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噂の女 (1954)

監督
溝口健二
  • みたいムービー 4
  • みたログ 69

4.00 / 評価:19件

一部上場中堅スーパークラスの佳作。

  • 二酸化ガンマン さん
  • 2015年4月18日 23時58分
  • 閲覧数 840
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

どんな監督にも作品の出来不出来はあります。しかしこれがいわゆる巨匠の場合、一般的に失敗作と呼ばれているものでも一定の完成度を保っていたりします。
溝口健二で言えば、例えば「雨月物語」や「西鶴一代女」などの超名作がイトーヨーカドーやイオンだとすれば、「女優須磨子の恋」や「武蔵野夫人」だってヤオコー(144店舗)やサミットストア(112店舗)くらいの規模はあるでしょう。
これがもう少しレベルが上の作品、例えば「祇園囃子」や今回の「噂の女」くらいになると、マルエツ(211店舗)、ヨークベニマル(200店舗)クラスにはなると思います。サミット以外は東商1部上場企業ですから、さすがは溝口健二です。
舞台は京都・島原です。田中絹代が女手一つで切り盛りしているお茶屋兼置屋に、東京の大学を出た娘の久我美子が帰ってきます。彼女は実家の商売を嫌って東京に出たのですが、失恋し自殺未遂の末帰ってきました。
御茶屋の太夫たちは最初久我を「あら、白雪姫がいるわ」「隊長顧問よ。エイリアンを見たんだって」と言いながら嫌いますが、彼女がある朝病気で起き上がれない太夫に「ホットチョコレートよ。女の子はきれいにしなくちゃね」と看病している姿を見て「あなたのせいじゃないわ。それにあいつらは夜襲ってくるのよ」という具合に次第に親しみを持ってゆきます。
絹代は主治医である若い医者を愛人にしており、開業させるつもりでいます。絹代に惚れているのが、界隈の実力者で同じくお茶屋を経営しているおなじみ進藤英太郎です。小沢栄太郎ほどではなくてもだいたい進藤さんが出てくると話はややこしい方向に向かう事が多いのですが、今回は違います。絹代の店に因縁をつけてきた若いチンピラ田中春男などは小童扱いし、また困っている絹代にぽんと金を貸してあげる漢気を見せます。
若いドクトルは次第に美子と接近します。絹代はE3早期警戒管制機に搭載されている高性能レーダーのような女の勘でそれに気づき、嫉妬に身を焦がします。お付き合いで狂言を見に行くと、演目は老婆が若い男に恋をするという内容で、娘や医者を含めて皆で笑って観ていますが絹代は全く笑えません。きっと会社のイヤな上司が実は父親だったと知った日に「帝国の逆襲」を観たような気分なのでしょう。
この後絹代は二人が部屋で抱き合っているところを目撃するという矢口真理的役割を担ってしまいます。なんと、医者は親子どんぶりをしてしまったのです。それもそこいらのソバ屋の親子とはわけが違います。なにせ田中絹代と久我美子母娘ですから、それこそ人形町玉ひでの親子どんぶりを長時間並んで味わったようなものだと思います。
ところがこの医者が金だけが目当てのひどい奴だった事がわかり、絹代はショックで寝込んでしまいます。ラストは、あれだけこの商売を嫌っていた久我美子が、板についたおかみさん風に店を切り回している姿です。溝口は遺作「赤線地帯」で今度は吉原を舞台に同じ世界を、さらにもっとドロドロのリアリズムで描いてゆきますが、あの映画の有名なラストシーン、すなわち初めてお店に出た女の子が客をちょいちょいと手招きする場面は「噂の女」のそれと表裏一体のものでしょう。この映画のラストは、ある意味女の強さ、したたかさとも言えるし、「まあこんなものさ」と突き放して描いたようにも見えます。ただその突き放し方に残酷さがなく、かつての「残菊物語」や「浪華悲歌」のような悲壮感もなく、どこか前向きな軽さを感じさせるところが溝口の面白いところです。
映画はこの時代の京都のそういう場所が舞台なので絹代をはじめ女性は着物姿ですが、久我美子だけがヘップバーンのようなショートカットに洋装で、痩せているだけに余計ヘップバーンみたいです。ヘップバーンを意識したのか、それとも当時の東京の女性がみんなヘップバーンみたいだったのかはわかりませんが、女の子がみんなドイツ軍のヘルメットみたいな聖子ちゃんカットになったので、「おいおいドイツは三国同盟を破って日本に侵攻したのかよ」と思わざるを得なかった‘80年代を憶えている私は多分後者だと思います。

※店舗数は2015年4月現在のものです。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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