侍の登場しない時代劇。
- pin***** さん
- 2009年3月25日 5時49分
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島崎藤村の名作を映画化したもの。
あの長編を2時間強にまとめたものですから、ずいぶんダイジェストなものになっています。
もっとも、島崎藤村といっても知らない人が多くなってきましたし、だいたい、藤村の作品は、夏目漱石や森鴎外に比べると、もともとあまり人気がなかったかと思います。
自然主義だ私小説だなんて、今はもうボロクソですからね。
それでも、『夜明け前』は、今日でも読むべき価値のある作品だと思っています。
主人公の青山半蔵は原作者島崎藤村の父親がモデル。
地方の庄屋の家に生まれ、平田派の国学を学び、新しい時代に生きようとしながらも、それが生かされないことから、次第に狂気に陥っていきます。
時代を描いたと言うよりも、先覚者の悲劇を描いたものであり、それは今日にも通ずる悲劇だと言えます。
また、草叢から明治維新を捉えるという視点は今日でも新鮮です。
さて、この映画ですが、残念ながら、原作を読んでいない人には少々退屈なのではないかと思われます。
もっとも、原作の方だってけっこう退屈ですけれど。
舞台と視点を馬籠の宿場だけに固定したのはよかったと思うのですが、どうしても、歴史の大きなうねりが伝わってきません。
字幕で歴史的な出来事を説明するという方法では、視点を馬籠の宿場に固定したことが生きてこないと思います。
百姓たちが時代の動きをどのように感じ取っていたかが、確認できるような脚本がほしかったと思いました。
この作品、明治維新を描いていますから、時代劇と言ってよいのでしょうが、歴史上の人物が出てくるわけでもありませんから、一般の受けは悪いと思います。
でも、考えてみれば、百姓が主人公で侍がほとんど出てこない時代劇というのはこの作品以外にどんなものがあるのでしょうか。
いかに僕たちの時代劇のイメージというものが、為政者中心のものであるかということを思いしらされました。
そんな意味でも意義のある作品だと思います。
多くを木曽馬籠でロケしたのだろうと思いますが、昭和20年代の日本の山村の風景が見られるのも興味深いところです。
ただ、福島の筑摩県支庁舎の周囲に山陰ひとつ見えなかったのはおかしいと感じましたが。
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