レビュー一覧に戻る
自分の穴の中で

bakeneko

5.0

ネタバレ僕の会社は機関銃を作っているんだよ

石川達三の原作が描いた“占領から独立後の1950年代中盤の日本の状況と日本人の心境”を、中国から帰国後の内田吐夢が映像化したもので、10年ぶりに帰国した監督の客観的な視点が戦前と比べて大きく変わっていった日本を浮き彫りにしています。 戦前の“自分勝手を言わないでみんなのために頑張ろう!”的な無私集団主義から、 戦後の“自分自身の場所で、自分にだけ住み心地の良い穴をつくって、その穴の中で自分だけの考えに耽り、自分勝手な行動を楽しんで何が悪い!”的な小さな個人主義に行動基準が変節した日本人の心境と、アメリカや英国資本の傘下に組み入れられて巨大な資本主義陣営の歯車となっていく国家としての日本の状況を華燭なく描いた作品で、殆ど全ての登場人物が、エゴイズム&執着心&無気力&虚無主義…といった肥大化した自我に翻弄されて行く様を、朝鮮戦争以降軍事景気に沸いている(実は軍需産業が復活している)日本の繁栄の中に活写しています。 複数の登場人物達が、少しも誇張やディフォルメされていない“等身大の人物”として綿密に描かれていることがこの物語に普遍性を付与していて、幾人かのキャラクターのどれかが観客自身の気質や行動との類似性を思い当たらせる作品となっています。 三國連太郎、宇野重吉、金子信雄、北原三枝、月丘夢路らの心理の絡み合いを絶妙に掬い取った演出が光る作品で、旧来の日本と日本人の変節点を描いてチェーホフ劇作の様な重い感慨をもたらす映画であります。 ねたばれ? あの医者は変えた方が良いと思う。

閲覧数793