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河内山宗俊 (1936)

監督
山中貞雄
  • みたいムービー 9
  • みたログ 122

3.58 / 評価:36件

ダメ男は「憩いの場」を守るために体を張る

  • yam***** さん
  • 2021年5月26日 8時56分
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

浪人者の金子市之丞は森田一家の用心棒兼集金係として冴えない毎日を送っている
彼の転落の詳細は分からない
彼の楽しみは出見世のショバ代を集金して回ったあとに飲む一杯の甘酒
甘酒と甘酒屋で働くお浪が彼の唯一の心の拠り所である

市之丞が森田親分に「タダ飯喰らいに居場所はない」と揶揄されながら視線を外すその先には飼い猫がエサを食う姿
それだけのシーンに、彼の置かれた立場と心情が込められている
武士から野良猫に落ち、今や飼い猫にはなったものの、生きる甲斐死ぬ甲斐を持たない半端な男

モヒカン頭の千鳥大悟みたいなルックスの市之丞だが、お浪を救うために身内であったはずのヤクザものたちと斬り結ぶ
どぶの中で斬り合う市之丞の姿は、足が悪くてうまくバランスが取れないこともあり、まるで素人のチャンバラであり、とてもみっともない
みっともないが、胸に迫る
一太刀、二太刀と背中から斬り付けられ、市之丞の場面は終わる

武士の誇りも渡世者の義理も一宿一飯の恩義も彼には関係ない
ダメ男でコミカルでドブネズミのようにパンクなヒーロー像は今観てもすごく新鮮
市之丞のキャラは、封建的な歌舞伎界を批判して破門された波乱万丈の中村翫右衛門の実人生とも、重なるものがあったのだろう
片足が不自由で爪楊枝を愛用する市之丞の設定は翫右衛門の発案らしい

そんな市之丞とともにお浪を守る河内山は、また変な男だ
坊主でいかさま師で自宅の1階で居酒屋、2階に賭場を開く半分ヤクザだが子分を持たない
暇なときはこたつで愛妻と花札遊びw
ひょんなことからお浪の弟と仲良くなり飲み歩く
甘酒屋で喧嘩をふっかけてきた市之丞とも仲良くなり朝まで飲み明かす
誰とでも友達になっちゃうw
そんな河内山に惚れている女房は、若いお浪に嫉妬してしまい、事態を悪化させてしまう

心の奥に空虚を抱え、博打や酒や金では満たされず、小さく弱い、なにか大切なものを守るために体を張る男
山中監督が描くそんなダメ男の姿は、現代のダメ男の心も掴んでしまう
セリフも聞こえづらく、画像も悪いし、ストーリーはぶつ切りでうまくつながらないし、ツッコミどころはあるものの、そんな欠点を補ってあまりあるキャラの魅力
甘酒とのりを売ってダメ弟を細腕一本で養う健気な姉さん、当時16歳の原節子の存在と演技が男たちの決死の行動に説得力をもたらしている

並んだダルマ、高勢実乗の強烈なコメディリリーフ、ダメ男たちが「憩いの場」を守るために体を張る構図、などは「百万両の壺」と共通している

本作のラスト、救われたダメ弟は姉を救うため、品川の相模屋を目指して画面から走り去っていく
一方、幕末太陽傅の居残り佐平次は相模屋から外へ向けて走り去って行ったのを思い出した

本作公開の翌年には日中戦争が開戦し、多くのダメ男たちが戦場へ送られたことだろう
彼らもまた、「それぞれのお浪」や「それぞれの憩いの場」を守るために体を張り、命を散らせていった
監督もまた、戦場から還っては来なかった

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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