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東京暮色

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5.0

小津が撮りたかった東京

小津らしくないのではなく,小津が本当に撮りたかったのはこれだと思う。興行面を犠牲にした,作家性の強い芸術映画だ。小津は 1950 年代半ばの東京の現実そのものを表現した。人生のさまざまな苦悩をよそに時は流れてゆく。妙に明るくそぐわないように感じられる音楽も,かえって切なさを増幅させる。米国の高齢の女性がこの映画を観て,アメリカも昔はこんなだった,演じているのが日本人なだけで,女の苦しみはどこも変わらない,と評したという。小津が目指した普遍性は実現していたのだ。一般に多くの人が小津映画に求める要素は,小津が意図的に提供したものだったのだろう。 前半はやや展開が遅く,間延びしている。また,カーテンショットにたびたび現れる,五輪より前の東京の風景はおそらく美化されている。日没前後の 1 時間は 「マジック・アワー」 で,世界が最も美しく見える時だというのは小津より後の説だが,小津と撮影監督とはそのことを知っていたかのように,実際は小汚かったはずの東京を,夕暮れの光の中に甘美に描いている。ただ,これは映画には必要なことだ。ズビャギンツェフは荒涼としたロシアの風景を実に美しく描く。現代の日本映画は総じて画面が汚い。どうにかならないものかと思う。

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