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乳母車

乳母車

110

サラダ

4.0

戦後日本の精神的成長の象徴

子供まで作ってしまった不倫モノだが、怨念渦巻く愛憎劇ではなく、本質的には若者の精神的成長を描いている。 見るからに育ちが良さそうで純真可憐な芦川いづみはまさにピッタリの配役だし、裕次郎も口は悪いながら家族想いの好青年を爽やかに演じており、作品的にはドロドロした所がなく、終始微笑ましく観ていられるところが時代を越えて新しさも感じる。 劇中の台詞…………「言いたいことも言えずにジッと我慢しているしかしようがない。〈あなた任せに生きてる女〉は、きっと幸福にはなれない。」 「女全体に言える事ですが、女性の誇りというものを、もっと大事にしなくてはならない。」 ………自由にモノを考え、モノが言えなかった時代を経てきた日本に、新しく力強い風が吹き、高度経済成長の波に乗ろうとする気運が作品の背景に感じられる。 リアリティな見方をすると話やキャラに無理を感じるかも知れないが、若者はストレートに親世代に考えをぶつけ、親世代も自身の生き方を反省して悩みも正直に吐露する。 複雑な物語ではあるけれど、不思議と清清しささえ感じる映画で、意外に日本映画史において希少な位置にある作品かも知れず、まだ未見の方は他人のレヴューを読むだけで観るのを諦めないでほしい。本作はスキャンダラスな作り方を目指したものではなく、誠実さが感じられる。 不義の子とは言え、罪のない一人の赤ちゃんをどうやって幸せに育てられるかを、関係する大人達が一生懸命に考える。 タイトルの乳母車とは、逃げずに真摯に向き合う誠実さの象徴のような気がする。

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