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わが町 (1956)

監督
川島雄三
  • みたいムービー 1
  • みたログ 46

3.56 / 評価:16件

長生きだけが人生だ!

  • yam***** さん
  • 2021年9月7日 9時06分
  • 閲覧数 44
  • 役立ち度 3
    • 総合評価
    • ★★★★★

「人間は小さい頃から身体を責めて働かなきゃいかん」が口癖の明治男、他吉。
彼の誇りは、1500人のうち約半数が死んだという、過酷なフィリピンの道路建設工事に従事し、仲間を叱咤激励し完成に貢献した成功体験です。

凱旋帰国してからも、なにかにつけてはフィリピンがー、フィリピンがーと口にし、周囲にうざがられます。

本人に悪気はないのですが、力ずくで相手を押さえつけるような彼の強引な言動が、家族に次々と不幸を引き寄せてしまいます。

若くして死んだ娘夫婦の忘れ形見である孫娘を男手一つで育てること、それが他吉の生きがいです。

字の読めない他吉は、唯一の資本である身体を酷使し、人力車の車夫として働き続けます。

時は流れ、23歳になった孫娘とのケンカのシーン。
言うことを聞かない孫にカッとなって頬を張る他吉、負けずにすかさず張り返す孫。

「一人だけえー気持ちになって、みんなの幸せを邪魔ばっかりしてきたんや!うちだけは自分の幸せをおじいちゃんに邪魔されたくないねん!」

ついでに孫の彼氏からも痛烈な一撃を浴びせられます。

「フィリピンフィリピンって、あんただけがいい気になっても、あんたが引き止めたせいで死んでいった何百人の男たちの家族からは恨まれているんじゃないですか?」

冷静なつっこみにぐうの音も出ず泣き崩れる他吉。
ついでに若いチンピラにも因縁をつけられボコボコに。
若い頃は無敵だった肉体派他吉も寄る年波には勝てず、孫の世代に完全敗北。

他吉は、負けて初めて自分の人生を客観視し、胸襟を開きます。
若い孫娘と彼氏あてに手紙を書いた他吉は孤独な死を迎え、映画も幕を下ろします。


日露戦争の戦勝祝いに沸き立つ明治38年から戦後の復興期まで、映画の中では約50年近くの時間が過ぎていきます。

住人が年を取り入れ替わっても長屋の風景と暮らしぶりにはほとんど変化が見られません。
強いてあげると、ランプが電灯に変わったくらい。

ケンカをすれば隣のおっさんが庭越しに駆け込んでくる、そんなプライバシーもへったくれもない暮らし。
この長屋をオープンセットで再現した美術も素晴らしい仕事をしていますし、コミュニティの同世代、殿山泰司、北林谷栄の二人の演技も素晴らしい。

他吉と家族には、この長屋の暮らし、助け合いや人情があってこそ。
強烈な意思と意地の塊、他人の助けを嫌う自助男の他吉を、この町と長屋は優しく包んでいます。
老いてなお強気の彼も、生きる糧である人力車を奪われると、生きる気力を失います。

個人の自由とプライバシーを手に入れ、清潔な住まいを手に入れ、手厚い公助や医療福祉の提供を受け、コミュニティも家族も壊れ、孤独をSNSで、情緒不足をアニメや映画で癒やす現代の日本人。

タバコもウィスキーも取り上げられ、免許も返納させられ、常時見守りの病院や施設で優しい職員に囲まれ死を迎える世界一長寿の現代の高齢者。

意地を張り通して一人さびしく南十字星を見上げながら死んでいった他吉と、「長生きだけが人生だ!」のわれわれ、果たしてどちらが幸せなのでしょうか。

33歳で早逝した小説家の原作を45歳で早逝した監督が撮った本作は、老後の生き方について考えさせてくれると同時に、日本人の過去の暮らしを知るための貴重な記録映像でもあります。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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