レビュー一覧に戻る
東京暮色

shinnshinn

3.0

ネタバレこれは観客が好きな小津ではないよ。暗い。

1957年公開で、<松竹の至宝>小津安二郎監督作品。氏の最後のモノクロ作品だそうです。BSでの初見でしたが、デジタル修復版なので音声や画像がキレイで見やすいのがありがたい。本作の「東京暮色」もそうだが、題名に東京が入る作品が5本もあるので、小津監督はよほど東京が好きだったと見える。 ウィキペディアを読むとジェームズ・ディーンを世に送り出した代表作「エデンの東」(55)の小津的な翻案だったと書いてある(質感があまりにも違うので意外です。本当だとしたら、実に面白い。映画は巡り巡るのだ)。父親と娘二人、3人家族のお話で、母親が不貞の末、幼い子供2人を置いて家を出て行ってしまったと言う設定のみ、ハリウッド映画より拝借したものと思われる。 本編は140分と長尺で、BGMはいつも通り明るいのだが、映画全体のトーンが総じて暗くて重い。小津独特のユーモアが控えめで、どうにもバランスが悪い。重いテーマをつとめて明るめに撮ろうとはしているが、ファンが求めるハツラツとした、前向きで健全な作風からは逸脱しているかもしれない。本作はキネマ旬報日本映画ランキングでトホホの19位だったらしい(当時の小津監督にしては、尻餅を付くぐらいの大空振りと言っていいだろう)。 亭主との折り合いが悪く、赤ん坊を連れて実家に帰ってきた長女とか、学生との間で妊娠してしまい苦悩する次女とか、敗戦からわずか12年目の、戦争で散々苦しい生活を強いられて来た日本人には、お金を払ってまで見たいと思うほど、明るい内容の映画ではなかったのかもしれない。 いつもはエリートサラリーマンや教授役の中村伸郎が、珍しくジャン荘のオヤジ役で庶民的です。いつも明るく前向きな役が多い原節子(長女)も本作では何やら恨みがましく表情が暗い。次女の有馬稲子も笑顔ひとつ見せず、人には言えないストレスを抱えている(当初のキャスティングは岸恵子だったらしい。こっちでも見てみたかった)。ちなみに、二人姉妹の母親役が山田五十鈴で、実年齢は原節子と3個しか違いません。言われなければ違和感がないのだが、昔の女優さんは役年齢の巾が広いのか?。子供を捨てた母親役の山田五十鈴の力まない芝居が印象的(「エデンの東」(55)のジョー・ヴァン・フリートは強烈にアクが強かった・笑)。 いわゆる、松竹大船調、情緒的な小津調と言われるものは健在なのだが、いかんせん、暗めのお話が140分と続き、観客の気分がウキウキする事はないのが致命的。ラストはいつものように笠智衆が淡々と会社に出勤する後ろ姿で終わるのだが、お話の重さゆえ、観客にはその飄々とした愛すべき笠智衆をもってしても、スッキリとした終幕には昇華出来ていないのではないか。娘が死んだにもかかわらず、その日常スタンスを変えない父親に、言外に込められた深い悲しみを感じ取れというのが監督のネライだったのかもしれないが、ちょっと文学的過ぎたのかも・・・。ベタかもしれないが、ここは父親の静かな嗚咽でいいだろう。「はい、ここで泣いて下さい!」という、いかにもの<邦画的浪花節>を嫌ったのであれば、それはそれで、ハイカラな小津的と言えば小津的なのだが・・・。二度三度と観返せば、また印象が変わってくるかもしれない(今なら再評価の声が上がってもおかしくはない作品なのか?なんたって世界の小津なのだから)。と自分ながらにエラそうだ(笑)お前に小津の何が分かるのだ。スイマセン。

閲覧数1,257