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二十四の瞳 (1954)

監督
木下恵介
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4.42 / 評価:212件

良心か国策か、永遠のテーマを問う名作

今回取り上げるのは1954年の松竹映画『二十四の瞳』。この年のキネマ旬報ベストテンでは日本映画の1位に輝いている。ちなみに2位は同じ木下恵介監督の「女の園」で、3位が黒澤監督の「七人の侍」と、この時代は邦洋問わず映画の全盛期だったのだ。もっとも愛されている日本映画と言ってよく、主演の高峰秀子にとっても名刺代わりの代表作である。
壺井栄の原作では、舞台の島がどこであるか明示されていないそうだが、完全に香川県小豆島のイメージが定着しており、分教場を始めとした本作のテーマパークは重要な観光スポットになっている。僕は残念ながら小豆島を訪れた経験はないが、ここを舞台にした映画では「八日目の蝉」「瀬戸内海賊物語」、実写版の「魔女の宅急便」を観たことがある。

小豆島は瀬戸内海の島では淡路島に次ぐ広さを持ち、地図を見ると高低差が激しく複雑な海岸線をしている。島の子供たちがケガをした大石先生(高峰)を心配し、お見舞いのため先生の自宅を目指すのだが距離が遠すぎ、空腹と心細さで泣きながら歩き続ける場面は前半の山場である。僕も「小さな島だろう」と舐めてかかって痛い思いをした経験がある。
沖縄の西表島に旅行したが、宿泊するホテルはフェリーの発着する港とは島の反対側にあった。ホテルから送迎のマイクロバスが来ていたがそれに気付かず、「たいした距離じゃないだろう」と徒歩で行ったが、程なくそれが無謀であることが分かった。1時間ほど歩いたところで足が悲鳴を上げ、たまらず近くの公衆電話でタクシーを呼ぶ破目になった。

もう一つ思い出を書くと、和歌山県のすさみ町を訪れたとき小学校の近くを通りかかったが、運動会が終わった後で子供たちが若い女の先生に「さようならー」と挨拶していた。先生は「さようなら。明日は休みだからね」と応じていて、その光景を見て不意に『二十四の瞳』を連想した。旅先で偶然小さな学校を見つけて、似たように感じたことのある人は多いのではないか。
映画の全編で唱歌(戦時中は軍歌)が流れるのでミュージカル映画の味わいもある。特に印象的なのは、12人の一人で水月楼という料亭の娘・マスノが船上で歌う場面だ。彼女は歌が上手く、音楽学校へ進学する夢を持っていたが家族に反対されて諦めざるを得なくなる。しかし彼女はまだ幸福な方で、戦況の悪化に伴い12人の運命は大きく変わっていく。

12人は男の子5人、女の子7人の構成で、昭和21年時点で生存しているのは男が2人だけ、女は6人である。亡くなったのは男3人が戦死で、女一人が病死。生き残った男で五体満足なのは漁師の吉次だけ。もう一人の磯吉は戦争で失明し、学校の美しい思い出だけが彼を支えている。同級生の名前を呼びながら集合写真を指差す場面は、理屈抜きで涙があふれる。
生き残った女の子の中でラストの同窓会に参加するのは5人で、一人は夜逃げ同然で島を離れて消息不明だと語られる。大石先生の家族も無事ではなく、先生と同居していた母親は亡くなり、船乗りの旦那(死神博士こと天本英世)は戦死、さらに悲しいことに、末の娘が柿の木から落ちて死んでしまう。小さな手には熟していない青い柿の実が握られていた・・・。

娘は空腹に耐えかねて柿の木に登ったのであり、今でいう「戦争関連死」であろう。大石先生は娘を弔いながら、その行動力を褒めてやる。ハッキリとは語られないが、戦争で痛ましいのは戦死者だけでなく、多くの生きられなかった命があるということ。死んで靖国神社に行けるとか関係なく、二度とあってはならない犠牲であること。そんなメッセージがすんなり胸に入ってくる。
「アカ(共産主義者)」という言葉が頻繁に登場し、大石先生は軍隊に入りたいという男の子の命を気遣う発言をしただけで、アカだと陰口を叩かれて校長から注意される。校長も「こんな事は言いたくないが、時節柄仕方なくて・・・」と不本意という表情だ。教え子の生存を願う、教師として当たり前の思いさえも非国民扱いされる、そんな時代が再び来てはいけないのだ。

昭和3年から21年までの長く激動の期間が描かれ、上映時間も2時間36分ととても長い。ロングで捉えた美しい風景の中を、人々が画面の端から端まで移動するのをじっくりと映し、卒業式の場面では「仰げば尊し」が3番までフルコーラス流れたりする。最近の映画で観慣れた早い展開と短いカット割りだけでなく、ときにはゆったりとした映画の流れに身を任せてみるのもいい。
最後に映像の美しさを挙げなければなるまい。特に印象に残るのが、教師に復帰した大石先生が自転車で通勤するラストシーン。雨の中でレインコートを着て自転車を走らせ、バスが来ると道端に寄って停車し、上り坂では自転車を押して歩く。次第に天気は回復し、大石先生はレインコートのフードを脱ぐ。最後に現れる青空が、白黒映画なのに色が付いているように思えた。

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