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生きものの記録

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4.0

一筋縄ではいかない

基本的に流れるように素朴に撮られた映画なのだが、時折コメディのようにわざとらしく演出されている瞬間があり、一筋縄ではいかない作りとなっている。 これは反原発映画というより、1人の気の狂った憐れな老人の奇行の顛末と、それに巻き込まれる常識人たちの言動を冷静に描いた映画だ。 記録と題されたタイトルの通り、あまり感情移入をさせない客観的な視点なので、どちらの側に立つべきか、観る方によって変化するのではないだろうか。 老人の意見は、東日本大震災を過ぎた今だからこそ正当に見えているが、実のところ家族を守りたいという感情論でしかなく、後先を考えた計画とは言い難い。水爆、原発の被害規模はもはや取り返しのつかない場面まで来ている。逃げるでは解決しないのである。 しかし、老人はそれでも、何としても周りを生かしたいのである。その意味不明なまでと利他行動が、私たち観客の倫理観を混乱させ、社会常識では答えようのない普遍性を持ったテーマを浮かび上げているのである。 ネタバレになるので詳細は言えないが、老人の顛末はひどく憐れである。しかし中途半端に幸せになってしまうと、まるで絵空事のような嘘っぽいメッセージになってしまい、客観性を欠いてしまう。黒澤監督は、観客がどのような答えを選ぶのかを、この曖昧な結末で自由にしたのだろう。 最後に全く関係ない話。これだけ飾りっ気の少ない映画が、Yahoo映画の解説欄では異色作と紹介されている。黒澤監督がどれだけ珍作スレスレの不可思議な映画ばかり作っていたかがよく分かる。

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