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抱かれた花嫁

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5.0

粋な母子たち

 こういうのをロマンティック・コメディというのかもしれない。台詞のほとんどが軽口を叩くような軽快さを持っている。テーマは母子との恋をめぐる行き違いであるが、陰湿な闘いはなく、すべて陽性である。我々が喜劇によりリアリティを感じるのは、現実に生きる我々の実感だろう。人と人とは会う度、軽口を叩きあって生きている。深刻な顔をして世渡りはできない。それが処世術というのは誰でも心得ている。  女手ひとつで浅草の寿司屋を営んできて、我が子を思う通りに動かさなければ気のすまない母親、佐々木ふさ(望月優子)は長女和子(有馬稲子)に相談することもなく、縁談話を進める。和子の方も、開けた性格で、表立った反対をしないで軽くあしらっていけるだけの余裕がある。実は、和子には福田健一(高橋貞二)という将来を誓った男がいた。福田は動物学を専門として、動物園の動物を管理する仕事に就いているが、和子を引っ張っていくほどの雅量を持たないのが玉に疵であり、和子がむしろリードするような仲である。その健一を慕う女性がもうひとりいて、話は難しくなる。映画女優の成り立ての富岡千賀子(高千穂ひづる)であった。  長男、保(大木実)も劇場に脚本を提供する仕事をしているが、収入が不安定で、妹、和子に無心するほどで、母親の心配の種になっている。母親は次男、次夫(田浦正巳)が勉強家で、外交官を目指す秀才だと思い、期待をかけていたのだが、ある夜、料理屋で劇場のレビューを担当する若い女(朝丘雪路)たちと馬鹿騒ぎの食事しているのと鉢合わせになった。母親は次夫に失望し、諄々と説教する。  この母親も実は、若い頃にオペラのテナー歌手、古島東陽(日守新一)と恋の炎を燃やしたことがあったが、成就せず悲恋に終わった過去を持っていた。母親はその古島が久々に浅草で歌を披露しているのを知り、劇場へ足を運び、青春の灼熱の恋を偲んだ。古島と会って、言葉を交わすと、古島は子供の恋を邪魔しないで育んでやろうと持ちかけるのだった。  寿司屋の板前を演じる桂小金治は落語で鳴らした小気味良い口調がこの映画の喜劇性を決定づける役割を演じているのが目につく。母親役の望月優子は、大黒柱としての肝っ玉ぶりをうなるほど上手く演じている。有馬稲子は悲劇的な女性より、こういう陽性で華のような役割が本領ではないかと思わせるほど実に可愛い。エンターテインメント性と母子の交錯を粋に描いてみせる、いい映画だと思った。

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