ここから本文です

新・平家物語 (1955)

監督
溝口健二
  • みたいムービー 9
  • みたログ 155

3.39 / 評価:33件

溝口監督が合戦もの時代劇を敬遠した理由

  • Kurosawapapa さん
  • 2011年6月20日 8時21分
  • 役立ち度 22
    • 総合評価
    • ★★★★★

まず、本作を見て驚いたのは、他のレビュアーさんも述べてらっしゃいますが、
まったく溝口監督の作品とは思えないことです。

この映画は、平清盛(市川雷蔵)の青年時代を描いた作品。

貴族から見下されている武士階級の1人として、若き清盛が次第に貴族階級を打倒する、
また、自分の本当の父親が誰なのか、清盛の出生にまつわる葛藤の物語になっています。


本作は、勇猛果敢な男性主人公を主軸に据えた、歴然たる時代劇であり、
日本人の目から見ると、よくあるタイプの作品ですが、
ダメ男の哀れを描く溝口映画としては、通常、このような男性像はありえません。

一方、登場する女性たちも、
平清盛の妻となる時子(久我美子)は、聡明、清らか、芯の強さを持った溝口映画に登場する女性像に近いのですが、悲劇をともなわず。

また、清盛の母(木暮実千代)は、祇園の遊女だった女性で、我が子を平気で捨ててしまうようなところがあり、これは通常、溝口映画の男性像です。

これまで鑑賞してきた溝口映画の流れを汲むと、完全に異色。



おそらくこの映画は、前作の「楊貴妃」に続いて、海外進出を意識し、エキゾチシズムを追求した作品であったのかもしれません。

胸元を大きく開けた木暮実千代の着物姿は、当時の衣装としては考えにくく、
また、清盛の付け眉毛もあまりに大胆過ぎ、これらも皆、海外向けのような気がします。


カラー作品も、溝口映画の中では、「楊貴妃」と本作の2本のみ。
次作の「赤線地帯」では、再び白黒に戻しています。

溝口監督自身、色彩に対する配慮はあまり無く、
カラーは、かえって規制される始末におえぬもの、という考えがあったようで、
この2本だけは、海外向けの特別仕様だったのではないでしょうか。




*本作の特徴の1つに、群衆を映し出したことがあります。

これほどの群衆を動員したのは、溝口映画史上初めてで、黒澤映画のような人々の熱気と、生きる力強さを感じさせます。

クライマックスのシーンは、数百人のエキストラを動員し、実際に比叡山の山麓にて撮影したとのこと。


== 溝口作品を紐解くキーワードその19 「クレーンの使用」 ==

以前、「雨月物語」レビューで、 “俯瞰の構図” について述べましたが、
俯瞰と言えば、やはりクレーンの使用です。

溝口監督があまりにクレーンを愛好するので、女優さんたちが、「溝口監督のお葬式の時にはクレーン車を葬式行列に加えよう」と、冗談を言ったこともあるそう。

本作は、群衆を動員した歴史映画であるため、やはり必然的に俯瞰図が多くなり、クレーン撮影が多用されています。

また、溝口監督と言えば “ワンシーン・ワンショット” 。

例えば、日本家屋の塀などは一般に低いので、カメラをクレーンに載せ、ちょっと上昇させるだけで、全体像を映し出し、昔の絵巻物のような構図を作り出すことができます。

戸外から塀の中へ、庭から廊下へ、廊下から部屋へと、
俳優の動きに合わせ、ワンショットで長時間追い続ける。

空間を滑り渡るクレーン撮影は、
溝口監督のワンシーン・ワンショットには、絶対に欠かせないものでした。

==========


*本作のもう1つの特徴は、
武士が中心となった権力争いの物語でありながら、一滴も血を流していないことにあります。

時代劇、それも群衆まで動員すれば、やはり合戦や立回りが魅力となるもの。
しかし、溝口監督は、スペクタクルを期待した観客を堂々と裏切った、
その理由は、
「人を斬る場面を、現実的に撮ることは不可能だから」 だそう。

考えてみれば、その通りであり、
実際に刀で斬られるところなど誰も見たことがなく、想像も、しにくいもの。

溝口監督は、「元禄忠臣蔵」でも、ヤマ場である討ち入りの場面を撮っていないそうで、
やはり「不承知なるものは撮らない」という信念があったのでしょう。

文学、歴史、美術など、徹底的に勉強、全てを知り尽くした上で映画制作に取り組んだ、
溝口監督ならではの考え方かもしれません。

本作が作られた1年前の1954年には黒澤監督の「七人の侍」、
また、マキノ監督の次郎長シリーズや、丹下左膳シリーズなどが盛んに作られていた時代に、
他の監督と、全く対照的だった溝口監督。

彼の “平和主義” と “現実主義” を伺い知ることができます。
(MIZOGUCHI:No19/20 )

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 悲しい
  • 不気味
  • 勇敢
  • 切ない
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ