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妻の心

ootutaro

5.0

★昭和30年代初頭の雰囲気に浸れる

●ありふれた題名からは想像できないほど、よく出来た映画だ。「さすが成瀬巳喜男」と思わせる作品。高峰ファンでなくても、この映画の評価は高いと思う。 ●どこの家庭にもあるような小さなトラブルをめぐる夫婦間の感情の機微を、細やかに丁寧に描いている。そうした監督の要求に俳優の演技力が見事に応えている。このまま、現代劇に置き換えても、十分に通用する脚本、演出だと思う。本来、ホームドラマとはこういうものだったのかも知れない。 ●ついこの間まで現役で活躍していた俳優たちの、20歳代、30歳代の姿を見るだけでも十分に楽しめる。高峰秀子はこの時31歳だが、彼女の知的な美しさは最高潮に達していたのではないかと思える。中北千枝子も上品な美しさを漂わせているが、高峰の美しさに負けて目立たないのが不思議だ。驚くのは根岸明美が出演していること。この時、20歳前後だと思われる。三船敏郎も銀行員の役で出ているが、三船の演技力の幅広さに改めて感心する。「羅生門」や「七人の侍」で見せた粗野な役柄と、この映画や「静かなる決闘」、「醜聞」で見せた知的な雰囲気は、とても同じ俳優とは思えない。三船は知的な役柄のほうが合っているのではないかと思う。その他、杉洋子のマニッシュな雰囲気も実にいい。小林桂樹や千秋実などは、若い頃からあまり雰囲気が変わっていないと思う。そうした変化を見るのも楽しい。 ●映画全体を通して随所に映し出される風景、特に昭和30年代初めの地方都市の町並み、たたずまいなどは、この時代に生きた人間にとって郷愁を誘うには十分過ぎる。古い商家の台所や食器棚、鏡台、遠くの親戚が訪ねてきたときの挨拶のしかた、新装開店の薬局前で休憩する「チンドン屋」の姿、街角のホーローの看板など、とても懐かしくなる。 ●余談だが、昭和32年頃から「セルフ方式」の店舗が流行しはじめて、商店街の様子が大きく変化する。この映画では、そうした変化が起きる直前の地方商店街の様子を見ることが出来る。現在、50歳代以上の人は必見だと思う。見て郷愁に浸ってください。

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