活動弁士の解説などがあり、
映像 ・ 音楽 ・ 語りが 三位一体となった1つのライブパフォーマンスだったそう。

当時の映画館というものは、
本番で、タイミングや台詞を間違うことのできない活動弁士の緊張感、
演奏も含めた臨場感が、大いに楽しめたに違いありません。

本作のDVDで、活動弁士は、松井翠声と澤登翠の2人のうちから選べるようになっていますが、
澤登翠版の方が、分かりやすくなっています。



豪雨で汽車が止まった駅のホームで待つ男、宗吉。
そして駅の待合室で待つ女、お千。
2人は神田明神を見つめながら昔のことを思い出します。
医師になることを夢見て田舎から出てきた宗吉は、挫折し、自殺しようとしていたところを、お千に助けられます。
お千は、情夫に悪事の片棒を担がされながらも、宗吉の成長を生きがいとし、宗吉も苦しい生活を送りながら、医師になろうと努力します。
しかし2人には、さらなる厳しい現実が待っていました。



この映画は、唐突な回想シーンや、錯綜した人間関係が存在したため、
溝口映画の中では、高い評価を得ることができなかったそうです。

(A) → (B) → (C) という時の流れがあり、
物語は、(C)の時点から始まります。

冒頭、駅で物思いにふける男の目線で、カメラがパンすると、そこはもう過去(B)の世界。

そして(B)の物語が長時間続く間に、(A)の回想シーンが所々で映され、
最後は再び(C)の時点に戻ります。

現代では、頻繁に使われるようになった、フラッシュバックや時の流れを交錯させる手法。

サイレントの時代に、すでに現代的なテクニックが用いられていたことに、驚きを隠せません。



溝口監督が組んだ女優さんは沢山いますが、
2大女優となると、田中絹代、そして山田五十鈴でしょう。

本作は、山田五十鈴主演。

最後は、性病で精神を病んでしまう迫真の演技を見せ、
大女優として、本格的な一歩を踏み出した作品と言われています。


溝口監督の、女優に対する厳しい指導は有名でした。
Wikipediaをご覧いただくと分かりますが、俳優に対する暴言、罵倒は凄かったようです。


== 溝口作品を紐解くキーワードその2 「サディストというレッテル」 ==

本作に出演した時の、山田五十鈴の言葉が残っています。

『溝口さんは、普段はいいのですが、仕事になると気狂いじみておられたので、肉体的には大変辛いものがありました。「折鶴お千」の時は長時間手洗鉢の中に顔をつけられ、半死半生の目に遭わされたこともあります。そのくせ休憩時間にセットの片隅で待っていると「寒いでしょ」と言ってオーバーをかけて下さる。溝口さんは批評家からサディストのレッテルをはられていましたが、確かに仕事への異常な熱っぽさと徹底した貪欲さがありました。監督と俳優は映画を作る時、内心火花を散らしていますが、そんな典型が溝口さんの演出の根底に流れています。』

過去の日本の巨匠たちにも、映画に対し凄まじいほどの執念をもち完璧を追求する監督は沢山存在しました。
完璧主義と名作の誕生は、表裏一体。

さらに溝口監督は、個性と努力が必要な時代において、常軌を逸するほどの努力家、勉強家だったそう。
同時に、努力しない者に対しては、常識では考えられないほど酷であったという、難詰の一面も持ち合わせていました。

==========


溝口監督が作り出した “新派悲劇” 。
そのドラマチックな展開は、見る者を強く引きつけます。

男尊女卑と貧困の中で、悪に虐げられる女。
そこで女性は、悪に反抗するのではなく、
生活の中に生き甲斐を見つけ、それを貫くことに徹します。

その高尚さに心打たれ、
そして、山田五十鈴のらんらんと輝かせる睥睨の眼差しに、
逆境に屈しない、燃えたぎるような女性の意地を垣間見ることができます。

“新派悲劇” を確立した溝口監督は、その後、さらなる変化を見せていきます。
溝口流・自然主義リアリズムの誕生へと向かっていくのです。
(MIZOGUCHI:No2/20 )

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