内容は他愛のない恋愛ドラマ。
- 晴雨堂ミカエル さん
- 2014年9月25日 0時34分
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李香蘭こと山口淑子氏の代表作といっても良いだろう。李香蘭といえば、本作中で自ら歌う「蘇州夜曲」は有名だ。波乱に富む長い人生をおくった彼女は数多くの映画に出演し数多くの歌唱を残しているのだが、まだ初々しい20歳の時に歌った「蘇州夜曲」は別格の代名詞といっても良い。(余談1)
さて本作は中国侵略を肯定する国策映画で中国側にとっては屈辱的内容と悪しきイメージがついているが、いざ観てみると拍子抜けするほど他愛のない恋愛ドラマだった。古き良き時代のハリウッドやディズニーが撮ってもおかしくない内容である。
さらに李香蘭が「♪君がみ胸に抱かれて聞くは~♪」と歌いながら長谷川一夫と2人で蘇州の寒山寺を観光する場面などは「ローマの休日」よりも一回り以上古い観光誘致映画として画期的だ。(余談2)
むしろこの作品は国策映画というより、検閲を掻い潜って表舞台に立った娯楽作品として称賛すべきかもしれない。日本の官憲の貧相なセンスを考えたら、このような色恋の映画は弾圧の対象であるはずだからだ。
もっとも、私の感覚では古き良き時代の恋愛ドラマにしか見えない。我の強いお転婆娘が男に鼻っぱしを圧し折られて従順で可愛い女の子になる、という類のパターンは70年代までは恋愛モノの定番の一つだった。(余談3)
この作品自体には政治的要素は無かったと思うが、これを観た中国人はやはりムカつく内容だろうし、日中戦争を背景にしていなくても、主人公がヒロインを殴る場面でフェミニストも気分が悪くなるだろう。
とはいえ、そろそろ時代の断片を切り取った貴重映像盛沢山のファンタジーとして素直に楽しんでも良い時期にきたのではないかと思う。
この作品が国策なら、「王様と私」も「サウンド・オブ・ミュージック」も名作どころか観るに堪えないアメ公の国策映画だからだ。
(余談1)高校生の頃、親善使節の一員として蘇州を訪問した事がある。訪問前の勉強会で「蘇州夜曲」は旧日本軍の中国侵略を想起させ友好ムードを壊すので絶対に歌わないようにとの厳命を受けた。当時の私は「そんな古い懐メロなんぞ知らん。歌えるはずないやろ」と思っていた。
それから20年ほど経って、あるイベントで来日した若い中国人歌手と話をする機会があった。彼は何と日本語で「蘇州夜曲」を披露したので驚いた。
彼はやや訛りのある日本語で「蘇州は私の故郷です。日本にも蘇州の事を題材にした歌があるなんて嬉しいです。この歌は気に入っています」と言うので、私はこの歌にまつわる悲劇の経緯を説明したら、「へぇー、そうだったのか」と初耳のような様子だった。
(余談2)私も高校生の頃、寒山寺を訪問した。映画で映された寒山寺と殆ど変わりの無い風景だった。
(余談3)冒頭、泥で汚れた李香蘭とパリッと航海士姿の長谷川一夫が出会う場面がある。噂には聞いていたが、李香蘭の中国語は澱み無くネイティブに聞こえる。本当に小姑娘が怒鳴り散らしているみたいだ。李香蘭を中国人だと当の中国人が思い込むのも頷ける。
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