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血槍富士 (1955)

監督
内田吐夢
  • みたいムービー 5
  • みたログ 66

3.81 / 評価:31件

辛酸を嘗め帰国した内田監督の復帰作は異色

  • yam***** さん
  • 2020年6月4日 8時50分
  • 閲覧数 170
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

満州で辛酸を嘗め帰国した内田吐夢監督の戦後復帰第1作
東宝の七人の侍の翌年に公開された東映の異色時代劇

異色その1

奴さんである初老の槍持という異色の主役

異色その2

酒が入ると大暴れ、でも優しい、でも虚飾に満ちた武士階級にうんざり、でも生き方を変えられない、という複雑な人物造形の異色の若侍が準主役

異色その3

「旅は道連れ世は情け」を地で行く、庶民や旅籠の姿を丁寧に描く異色のロードムービー(徒歩)

異色その4

「ぐだぐだの大立ち回り」が逆に胸に響くという逆説性





関ケ原で神君家康公より下賜された名槍が安物の偽物だった…
泥棒を捕まえたのは自分じゃないのに侍だからという理由で表彰された…
「お茶碗を江戸に届ける」というしょーもないお使いに出された…
身売りされそうな娘を助けたいけど、何もできなかった…
大名行列をバカバカしいと思う…
大名の野点のために街道が閉鎖されて迷惑だけど何も言えない…

もういろんなことが積み重なっていろいろ嫌になって酒に逃げる若侍
これまでも酒で失敗を繰り返したのだろう、隠居の父から酒は止められているのに…
その優しさと弱さが仇になり、命を落とす
「下郎といえども人間だ」という正論を吐きつつ、新しい時代を見ることなく空虚に死んでいく
彼の姿に戦争で散っていった若者たちの姿を重ねてしまう


そもそも槍持の仕事は主人に槍を手渡すことであり、自分が戦うことではない
おそらく槍の使い方など一度もトレーニングを受けたことなどない
しかも体力下り坂の初老のおっさん
そんな男が主人と仲間の仇を討つため5人の侍相手に大奮闘
その無様な戦いっぷりは、胸に迫るものがある

『内田吐夢監督は片岡千恵蔵に「素人らしい無様な殺陣」を求め600フィート(約7分)フィルムを回した。千恵蔵は当初そんなに長く立ち回りしても見るやつはいないと大反対したが、出来上がりを見て感嘆したという。かれはこの熱演でブルーリボン大衆賞を獲得した』(DVD付録より)

ただ殺陣シーンには、黒澤映画のような、刀が肉を斬って血が飛び散るような痛さやリアル感は感じられない

浮浪児の次郎に「おいら槍持になりたい!」と言われたときの、どこか得意げで嬉しそうな顔
旅芸人母子が「端唄奴さん」を演り始めた時の、どこか気まず気で恥ずかしげな顔

士分でもなく平民でもない、中間の男の矜持と屈託を片岡千恵蔵は2人の実子と共演しつつ見事に表現している

ラスト近く、斬殺された主人の遺骸を抱きしめ号泣する権八、彼の行動は忠義と言うよりも、弱く優しく正しかった若者への無条件の愛情と彼の無駄死にへの爆発的な怒りを感じさせるシーンだった




①庶民階級の心の交流を描くハートウォーミングなストーリー

•槍持の権八、弟分の源太、旅芸人母子、浮浪児次郎の交流
•よってたかって泥棒を捕まえる助け合い
•困窮する与茂作とおたね父子とそれを助ける見ず知らずの藤三郎
•小間物屋伝次と藤三郎の不思議な縁

②武士階級の虚飾と暴力性を描くバカバカしくも殺伐としたストーリー

•街道を堰き止め風流に野点をするバカ殿たち
•大名行列とぶつかりてんやわんやの家来たち
•急な雨に降られ風流もへったくれもなくなり大混乱
•庶民に土下座を強いるはた迷惑な大名行列
•酩酊し女に狼藉を働く5人の侍のダメさ加減
•ちょっとした言い合いからすぐ殺し合いが始まる短絡性

2つのストーリーの交点で2人の奴さんがひどい目に合う、そんな奴さんの喜怒哀楽を2人の名優が熱演している

追いすがる次郎に「槍持なんかなるもんじゃない」と言い捨て去っていく権八

戦争を経験した製作者たちが作った、「痛快」でも「娯楽」でもない、不思議な余韻が残る名作だった


端唄「奴さん」
奴さんだよ エー奴さん どちらゆく
ハアー したこりや 旦那を迎えに
さても寒いのに 供揃(ともぞろえ)
雪の降る夜も 風の夜も
さて お供は辛いね
いつも奴さんは 高ばしょり(高端折)
アリヤサ コリヤサ それもそうかいな

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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