ここから本文です

按摩と女 (1938)

監督
清水宏
  • みたいムービー 8
  • みたログ 57

4.19 / 評価:16件

映像が醸す情緒が旨味

  • gacchi さん
  • 2010年1月12日 23時17分
  • 閲覧数 384
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

第3回江東シネマフェスティバルにて鑑賞。

私は未見ですが、2008年に草彅剛さん主演で「山のあなた 徳市の恋」としてリメイクされています。どちらも脚本が「清水宏」となっているのでセリフ回しなど全く同じだったりするんでしょうか。それをどう弄ったのか見比べてみたい気もします。

ゲストは映画史家の田中眞澄さん。本作を手がけられた清水監督についてお話して下さいました。清水監督は小津監督の親しい友人だったそうです。小津監督とは対照的に娯楽映画で地盤を築いた方で、酒は一滴も飲めず女に手が早かったそうです。両者を知る山中貞雄氏によれば「小津は名人、清水は天才」とのこと(うる覚えなので表現が少々異なるかもしれません)。

二つの題名が示すとおり、按摩の徳市が東京から来た謎めいた女に淡い恋心を抱くお話です。狂おしさ漂う物語もさることながら、画の撮り方が好いです。

カメラの性能が良くなかったからなのか何なのか不明ですが、屋外撮影のシーンなどはピントの合わせきらないモヤ~っとした映像で、それがかえって風情を醸しています。虚構とも現実ともつかないような朧な空間として映り、いかにも目の見えない徳市の胸に刻まれた「気配の記憶」といった感じ。

屋内シーンでは二間にわたってカメラをスライドさせ、地点の異なる複数人の動きをワンシーンに収めることで空間に広がりを持たせています。また、屋内屋外に限らず右と左/手前と奥という位置関係で人物を少し離れた間隔で配置する演出によっても空間を効果的に活用していて感嘆。盲目の徳市を取り囲む環境の危うさと、彼の研ぎ澄まされた“感”を浮き彫りにして見せます。巧いです。

また、徳市と女が遁走するシーンにも惚れ惚れしました。裏口から二人を逃げさせる展開でもって、裸足で駆け出す必然性が生まれるんですね。すると逃げる行為に焦燥とか恐れが付加されて、より一層の情緒が醸成されるわけです。最終的に駆ける足もとに寄るカメラがこうした意図を証明して見せ、ぐぐっとシーンに引き込まれます。

それからそれから、道端で女とすれ違ったことに気がつくと徳市は必ず彼女が居た場所に引き返して、空気に残された余韻を探るんです。これもまた良い演出ですね。女の気配や香りに惹きつけられている感じが滲み出ていました。そしてこれがラストに効いてくるんです。女の乗る馬車が発った直後に彼女が在した一段高い空間に歩み寄り、やはり余韻を探るんだな。ここ、泣けました。とても短い何気ない所作なんですが、女の気配に対する徳市の強い執着を見せつけることで、言葉を交わさぬまま去られた絶望感を鮮明にしています。

こんなふうに、情緒を言葉や表情だけではなく所作によっても巧みに表現していて感心させられました。「天才」と評された意味が解るような気がします。しかしこれがですね、田中さんのお話によると清水監督という人は緻密に計算して撮るタイプではなくて、瞬間的な閃きによって至高のシーンを生み出すお方だったんですって。その分、どーしようもない映画もたくさん作ってるらしい。

とすると、この「按摩と女」の撮影時は冴えまくってたんでしょうか。神がかったように珠玉の作品を生み出すあたりも天才っぽいですね。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 笑える
  • ロマンチック
  • 切ない
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ